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デット調達のトリセツ

スタートアップの資金調達となると、エクイティを第一想起しがちですが、デットファイナンスもやり方によっては調達できる可能性があります。銀行に対して、「どういった説明の仕方や資料の作り方が有効なのか?」を具体的に記事にしたいと思います。

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①なぜデット調達が難しいのか?

一般的に、スタートアップがデット調達をすることは難しい。デット調達をするにあたって難しい理由は複数ある。まずは、「なぜデットファイナンスは難しいのか?」の理由を知ることがファーストステップになる。

銀行が融資から得られるリターン

銀行が融資から得られるリターンは、①約定弁済による元本回収(厳密にはリターンではないが、ここでは元本回収もリターンと定義)、②融資貸付から発生する利息となる。

銀行の融資目線

銀行目線からすると、確実に元本の回収を行う、安定的な融資からの利息を回収することが目的である。デット融資者(銀行)が負っているリスクは、エクイティ出資者に比べると低いため、融資から得られる利息は低くなりがちである。

金利水準は融資先の財務状況や収益性にもよるが、仮に2%で貸し出した1億円の融資を利息のみで元本回収しようとした場合、50年かかることになる。銀行にとって、純粋なリターンは利息のみであるため、確実な元本回収と安定的な融資利息の回収を得たいというインセンティブが働く。

確実な元本回収と安定的な融資利息の回収の必要条件としては、利益が黒字化しているか、安定的に稼げるビジネスモデルになっているのか、きちんと過去実績で確認が可能なのかといったようなことが大事になる。

なお詳細な内容に関しては以下の記事に譲る。

一般的にスタートアップだとデット調達が難しい理由

デット調達に際して、利益が黒字化している、安定的に稼げるビジネスモデルになっている等を過去実績で確認することが大事になるというのは上述のとおりである。
しかしながら、スタートアップでは、Jカーブを描きながら赤字を掘っていき、将来の売上や利益を獲得しにいくというのが一般的な戦略になる。ゆえにスタートアップが資金を必要としている時点においては、赤字企業が多く、将来の黒字化の蓋然性やビジネスモデルの安定性などが大きなネックとなっているケースがほとんどである。これが、デット調達を難しくしている主な要因になる。

②銀行審査を通すにあたっての論点

この章では、銀行の担当者が審査を通すにあたっての論点をまとめる。基本的にはデット調達をするにあたって、必ず論点になる内容であり、会社としてきちんと説明できる材料を用意しておく必要がある。

⑴ 黒字化の蓋然性

既に黒字化を達成しているスタートアップなら、「黒字化の蓋然性」はあまり論点にならないケースが多い。ただ黒字化を達成していたとしても一過性の要因で黒字化していたり、ビジネスモデル的に収益性が不安定なケースでは論点になる可能性があることに留意する。

ここではJカーブを描いていて、現時点で赤字のスタートアップを前提に記載する。

上述した通り、銀行は確実な元本回収と安定的な利息を得たいインセンティブが働く。よって黒字化が将来的に達成されうるのかの蓋然性が大事になる。
じゃあ、黒字化の蓋然性をどうやって説明したらいいのか?に関しては疑問に思われる方も多いと思う。会社のビジネスモデルによりけりで全ての会社に適用されるロジックはないが、一般的な説明の仕方としては以下のような例が挙げられる。

  1. 戦略的に支出しているコストを除外した場合に黒字化が達成できる。

  2. 複数セグメントがあり、某セグメントは黒字だか、某セグメントは赤字である。

  3. 変動費割合が高く、変動費の支出を抑えた場合に黒字化が達成できる。変動費の例で言うと、業務委託、ウェブ広告費など。

上記はあくまで一つの例示であり、企業の状況やビジネスモデルによる。しかしながら、赤字であった場合には必ず黒字化の蓋然性の説明は必須となるので資料の準備が大事となる。

⑵ 返済原資

「⑴ 黒字化の蓋然性」のポイントと被る部分はあるが、銀行に対して支払う元本と利息の返済原資は、事業から稼いだキャッシュフローから返済原資をねん出する必要がある。
銀行は確実な元本の回収と安定的な利息の受け取りを嗜好していることから、返済原資は事業から安定的に稼いだキャッシュフローからでなければならない。

⑶ 資金使途

お金に色はないのが現実。しかし…
現実的にはお金に色はないので、デット調達した資金をどういったものに対して支出したがどうかを明確に紐づけすることは難しい(※ 余談となるが、海外資源投資などの大規模開発かつプロジェクトファイナンスで大型の資金を引っ張ってきているケースにおいては、銀行口座を分けることで一定の色分けが可能であるが、あくまで本記事は一般的な借入を前提に記載している)

