見出し画像

家族ストレス対処理論:家族にとって危機は機会か?脅威か?

チームわが家っていい!でも「子育てへの重荷感」や「家族との対話への難しさ」も感じる。このジレンマをぐるぐると深掘りし、理論的な土台をガラッと変え、チームわが家2.0へアップデートしています。

チームわが家2.0は、「チームとして共に育ち合う家族」です。家族が成長する過程で出会う課題をクリアしていくことで家族として育っていくRPG型家族です。では、もし課題をクリアできなかったら家族はどうなるのでしょうか?ゲームオーバーとなってしまうのでしょか?

家族の危機は機会か?脅威か?:家族ストレス対処理論

家族には日々様々な出来事があります。出産して親になる、育休から復職する、新しい土地に引っ越す、子供が巣立つなど、度々大きな変化が訪れます。このような大きな変化は家族にとってストレスとなる場合も多いことから「危機的移行」と呼ばれます。この危機的移行への対処の過程を明らかにしようとしたのが「家族ストレス対処理論」です。

家族ストレス対処理論
ストレスとなり得る大小様々な出来事に対して、家族がどのように対処していくのか、その過程を明らかにしようとする理論。出来事が危機になるかどうかは、家族の対処資源の有無と出来事に関する家族の意味づけによって決まるというのが基本的な考え方。

森岡清美・望月嵩, 1997; 鈴木和子・渡辺裕子・佐藤律子, 2019

分かったような分からないような。。。もう少し具体的に説明しましょう。

ある出来事に対して家族それぞれが対応できるスキルをすでに身につけていたり、頼れるサポーターやリソースがある場合は、難なく対処することができます。つまり家族にとって、この出来事は危機ではなく「対応可能な出来事」ということです。

また、十分なスキルやリソースがない場合も、新しいスキルを身につけたり、新しいサポーターを獲得したり、時間をかけて試行錯誤することで乗り切ることができます。この場合、出来事は一旦は危機になりますが、その後「成長の機会」となります。新しいスキルやサポーターを獲得したので、次に同じような危機が訪れても難なく対応できるようになり、以前危機だった出来事は「対応可能な出来事」になります。

例えば、一人目の出産の際に夫婦で家事育児のスキルと獲得したり、家事代行などのリソースを活用したりした家族は、それまではなかった出産という出来事への対応力を獲得します。そのため、二人目の出産の際は一人目の出産の時よりスムーズに移行期を乗りこえることができます。「子ども二人を育てる」ための追加の調整やスキルの獲得は必要ですが、一人目出産の時と同様に家族で試行錯誤しながら、さらなる対応力を身につけるでしょう。出産という危機的移行に対する意味付けも危機から成長の機会へと変化します。

うまくいかないことばかり!だけど諦めきれないのが家族

一方で、一人目出産の際に、夫婦のどちらかにのみ負担が偏ったり、リソースを確保していない場合、一人目の出産からの困難さを抱えたまま、二人目の出産への対応が強いられます。どのように対応したら良いかわからない状態で、お互いがギスギスしたり、誰かが気持ち的に不安定になったり、うまく行かないことにストレスを感じます。心身の健康が崩れる等他の新たな課題を生み出す場合もあります。一人目の時に「脅威」だった出産は、二人目の時も「脅威」のままです。どうにか乗り切り、致命的にならなくても、いずれ、家族としての存続が難しくなり、「崩壊の脅威」になる場合もあります。

という理論はありつつ、世の中のほとんどの家族はそんなにすんなりと成長していけるものではなく、山や谷にまみれながらもがいているのではないでしょうか。家族の営みは面倒で複雑で不器用で、分かり合えなくて、愛おしい。楽しいことも大変なことも全てが家族として過ごした時間。だからこそ、私たちは諦めきれずに家族として育ち合いたいと思うのかもしれません。

参考文献
Hill, Reuben, 1958, Generic features of families under stress. Social Casework, 39, 139–150.
McCubbin, Hamilton I. & Patterson, Joan M., 1983, The Family Stress Process,Marriage & Family Review, 6:1-2, 7-37.
森岡清美・望月嵩, 1997,『新しい家族社会学(四訂版)』 培風館.
鈴木和子・渡辺裕子・佐藤律子, 2019, 『家族看護学- 理論と実践 第5版』 日本看護協会出版会.