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総額54億円の資金調達、舞台裏を語ります(デット編)【後編】

Baseconnectの財務責任者の中辻(@Naka_CPA)です。

2023年2月7日のシリーズB資金調達では総額54億円の資金調達を実施しました。本ラウンドではバランスよく、エクイティ調達とデット調達も織り込んでおります(プレスリリースは以下をご参照下さい)

なお、シリーズB資金調達の記事は、前編(シリーズB資金調達のエクイティ編)、後編(シリーズB資金調達のデット編)の2部作で執筆させて頂きます。本日は、後編にあたります。前回の記事も、ご興味がある方がいらっしゃいましたら読んて頂けますと幸いです。

1. なぜ株式市場の影響が非上場の資金調達に影響するのか?

マザーズ・日経平均

今はスタートアップ資金調達の冬の時代です。特にミドル・レイターの資金調達環境は悪化しており、バリュエーションが付きづらい、そもそも資金調達が難しい環境になっています。なお、現状の肌感覚ですが、まだシード・アーリーステージのファイナンスはそれほど大きな影響は受けてない印象です。

なぜスタートアップ冬の時代と言われており、ファイナンスがしずらい環境にあるのか?を理解することで、デット調達の重要性が見えてきますので、まず初めにそこからお話させて頂きます。

⑴ エクイティ出資者が負うリスク・求めるリターン

エクイティ v.s. デットの比較表

エクイティ出資者とデット融資者のぞれぞれを比較することによって、エクイティ出資者が負うリスク・リターンが分かりやすいため、両者を比較します。なお、エクイティとデットの違いを簡単にまとめると上記のようなマトリックスになります。

エクイティ出資者の特徴は、投資回収の方法が配当もしくはキャピタルゲインになっています。現実的には、ベンチャーキャピタルなどの投資家の期待するイグジットとしては、キャピタルゲインがメインになっています。ここがポイントです。

⑵ イグジットが近いほど、株式市場の影響を受ける

ベンチャーキャピタルなどの投資家のメインのイグジット手段がキャピタルゲインになります。とすると、投資家が株を売るタイミングとしては、IPO後に売却する、もしくはセカンダリーで売却する(M&Aなど)になります。

投資家が株を売る全てのパターンにおいて、株式市場の影響は大いに受けることになります。そのため、投資家は現状の株式市場を見て投資せざる負えない状況です。IPO時に売却する際には、もちろん市場価格で売却することになりますし、M&Aなどのセカンダリーでも発行体のファンダメンタルも大事ですが、現状の相場感を考慮することになります。

特にミドル・レイターになればなるほど、イグジットのタイミングが近いこともあり、株式市場の影響をもろに受けることになります。なお横道にそれますが、ミドル・レイターになればなるほど、KPIもでてきていることもあり、上場会社等の比較対象企業(コンプス)と比較されるのでKPIも非常に大事になってきます。

⑶ デット調達の重要性が上がっている理由

通常、ベンチャーキャピタルが求める期待リターン(=資本コスト)は数十パーセントになりますが、デット調達の資本コストは数パーセント(損益・財務状況による)です。エクイティ調達の資本コストに比べてデット調達の資本コストは極端に低く、かつ今のマーケットの市況感だと、さらに資本コストは上がっています。

今の市況感のままだと、なかなかエクイティ調達がしずらい、資金調達をしたとしてもバリュエーションがなかなかでずに結果的にダイリューションが高くなる傾向になります。

こういったことから資本コストが安く、株式市場の影響を受けにくいデット調達の重要度が上がっています。ちなみに株式市場の影響がデット調達に影響を与えないかと言うとそうではなく、現状では実体経済に大きな影響を与えていない意味において、デット調達はしやすくなっています。

2. スタートアップにおけるデット調達の特性

⑴ 金融機関から融資を受けるための4つの要件

一般的には、金融機関からの融資を成功させるためには、⑴ 黒字化の蓋然性⑵ 返済原資⑶ 資金使途⑷ 財務安定性の4つの要件が満たす必要があります。金融機関からも4つの観点で質問を受けたり、資料が要求されます。各要件の詳細な内容に関しましては、以下の記事に譲りますので、ご参考になさってください。

⑵ スタートアップにおけるデット調達の難しさ

スタートアップに軸足を移すと、「じゃあ、スタートアップは調達コストが低いデット調達をどんどんすればいいんじゃないか?」という疑問を持つ方は多いかと思いますが、一般的にはスタートアップによるデット調達はハードルが高いです。

というのもスタートアップにおいては、Jカーブを描いて成長していくモデルが多く、多くのスタートアップが赤字企業が多いです。ついては将来の黒字化の蓋然性やビジネスモデルの安定性などが大きなネックとなるケースがほとんどです。

