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美しい死

わたしにとって「死」というものは、自分を美しい状態でとどめおくための手段に過ぎなかった。
若く美しいうちに、皆から愛されているうちに、この命を終わらせること。
そんなことへのあこがれが、いつもわたしの胸を掻きむしっていた。

美しい死、そんな馬鹿げたあこがれのために、わたしは美しくなければいけなかった。
美しくあることへの異常なこだわりを見せるわたしの陰にある死へのあこがれ、その存在に、誰が気がつくことができただろう。

だから、なんだか幽霊みたいだよ、と友人にからかわれたとき、手の甲がピリリと痛むような焦りが、わたしの表情を硬くさせた。
長く伸ばした黒い髪が豊かに巻かれていようと、きめ細かな白い肌が潤いを湛えていようと、身に纏った白のワンピースに繊細なレースが施されていようと、なるほどそれは亡霊のようにも見えるのだ。

彼女はわたしをからかうつもりで、そしてわたしの異常なこだわりにささやかな警鐘を鳴らすつもりで、幽霊、という言葉を使ったのだろう。
けれども一瞬の焦りが去ったあと、その言葉はすとんとわたしの胸に落ちて、ゆっくりと解けていった。

あこがれてやまない美しい死へ一歩近づいた実感に、わたしの真っ白な頬はわずかに紅潮した。

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