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会話の瞬発力

先日、妻からこんな話を聞いた。

子供の同級生にとても明るくてハキハキした男の子がいたのですが、ある時から具合が悪いわけでもないのにマスクをし始め口数が少なくなってしまったんだとか。すぐ異変に親御さんが気付き本人に聞いてみたらしい。彼は顔にホクロがあるのだがそれを友達にからかわれて、それが気になってしまいそんな行動になったと告白したのだそうだ。できれば取ってしまいたいとの本人の希望で親御さんはすぐに皮膚科に相談、手術をしてそれまで以上に明るい彼にあっという間に戻ったとのこと。

この話を聞いて私は自分の小さかった頃のことを思い出してしまった…実は私も小学2、3年生の頃から顔にいくつもホクロができ始め、普通の人に比べるとかなり数が多いのです。これについて思いつめるまで悩んだことはないものの、常に「嫌だなぁ」とは思っていたし、「ホクロおばけ」「ホクロマン」「ホクロ星人」「顔中に習字の墨が飛び散っている」とからかわれたことも両手の指では数えきれない。

ただ、このことでいじめられたことはないし、同じ人から二度とからかわれたことはない。そういう話はすると「あなたは心が強かったから」「君は体格が良かったからでしょ」と、多分今の私を見て「あなたは特別」という感じで聞く耳を持ってもらえないのだが、そんなことはなかったのです。

今でこそ175センチ75キロと悪く言えば軽肥満気味(笑)の大きな体格をしているが、小学校6年の頃で身長は140センチ弱、体重は30キロにも満たない痩せっぽっち、力で物を言わせて人を黙らせるような腕力は持ち合わせていなかったし、勉強も苦手ではなかったが中の上レベル、理屈で人を論破する力はありませんでした。

そんな私がなぜいじめのターゲットにならなかったか?…それは「会話の瞬発力」を持ち合わせていたのではないか?…と、さっきの話を妻から聞いたときにふと心の中に浮かんだのです。

私の父はいわゆる転勤族で3、4年毎に転居していました。小学校は3つの学校に通いました。その当時は「何でこんな家に生まれてしまったのだ」と悲しんだものですが、今考えると3つの小学校に通ったということはとてもいい体験になったと感じています。転校経験のない人に比べれば3倍の人数の同級生と出会っている、話をしていることになります。そのせいか自分からどんどん前に出ていくことはありませんでしたが、基本的には人前で話すことが嫌いではなかったし、初対面の人とでも打ち解けられるように常に「どんな面白いことを言ってやろうか」と考えていました。

ですのどホクロについて同級生からからかわれた時、何も言えず黙ってしまうのではなく、かといって逆ギレして暴れるわけでもなく、相手の気に障るような嫌な言い方をするでもなく、でも自分自身を貶めるようなことを言うでもなく…何か「上手い切り返し」を反射的にしていたような気がしてきたのです。

残念ながら実際に自分からどんな一言を言ったか全く記憶にありません。ということは心の傷になるほど嫌な経験でもなかったということにもなりますが、言われた一言や誰に言われたかはしっかり覚えています。しかし、言われた相手とはその後もずーっと仲良くやっているんです。

「あんなこと言われたらどうしよう…」「あのことを言われたら嫌だなぁ…」とビクビクすることはなく、「あんなこと言われたらどうやって返して笑わせようか?」とか「あのことを言われたらどうやって返せば面白いだろうか?」…今でも常にそんな風に考えているような気がします。

先述の通り、小中学校の頃の具体的なエピソードの記憶はないのですが、高校時代、部活の同学年にある男がいました。同じ部活に所属はしていましたが元々ちょっとチャラチャラしている上に高圧的な態度が見られたのでちょっと彼とは距離を置いていました。ある日イライラしていた彼は虫の居所が悪く、どうも私の態度が気に食わなかったようで私が何か一言放った後、怒って無言で凄い形相で睨みながらこっちに進んできたのです(いわゆる「ガンをつける」「メンチを切る」ってやつです)。彼は私より体も大きかったので「うわ~、やべぇ」と心の中で焦った私ですが、ナゼか出てきた言葉が「○○ちゃん、そんな顔して怒っちゃヤ~ダ😁」…自分でも心の中で「何言ってんだ、俺は」と慌てたのですが、数秒間睨みながら固まった彼はいきなり大爆笑😆😆😆…それから1年後には相談して一緒に部活を辞めるほど(?)仲良くなってしまいました。

「言っていることは間違っていないんだけど…」「貴方の言っていることは正しい。それは私も認める。だけど…」「言ってることは分かるんだけど、言い方がなぁ…」「あそこであの一言を言うかい?」…「言葉」と「思い」は形とタイミングが大切。相手の表情が見える場所で場数を踏むこと。ハウツー本を読んでも身に付かないのです。

子供に対しては親ができることは、沢山会話をしてあげること。その時は相手の気分を損ねない綺麗な言葉を使うこと。どんな短い話でも起承転結を感じさせること。そして色んな人と行き合える機会を作ってあげること。

近頃の親たちはすぐ子供達に「ありのまま」とか「自分らしさ」って言葉を口にしますが、10数年の経験だけの「自分らしさ」って狭すぎやしません?

私も生きてきて45年以上経ってますけど、まだまだ知らない面白い世界が沢山ありそうです。

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