暗闇の中に#4
チャイムの主は、近所の家に住んでいるみすずの祖母。おかずを持ってやってきた。
助かった。
みすずはおばあちゃんが帰らないで欲しいと心から願った。安堵で肩の力が抜ける。
「夕飯もう食べた?おかずを多く作ったから持ってきたよ。」
「まだ食べてない。ありがとう。」
おばあちゃんに子猫の話を聞いてみよう。
脱いだ服を下着だけ着直した。いつ話が途切れるか、耳を済ませた。みすずはちょうど話終わった辺りで小さな声で呟く。
「おばあちゃん、あのね、実はね」
話を遮る様に安心する声で祖母は話し出す。
「あぁ、そういえば。階段の途中に子猫がいたから遠くへ置いてきたよ。料理の匂いに釣られたんだろうけど困るわねぇ。」
みすずは精一杯悟られない様に返す。
「そうなんだ、なんでだろうね?どこに捨てに行ったの?」
心臓の動きで自分が揺れているんじゃないかと錯覚を起こしながら答えを待つ。
「どこって、それは戻ってこれない様な遠いところさ。万が一、戻ってきたら困るだろう?」
心臓が口から飛び出そうになる。
「そうだね。…戻ってきたら困るくらい遠くってどこ?」
「あぁ、そうだね。河川敷の辺りまで首根っこ掴んで持っていったよ。」
みすずのアパートから川沿いまでは歩いて10分ほどかかる。衰弱した子猫の足ではもっとかかるだろう。
「そうなんだ。じゃあ、きっともう戻ってこないね。」
「さっさと風呂入れよ!」
「はい、ごめんなさい。」
みすずは肌着を脱ぎ、お風呂場に入った。俯くと蛇口をひねる。
結局、助けられなかった。あの子猫はどうなるんだろうか、きちんと生きていけるだろうか。図書館から連れてこなければ良かったのか。帰り道、怖がらずにちゃんと後ろを振り向けば良かった。
みすずは答えのないなぞなぞから抜け出せないまま、まるで夏の鬼雨に打たれた様に噛まれた傷を流していく。そして、頭の中にいつもの情景が浮かぶ。
「お前は川から拾ってきたんだ。ちゃんとしてないと、また川に捨てに行くぞ?」
終わり
次回は別の物語「晴れ時々雨」を書きます。
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