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【#9】B:BtoBとBtoC-両者をつなげる燕三条の取り組みとは

前回までの記事では燕三条の地域エコシステムについての深堀を行ってきました。
今回の記事では、燕三条という金属加工産業の中にはBtoB(対企業向けビジネス)とBtoC(対一般消費者向けビジネス)が共存しています。その共存関係に影響を及ぼす燕三条の取り組みについてスポットライトを当ててみたいと思います。

おなじみ(?)のフレームワークでは、今回は赤枠の部分の話です

BtoBとBtoCの分類について

燕三条の全体の工業出荷額は約4,000億円であり、内訳としてはBtoBビジネスが約3,000億円、BtoCビジネスが約1,000億円という構成になっています。

燕三条におけるBtoB、BtoCの年間売上高構成の概算

まずは、燕三条の金属加工産業における、BtoBビジネスとBtoCビジネスは、どのような製品を扱っているのでしょうか?

まず、BtoBビジネスは、ここでは「部品・金型」、「OEM受託」に分類してみたいと思います。
「部品・金型」とは、自動車、産業機器製品、家電製品などを製造販売するメーカーに対して、それら最終製品の金属部品や部品製造に必要な金型を作成し納めるビジネスを指します。
「OEM受託」とは、作っているものはカトラリーやハウスウェア製品など一般消費者が使うものですが、大手小売りメーカー(例えばニトリやスノーピークなど)が企画設計に基づき、製造を受託するビジネスです。

次にBtoCビジネスはどうでしょうか?
BtoCビジネスは自社ブランドによる「一般向け商品」と、「プロユース」とに分類されます。
「一般向け商品」について、燕三条には、カトラリー、包丁、鎚起銅器製品、キャンプ用品など、多くの企業が自社ブランドを掲げ、全国的な知名度を持つ企業が点在しているのが特徴です。
また、同時に「プロユース」としても、大工道具や農工具に加え、包丁や爪切りなど様々な商品が作られ、全国の大工・料理人・ネイリストなどの職人から信頼を集めています。

燕三条の金属加工産業の分類体系

BtoBとBtoC双方に良い影響を与える燕三条の取り組み

プラットフォーマーの存在

燕三条では燕商工会議所が運営している磨き屋シンジケート、JCで関係を深めた若手経営者たちが2020年3月31日から立ち上げた株式会社ドッツアンドラインズ、燕市の金属加工のビジネスマッチングサイトFACTARIUMなど、複数のプラットフォームが地域に存在しています。
完全分業制を長く行ってきて中小企業が多数共存している燕三条地域においては、BtoB、BtoC、双方のお客様から、ものづくりを頼みたい時に、どこに問い合わせをし、誰に頼んだら良いのかが、外からはわかりにくい構造にあります。
そのため、共通の窓口を設けることによって、何かをつくりたい時に顧客が迷わずに依頼ができる体制が実現できています。
また、プラットフォーマーやが燕三条、あるいは燕市、三条のブランド戦略のもと、一貫して営業・マーケティングを行うことによって、各社が販売に向けて営業部隊を持つことや、マーケティング施策を実行しなくても仕事の依頼が来る状況をつくることが可能になります。これにより、販管費のコストダウンや職人がモノづくりに打ち込める環境づくり、顧客に認識してもらうための地域ブランドの形成を実現していると考えられます。
 最後に、燕三条に属する各社の技術に精通したプラットフォーマーが存在することで、顧客から依頼があったときに、どの企業同士が連携をして、モノづくりをすると最も効果的であるのかを即時に判断し、連携体制を構築することによって、開発リードタイム、製造リードタイムの短縮を実現できます。プラットフォーマーが一括して部品を購入することによって、ボリュームディスカウントを利かせることができ、製造原価のコストダウンも実現できるというメリットも生まれています。

工場の祭典の実施

燕三条では2013年より工場の祭典という一大イベントを実施しており、毎年全国各地から多くの来場者数を迎え入れています。
工場の祭典を実施することで、、「顧客との接点創出と顧客体験価値の創造」、「広く顧客に認識してもらうための地域ブランドの構築」を実現しているといえます。
まず、工場の祭典に参加する事業所はBtoC向けのビジネスを行っている企業が多いのが特徴です。
包丁やお箸をはじめとした様々な製品がつくられる製造現場を直接見ることによって、中高価格であっても、それだけの価値が十分にあると顧客に認識してもらうことができており、参加企業にとってはBtoC製品の拡販に繋がっています。
また、来場者から直接感動の声を聞くことによって、職人にとっての自信、誇りにも繋がっています。

さらに、それらの波及効果はBtoBビジネスにも及びます。
一般にはBtoBビジネスを営む事業者は、取引先との秘密保持契約があり、内容を一般向けに公開できないという事情のため、その多くが工場の祭典といったような一般向け工場開放イベントを見送っています。
しかしながら、工場の祭典が燕三条全体の地域ブランドイメージの向上に貢献していることが、BtoBビジネス事業者に対しても副次的な恩恵を与えています。なぜなら、BtoBのクライアント企業の技術担当者、購買担当者などいわゆるDMU(購買意思決定者)に対して、工場の祭典によるブランドイメージを通じて、「燕三条はよい商品を造る地域で、ここに発注しておけば大丈夫だろう」という印象を与えることに成功しているからです。

ということで、工場の祭典はBtoB、BtoC双方にとって良い効果を与えているといえるでしょう。

TSO(燕市ものづくり品質管理制度)

燕三条の一角をなす燕市では、TSOという独自の品質管理制度を設けています。
一般的にはISOという品質管理制度が一般的ですが、ISOを取得するハードルは小規模の企業にとっては高いといえます。しかし、特に大手企業との取引をするためには何らかの品質管理制度の導入と認定が必須要件となっていることも多く、中小BtoB企業にとっていかに簡易的に品質管理精度を導入するかが、従来課題でした。
そのため、燕市ではISOという国際認定品質管理制度よりも、よりハードルを下げ、中小企業でも取得することが容易なTSOという独自の品質管理制度を設けました。
企業のTSO取得を燕市役所が支援し、大手企業に対してもその信頼性を自治体としても認証することにより、燕市をはじめとする地域の中小BtoB企業の取引拡大に貢献しています。

さて、今回は燕三条におけるBtoB/BtoCビジネスの全体像と分類について、そしてそれらのBtoB、BtoCビジネス双方に良い影響を与える燕三条の取り組みの代表例について述べてみました。いかがだったでしょうか?

次の#10では燕三条の地域ブランドについて考察していきたいと思います。

Team想 髙橋佳希

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