【#8】A:地域エコシステム-産学官連携や地域住民・移住者・観光客との関係性
前回記事#7では、燕三条の同業者連携のあり方について掘り下げていきましたが、今回はその同業者連携を支える社会関係資本について言及したいと思います。
↓前回記事はコチラ
産学官連携に基づく情報交流・支援プラットフォーム
燕三条には非常に多くの情報交流・支援プラットフォーム組織が存在します。どの組織も産学官の密接な連携に基づき運営が成り立っており、先に述べた同業者間連携を円滑に実施する上で人々や技術をつなげるプラットフォームとしての役割を果たしており、地域の社会関係資本を醸成していると言えます。
地域社会における相互関係性
ここからは、この金属加工産業を取り巻く地域社会との連携について、みてみたいと思います。
金属加工産業を取り巻く地域社会のステークホルダーとして、本研究では、「地域住民」「移住者」「観光客」の3者に分類し、相互の関係性がどのように成り立っているかを考察しました。
①移住者と、金属加工産業・地域住民との相互関係性
燕三条地域は近年移住者が増加してきており、移住地としての魅力が向上してきています。
特に、株式会社カヤックが運営する移住・関係人口促進サービス「SMOUT(スマウト)」が実施する「SMOUT移住アワード2021上半期」において、新潟県三条市が全国市町村ランキングTOP1を獲得し、TV等の各メディアから注目の地域として取り上げられています。
2021年全体を通じても全国4位と上位をキープしています。
近年移住地として注目を集めている背景として、移住者が地域産業や地域住民とどのような関係価値を構築しているのか、燕三条に移住した方へのインタビューを通じて考察しました。
よる移住者支援制度が非常に充実していますが、それに加えて、燕三条の地域住民の「よそ者を排除せず積極的に受け入れる気質」が、移住者に安心感を与え、疎外感・孤独感を抱えずスムーズな移住につながっていると考えられます。
一方で、移住者は金属加工産業や地域住民に対して、地域では当たり前のことを「すごいこと」だと再発見し、価値創出のきっかけ作りに貢献しています。
以上のように、移住者と、金属加工産業・地域住民との間で、お互いの価値提供により良い関係価値が構築されていることが考えられます。
②観光客と、金属加工産業・地域住民との相互関係性
金属加工産業にとって観光客との関係性は近年非常に密接なものとなってきています。
2013年に「燕三条 工場の祭典」がスタートし、普段立ち入ることのできないものづくりの工場を訪れることができる、全国的にも稀有なイベントとして、年々観光客が増加してきました。
また工場の祭典期間以外でも常設で工程内のものづくりの状況を展示する
オープンファクトリーを実施する企業がふえてきており、産業観光の街として新たな魅力を観光客に訴求しています。
このことによりオープンファクトリー施設に併設されているショップでの売上が大きな経営の支えとなっている企業も多くなっています。
また売上面での貢献のみならず、ものづくりの現場を観光客に見てもらい「すごい」と言ってもらうことで、工場で働く職人のモチベーション向上に寄与しています。
三条市でオープンファクトリーを常設する諏訪田製作所(高級爪切り製造)は、オープンファクトリー企画段階に、社員から「自分たちは見世物じゃない」「仕事に集中できない」と反対されましたが、実施に踏み切ると、「お客様からの直接の賞賛の声が聞けるのがうれしい」と、社員の意識が変わったといいます。
また地域住民にとっても産業観光で訪れる観光客が飲食・宿泊・購買することによる、経済的恩恵の享受を受けており、日常生活に悪影響を及ぼさないレベルで町の賑わいによる活気がもたらされています。
③地域住民・移住者・観光客との関係価値の成立と、今後の課題
以上から、金属加工産業を軸として地域住民・観光客・移住者が、相互に良い影響を及ぼし合うことにより、燕三条の地域社会において「社会関係資本」が蓄積されつつあると考えられます。
一方で、地域社会における3者間の関係性において改善課題も残されています。
■移住者の課題
地域への転入は増えてきましたが、永続的な定住にはつながらず転出も多い状況です。この背景には、地域の金属加工産業全体における、賃金の安さ(財務資本課題)、休みの少ない労働環境(人的資本課題)が起因しています。また「地域への愛着」を移住者に感じさせるには道半ばの状態であると考えられます。
■観光客の課題
工場見学における観光客のマナーの問題で工場見学をやめようといっている企業があること、地域住民から観光客に対する良い働きかけというものは現状存在していないことから、観光客との関係性には改善の余地があると考えられます。
さて、#7、#8と2回に分けて、燕三条の地域エコシステムの全体像を掘りさてていきましたが、いかがだったでしょうか?
次回記事では、BtoBビジネス、BtoCビジネスの共存関係について語っていきたいと思います。
Team想 髙橋佳希
↓過去記事はコチラ