成長のために先行投資をしている、及び成長投資をして急成長しているからこそエクイティ調達ができる面があり、スタートアップにおけるデット調達が難しくしなっています。よってエクイティ調達をしているスタートアップにとって、デット調達は水と油の状況であり、両者は相性が非常に悪いです。詳細は以下の余談をご覧ください。

⑶  売上と利益の軸でエクイティとデットを考える

あくまで本項では一般論で記載しており、今のマーケット状況だと収益性が高いスタートアップが好まれるなどの状況は考慮していません。この点をご理解の上、お読みください。

売上と利益の軸でエクイティとデットの調達を考えると解像度が上がります。
デット調達では、売上よりも利益の絶対額の方が好まれる傾向にあります。そのため金融機関の融資の対象は以下の図の①及び④となり、黒字化している企業の方が融資をしてもらえる可能性が高くなります。
一方、エクイティ調達は、将来の成長を見越して投資しています。そのためベンチャーキャピタルなどからの出資対象は①及び②となり、利益よりも成長している企業の方が出資をしてもらえる可能性が高くなります。

基本的にはスタートアップが②の状況にあると考えると、ベンチャーキャピタルなどからの出資は金融機関の融資とは相性がすごく悪くなります。

エクイティとデットの出資・融資対象

⑷ 難易度を知り、ロジックを知る

長々とエクイティとデットを対比しながらスタートアップにおけるデット調達の難しさについて記載してきました。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」であり、まずはスタートアップにおいてはデット調達が難しいということを認識することが必要です。

今までの経験を通じて、立ててきた仮説を実際に検証しています。きちんとした戦略を練れば、スタートアップでもデット調達は可能だと信じていますので、まずはデット調達におけるロジックを知り、スタートアップにとってデット調達は難しい面が大きいということを知ることが大事です。

3. Baseconnectのデッド調達について

⑴ シリーズBデッド調達の概要

今回のシリーズBのデット調達では、みずほ銀行様、三菱UFJ銀行様、京都銀行様、紀陽銀行様、日本政策金融公庫様、商工中金様から調達を実施しています。詳細は避けますが、三菱UFJ銀行様の15億円のシンジケートローンを中心にデット調達を実施しました。借入期間においても他の銀行様を含めて5年程度を取れた形になっており、有効に資金を使える座組にしています。

ご参考までに日経新聞および三菱UFJ銀行様から出されたリリースを添付します。

日経新聞

三菱UFJ銀行様からのリリース

https://www.bk.mufg.jp/info/pdf/baseconnect_seiyaku.pdf

⑵ 今回のデット調達で実現したこと

今回のデット調達における主なポイントは以下となります。スタートアップへの融資にあたって無担保無保証での長期与信など初めての事例ということもあり、スタートアップ融資の先行事例になれば幸いです。

  • 無担保無保証でメガの金融機関から融資を受けることができた。一般的にはスタートアップが無担保無保証で融資をうけることが難しい。

  • 長期与信を獲得でき、借入期間が5年という条件で借入を行うことができた。

  • 借入先のポートフォリオの分散ができており、みずほ銀行様、三菱UFJ銀行様、京都銀行様、紀陽銀行様、日本政策金融公庫様、商工中金様の6行から調達をすることができた。

  • 長期のタームローンを柱にしつつ様々な借入形態を取ることができた。その結果、資金が必要な時に借入ができる等の柔軟な借入を可能にするとともに利息を抑えることに成功した。

4. 大型のデット調達を実現するための取り組み

なぜ大型のデット調達ができたのか?に関しては、いくつか理由があります。むしろ、ここのポイントが一番気になるところではあるかと思います。あまり詳しく記載できない部分もありますが、出来る限り皆様の参考になるような形で記載します。

⑴ 基本的な方針の明確化

今回のシリーズBのデット調達を始めるにあたって基本方針を明確化しています。デット調達が進むにあたって状況の変化から方針がぶれることも多々ある中で、きちんと基本的な方針を明確化して、金融機関に伝えた上で交渉をしたことが第一要因となります。下記が方針となりますが、結果的にほとんどの要件を満たした形でデット調達を実施できた点においては成功であったと言えます。

  1. 支払利息を抑える

  2. 借入期間を長く取る(5年程度)

  3. 事業進捗を加味した範囲内でデット調達額を最大化する。

  4. 借入先のポートフォリオを分散する。

⑵ 金融機関向けに70ページの説明資料を作成

投資家と金融機関では出資と融資をする際のポイントが違うのは前述のとおりです。それは各々が負っているリスクと期待リターンが違ってくることに起因します。

出資と融資はファイナンスという点では同じですが、ファイナンスの際のルールが全く異なります。例えば、アメフトとラグビーではスポーツという点では同じですが、ルールが全く違うので同じ攻め方をしてもうまくいかないのと同様です。

