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スタートアップこそ活用すべき銀行融資という選択肢 〜8億円調達の裏側〜

このプレスリリースの通り、総額8億円を銀行借入等で調達しました。これまでのエクイティ調達総額に近い金額で、がっつり攻めたデットファイナンスとなりました。

今回の調達活動は、最初は4ヶ月ぐらいで終わるだろーと甘く見てたのですが結局1年かかったし、当初の目論見が大きく外れて誰も貸してくれない事態になりかけたりと、とにかく苦労する中、途中でいろんな人に助けてもらいました。この記事では、どこに苦労したのか/何に戸惑ったのかといったところを解説します。スタートアップ各社で事情は様々ですが、検討する論点はだいたい同じかと思うので、誰かのお役に立てればうれしいです!

貴山敬 (@tkiyama)


本記事の前提:赤字会社への無担保無保証融資

本記事は、赤字を掘ってるスタートアップ向けの無担保無保証の融資、というのを前提にお話します。

スタートアップといっても色々あり、黒字化しているところや、売掛金や固定資産を担保で提供できる企業もあります。その場合は銀行側のスタンスが全然違ってきます。

無担保無保証、しかも赤字会社というのは、銀行からするとものすごい条件が悪いです。回収見込が不確実なのでいきなりの要注意先にランクインしてしまう。よく言われる、銀行がリスクをとらない云々というメンタリティの話ではなくて、様々な規制にしばられた銀行にとってスタートアップ向け融資は通常のスキームとは違う、という基礎理解が大事です。

登場するプレーヤーがとても少ない

必ず名前が出るのは、静岡銀行/あおぞら企業投資/商工中金/みずほ銀行/日本政策金融公庫です。その他、三菱UFJ銀行/東京スター銀行/新生銀行/スタートアップ・デットファンド、の名前が挙がります。

逆に言うと、名前がでてくるのはこのぐらいで、数百社もあるVCと比べると、ものすごく少ない。この層の薄さが銀行にとってのスタートアップ融資の難しさを物語っています。構造上、後述の「みんなで貸さない」があり得るので、1社でも失敗するとダメージが大きいです。個社ごとに綿密に準備して攻略しましょう。

ちなみに各社で融資方針はかなり違います。支店や担当者によっても違うけど、そもそも銀行としてポリシーが異なる。

黒字化の蓋然性をしっかりと説明できる資料を作る

VC出資と違って、銀行は融資資金を期限どおり回収する必要があります。
したがって、銀行側の視点だと、確実に回収できるだけの現金を作れそうか、その手当ができているか、というのが最も重要です。

スタートアップ側からみると、返済原資は次回エクイティファイナンスか、黒字化のどちらかとなります。現実的にはエクイティファイナンスとなることが多いですが確実なことは言えないので、黒字化計画が大切になるわけです。

事業計画は2種類必要

スタートアップであればみなさんイケイケの事業計画を作っているかと思います。我が社ももれなくだいぶ強気MAXですが(笑)、銀行向けにはコンサバな黒字化計画が必要です。

イケイケプランを見せると「その心意気はよいけど、確実に返済できるラインを知りたいので早期黒字化プランだして」となるわけです。

もちろん銀行向けに態度を変えるということではなく、イケイケプランと早期黒字化プランと2種類作って両方提示して考え方をしっかりと説明した方がよいです。スタートアップ側が提示した事業計画をもとに銀行側で独自試算していることもあります。

ちなみに、銀行によっては「早期黒字化プランとかいらんからアップサイドを見せてくれ」というVC目線の人もいたりします。

「みんなで貸す」か「みんなで貸さない」の二択になりがち

私が最初一番勘違いしていたのがこの点。

もちろん他行の動向は気にしつつも、各銀行は独自に融資判断するんだろうと思っていましたが、必要な金額がそれなりに大きいと、実際は「みんなで貸す」か「みんなで貸さない」の二択になる傾向が強いです。

