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犬丸と手下たちの人形造形

犬丸の造形

犬丸のパペットと、八代によるスケッチ

犬丸の造形を進める上で、八代は、日本の伝統芸能である「能」で使われる能面を参考にしたという。能面は光の当たり方で表情を出すと言われており、顔を上を向けるのを「テラス」、下を向けるのを「クモラス」といい、微妙な光や角度の調節で喜びや悲しみ、怒りなどの感情を豊かに表現している。八代は、犬丸も表情を造形で作り分けるのではなく、角度で変わるようにすればいいと思い立ち、迷いなく一気に製作を進めていった。

彫り進めていく中で、顔に大きく書かれた「犬」の隈取りは黒く中に窪んでるのが造形として面白そうだと思い、より深く大きく掘り込んでいったという。暗い空間の中でふわっと顔が浮かび上がる怖さや悪役感を演出するために、顔に使用した塗料は甚五郎よりも白さが出るように調合し、強めに肌に乗せている。この大きな彫り込みと顔色が、悪役によくみられる、不健康そうな雰囲気をうまく演出している。

飛び出す目玉

犬丸の造形でのこだわりポイントは、目玉が飛び出せる構造になっているところだ。これは小川が描いたコンテで、犬丸が「じ、甚五郎か!?」と驚くシーンが劇画タッチだったところからインスパイアされたという。しかし、どのようにその驚きの表情を人形で表現するのか。この目玉が飛び出す構造は、原田との会話の中でヒントがあったのだという。

劇画タッチな小川のコンテ絵

目玉の構造は、操作棒の先に鉄球でできた目玉がついており、棒ごと前後に動かすことによって目の演技ができるというもの。目が飛び出すという漫画的表現を奥行きを使って見せるというテクニックは、またしてもスタッフの度肝を抜いた。

ツマミをFREEに合わせると目玉を前後にスライドすることができる

小さな煙管

犬丸が手にしている煙管も本物の質感にこだわった。真鍮を削って造形し、真ん中には本物の木が使用されている。細かいところまで手を抜かない美術部によってリアルなミニチュア煙管が完成したが、この煙管が思いの外重くて、犬丸が自力で持つことはできなかったというハプニングも...。撮影時は、ワイヤーでくくりつけて持たせることになった。

犬丸の手下のデザイン

八代による、手下のお面のスケッチ

犬丸の手下達は、本来お面を付ける想定ではなかった。甚五郎や犬丸と同様にそれぞれの顔が彫り込まれる予定だったのだが、木彫で手下達の顔まで彫ろうとするとスケジュールと工数的に無理が生じるし、仮に作れたとしても、顔の表情までアニメーションさせるのは難しいという課題があったのだ。その解決策を考えた結果、ショッカーの戦闘員やストームトルーパーのようにお面をつけるというアイディアに落ち着いた。この頃犬丸のデザインはある程度見えてきていたので、八代が全体のバランスを考えながら手下のデザインを進めることになった。
手下達のお面は、張子の狐面や犬面、能面などをリファレンスとして見ながらチームで目指したいイメージを共有しつつも、工数を考えると立体のお面を作るのは難しそうだった。作りたいお面の方向性を伝えつつ、どのような形に落とし込むかは八代に預けることになったが、次回のミーティングでまさかのまさか、立体の美しい犬面が完成していて、またスタッフは度肝を抜かれた。八代はリファレンスにあった木製の犬の能面を参考に、様々な要素をフュージョンし、装飾的だけどちゃんと犬感もある、立体感なデザインに落とし込んだのだ。

実はここに辿り着くまでに、犬面は数種類作られていた。犬っぽさをプラスしたり、木目の具合で彫れ具合が変わるので、その辺りも見ながらまとめていったというが、最終的な犬面は、鼻の伸び方や口の開き方が絶妙に無表情。甚五郎や犬丸にも取り入れられた隈取りのようなデザインも含め、呪術的な怪しさを醸し出している。
サイズ感も、能面と同じで人形の顔に対して少し小さくなるように作られている。能と同じく、装着した時に後ろに人がいる感じを醸し出すことができて絶妙な仕上がりとなった。

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