攻め方が異なるということは、投資家向けの説明資料では響かない、もしくは興味ポイントが異なるので、投資家向けの説明資料と同様の資料ではうまくいかないことが多いです。

この点、今回のシリーズBのデット調達においては、投資家向けの説明資料とは別に金融機関向けに70ページほどの説明資料を事前に作成した上でデット調達に臨んでいます。説明資料では、金融機関が気になるポイント(⑴ 黒字化の蓋然性、⑵ 返済原資、⑶ 資金使途、⑷ 財務安定性)に対して丁寧に説明できるような資料構成にしています。別でピッチ資料を作ることは非常に工数がかかりますが、それだけ気合を入れて準備しないとスタートアップにおけるデット調達が難しいと思っています。

⑶ 複数のリード銀行からの融資

億以上の銀行融資となると、なかなか融資してもらえる金融機関が限られてきます。また、スタートアップへの融資になると尚更、億単位の融資を受けることは難しいのが現状です。

エクイティの資金調達おいてリード投資家からの出資を受けることが大事であるように、銀行融資でもリード銀行からの融資を受けることが非常に大事になってきます。特に億以上での銀行融資をしてくれる金融機関を複数で獲得できるような環境を作り出せれば、デット調達の確度が高くなります。

この点、エクイティ調達とは異なり、デット調達の場合は、億単位で融資してくれるような金融機関を探すことが難しいです。というのも、そういった金融機関が少ないことためです。ですので、デット調達にあたっては進め方を慎重しないと、銀行融資を断られてしまい、複数のリード銀行からの融資機会を逸失、ひいてはデット調達が失敗に終わってしまいます。

⑷ 決裁権限者へのアプローチ

ファイナンスは、エクイティにしろ、デットにしろ、「法人営業」です。「法人営業」において大事なのはいかに決裁権限者にアプローチして成約してもらうかが鍵になります。

デット調達においても、いかに決裁権限者にアプローチするかどうかが非常に大事であり、デット調達の依頼をするルートが重要です。例えば株主から紹介してもらうや元々の個人的な繋がりでデット調達の依頼をするなどです。自分の場合は、一社目のスタートアップで繋がりもできたこともあり、こういった人脈をフル活用しました。元々知り合いであれば、話を聞いてれる可能性も高まります。

⑸ 審査の論点を先回りして説明

銀行の融資にあたっては銀行担当者に与える負荷は甚大です。スタートアップの融資が難しいため、審査にあたって乗り越えるべきハードルが山ほどあります。特に審査資料の作成にあたっては苦労することがたくさんあると思われます。

融資を受ける側としては、その大変さを分かった上で、出来る限り銀行融資の審査になるような論点を先回りして丁寧に説明することが重要です。特に銀行融資にあたっての4つの論点は必ずといっていいほど聞かれる論点であり、その論点に対して真摯に対応することが大事になります。自分の場合は、4つの論点をきちんと説明資料に織り込んで、それでも足りないことも多いので、追加で資料を提出しています。審査論点に対して真摯に対応した地道の積み重ねであって、信頼関係を構築できたところが大きかったです。

⑹ まとめ

今回のデット調達では実務的なティップスはたくさんあり、なかなか記載できないことも多いです。

テクニカル的には多々ありますが、最後は諦めなかったことも大きかったです。デット調達にあたっては辛いことも多く、諦めたくなる時も多々ありましたが、不撓不屈の精神でなんとか乗り換えられた部分も多分にありました。

また、スタートアップにとってデット調達は難しいということを認識できていたおかげで、限界まで考え抜いて様々な手を講じてきたことも今回の調達成功の理由かと思います。

5. 最後に

シリーズBの資金調達は長丁場でありましたが、最終的にクローズできて良かったです。最後まで粘り強く付き合っていただいた金融機関の方々、Baseconnectのメンバーには感謝です。本当に色々な方に支えられて、シリーズBの資金調達がクローズ出来て、支えて頂いた方々がいるのは幸せだなと思うばかりです。

最後になりますが、シリーズBのファイナンスはあくまでBaseconnectにとって通過点で、お預かりした資金で更にBaseconnectを成長させていく必要があります。

今回の資金調達を機に、技術・ビジネス・データ・プロダクト・新規事業の5領域について、経営人材候補のポジションをオープンいたしました。少しでも共感いただける部分がありましたら、是非一度お話する機会をいただきたいです。また、上記に関心を持っていただけそうな方にお心あたりございましたら、ぜひご紹介をいただけましたら幸いです。以下リンクになります!

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