前述の黒字化の蓋然性のところと強く関係するのですが、銀行としては返済される確実性が重要です。例えば黒字化(もしくは次のエクイティ調達)までに2億円必要という計画をスタートアップ側が立てていて、A銀行が0.5億円まで出せる場合、残りの1.5億円を誰かが貸す状況でなければ、A銀行は単独では貸せません。つまり、A銀行としては他銀行の融資額が合計1.5億円以上なら貸すし、1.5億円未満なら貸さないよ、となってしまうわけです。

銀行あるいは担当者によって温度感の違いはあるものの、構造的に二択になりがち。

銀行側の本店スタートアップ支援部門/支店/担当者

各銀行によって方針は結構違うので、どの部門の誰に、誰の紹介経由でアプローチするのかが大事です。

・本店のスタートアップ支援部門がイニシアチブを持つのか、支店をサポートするだけなのか
・スタートアップ融資は特定の支店に偏っているのか
・スタートアップ向け融資の全社方針があるか
・融資の基本条件は何か(金利/返済期間/金額のロット/新株予約権などが変数)

といったことが、銀行によって結構違います。

公庫は特別

全般的に各種条件が良いので日本政策金融公庫(「公庫」と略す人が多い)は超重要というのはみなさん同意するところかと思います。

ただし、事業部の違い/複数の融資商品/コミュニケーション方法、といったところがユニークなので、アプローチする前に最近公庫から融資を受けたスタートアップにヒアリングして作戦を練るのがおすすめ。

ベンチャーデット(新株予約権つき融資)と引受率

最近流行ってきたのが新株予約権(SO)つき融資で、ベンチャーデットと呼ばれます。
(ベンチャーデットという名前がどうしてSO付き融資の意味になるの?というのは誰か教えてほしい)

詳細は後述の勉強資料を見てもらうとして、なじみがない条件が「引受率」です。引受率とは、融資金額の一定割合をSO発行するときに使われる用語で、融資金額の一定割合の金額に見合うSOを発行することを指します。

例えば、「融資金額の一定割合の金額」が3,000万円で、SO行使価額が1万円の場合、3,000株分のSOを銀行向けに発行します。

通常融資であれば金利/借入期間/融資額が交渉ポイントになりますが、ベンチャーデットはそこに引受率が追加されるので複雑になります。

あと見落とされがちですが、新株予約権を発行することになるので契約書がそれなりの枚数になり、ややこしい条項もあったりして、株主総会と登記も必要です。一連の確認/交渉/諸手続きは結構な手間で、弁護士費用もかかります。通常融資と比べるとすごいたいへん。

前回エクイティファイナンスからの経過期間

手元現金がある方が銀行からするとリスクが低いので融資のハードルが下がる、という点に加えて、ベンチャーデットのときのSO行使価額をいくらにするかの判断にかなり影響があります。
最近は、エクイティと同時にデッドファイナンスをするスタートアップが多いのはそのタイミングが一番借りやすいからと言えます。

スタートアップ向けデットファイナンスの勉強資料

スタートアップの銀行借入はまだまだ公開情報は少ないですが、以下の記事(と今回の記事)を熟読すればだいたいの感覚は掴めるかと思います。以下の記事はぜんぶ要熟読。

さいごに

色々書いたのですが、スタートアップはもっと融資を活用するべきだと思います。多くの状況において、デットを活用しない理由がない。それに、スタートアップを支援するという強い気持ちをもって、VCとは違ったリスクとリターン、法規制のバランスの中で、新しいスキームに挑戦している銀行の方々がたくさんいます。

とはいえ慣れてなかった私としては今回のデットファイナンスはほんとに苦労したので、もしこういうことを事前に理解してたらすごいショートカットできたのに、という気持ちで記事を書いてみました。エコシステムに少しでも貢献できたらうれしいです。
銀行借入での資金調達を考えているCEO/CFO/管理部長といったスタートアップ関係の人でもっと詳しく知りたい!という人がいたら気軽にご連絡ください。

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