お金に色をつけるということが現実的にはできないものの、銀行側としては設定した資金使途以外に対してデット調達資金を使われることは容認できない。分かりやすい例で言うと投資物件購入のために借りたお金を投資物件以外に対して使うことができない等。

デット調達の資金使途は?
資金使途が何であれば容認できやすいか等は銀行によって違う部分はあるが、理論的な考え方を下に資金使途を整理したい。

デット調達の資金使途を記載するにあたって、エクイティと対比しながらデットの性質に着目することが有用。

エクイティ出資者はデット融資者よりもリスクを負担しており、より多くのリターンを要求する。よってエクイティ出資者からすれば、使われる資金がプロダクトの開発資金など成否がはっきりとはしていないが、当たればリターンが大きな成長投資に使われることを嗜好する。

一方、デット出資者にとっては、確実な元本回収と安定的なリターンを得たいインセンティブがあり、融資した資金が開発投資などのリスクが高い資金ではなく、運転資金や売上との因果関係が明確な費用(例えばウェブ広告費等)に使われた方が好ましい傾向にある。

まとめると、以下のとおりになるが、理論的な話を基に最大公約数を取ればそうであろうという前提で整理している。銀行によって資金使途のロジックがまちまちであるし、会社が取り巻く環境も異なることから、デット調達の際には銀行と対話しながら精緻化していくことが望ましい。

資金使途(エクイティ v.s. デット)

⑷ 財務安定性

銀行は、確実な元本回収と利息の回収を行うことが必須となる。よって会社の財務安定性は非常に重要な課題となる。

財務安定性を計る指標は複数あるものの、代表的な値として自己資本比率とネットキャッシュ(有利子負債-現預金)が挙げられる。デット資料の作成にあたっては少なくともこれらの指標を指し示すことが大事になる。もちろん銀行は融資のプロである以上、自己資本比率やネットキャッシュを財務諸表から計算することはできるが、会社側からきちんと意識しているという意味を込めてもデット資料に織り込んでおく方が望ましい。こういった細かいことに拘って資料を作成することで、銀行に与える印象も異なる。

③デット調達のティップス

この章では、デット調達にあたってのティップスをまとめていきたい。

  • エクイティとデットでは、負ってるリスクが異なっている以上、求めるリターンや見ている視点が異なる。そのため、資金調達という大きな枠組みでは同じものの、調達する際のルールが違うということを意識することが重要となる。

  • 調達する際のルールが違うということは、投資家と銀行に対するピッチ資料を分けるべきということになる。当方の例ではあるが、デット調達に際してはエクイティ調達のピッチ資料と同じぐらいのボリューム感で資料を作成してデット調達に臨んでいる。それぐらい気合を入れなければデット調達が難しいと認識しているからである。なお会社としても資金調達だけやっているわけではないので、なかなか投資家用と銀行用に分けて資料を作成するというのは難しい面もあるが…

  • エクイティ調達でも共通することであるが、デット調達は正解が一つではなく属人的な面が大きい。まずは担当者に好かれることが非常に大事。スタートアップのデット調達は銀行の担当者にとって非常に難易度が高く、負荷がかかる。その中で、同じ船に乗って一緒に荒波を乗り越えなければならないが、まずは好かれないとデット調達をやりたいと思ってもらえない。

  • 事業計画の策定する際、きちんと細かく説明できるように売上のKPIへの分解や細かなコスト構造への落とし込みが大事となる。細かく作ることによって、黒字化の蓋然性であったり、自社の戦略の解像度が上がることにも寄与する。元々将来の予測数値である事業計画は不確実性が高いものの、銀行にとっても精緻に作ることにより、より透明度が増し安心感にも繋がる。

④最後に…

まだまだ、今回のnoteでは書ききれないぐらい伝えたいことがたくさんありますが、基本的なデット調達のロジックに関しては書ききれたと思います。

エクイティ調達は大事であるものの、エクイティ調達は打てる球が限定的であるため、デット調達を組み合わせることで出来る限りダイリューションを抑えていく事が有効かと思います。

スタートアップにとって、デット調達はエクイティ調達よりも難しい側面があります。しかしながら、戦略の立て方によってはデット調達は可能ですので、皆様の理解の一助になれば幸いです。

本noteで記載した内容は、当方が調達実務をやっていた中で感じたことや学んだことを体系化していますので、全てのデット調達で適用できない部分や理解に齟齬がある部分もあるかもしれません。その際は、ご指摘頂きまして、議論させてください!

なお今回は、あくまで一般的な融資を想定したnoteになっています。最近では私募債、レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)、ベンチャーデット(SO付き融資・転換社債等)といった一スキームもスタートアップで活用ができるようになってきています。実務の中で、そういったスキームも検討したことがあり、また別のnoteにて書きたいと思います。

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