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この世界だけの音

木でできた人形の世界では、斬られたらどんな音がするのか、そのからくり義手は一体どんな音がするのか。この作品においては木というのが大事な要素なので、人形たちの体、道具、建物、あらゆる素材にある木を、音としてもこだわりたいと川村監督は考えていた。
音響効果を担当した勝亦は、アニメーションでも実写でもない、この世界観のための新しい音の開発に挑むことになった。

やはり集める素材は「木」

まずは木の素材をひたすら収集することから始めた。ホームセンター、リサイクルショップをまわり、新しいものではなく「古い木でできたもの」を探索した。求めていたものは、リサイクルショップの店内の隅にあるジャンク品扱いのような所に多くあったのだという。使い込まれた古木のカンナや、元は何の道具かも分からないような木のレバー、昔の土間にあったような年月を経た簀子や、古い引き出し棚...。
時代考証の観点から、「チェーンソーの音はいわゆる現代のチェーンソーのように電気的な音にはしたくない。しかしあの高速モーターによる怖さの印象は欲しい」という難題を突きつけられ、勝亦はチェーンソーや鋸も、あくまで木が駆体となってる鉄というものにこだわって探した。

そして、集めた木の素材を使ったフォーリーの録音作業。
甚五郎が道具箱を肩からおろし、鋸を掴み手下たちを斬っていく。腕にチェーンソーをはめ、ビュンビュンと手下たちを斬り倒す。木屑の血しぶきが舞う。犬丸ロボ出現。集めた道具たちを使って、その全てを一つ一つ収録した。
例えば、アジアンテイストの鍵盤の少ない木琴を使って、ギギギ、カランコローンと、甚五郎の腕のしなりを表現している。甚五郎が指を折り曲げ義手を覚醒させるシーンでは、ガーデニング用の針金で連なった木杭たちを腕に抱えてガシャガシャガシャと鳴らしている。そして難題だったチェーンソー。蛇腹の木の板を拍子木のように高速で「カンカンカンカン」と打ち鳴らし、さらにモーター感を表現するべく、古く使い込まれたコーヒーミルのレバーをぐるぐると回した。

甚五郎たちの足音や衣擦れは、自ら草鞋を履き、着物を着て、映像を観ながら動きに合わせて収録している。これらは特に生命を感じる大きな要素になるので、ライブ感を大事にしながら行っていった。特にこの時に実際に動いたことで、甚五郎が実写のような滑らかな動きをしているということを体感したという。

こうして収録した音を組み合わせたり、加工したり、ボリュームバランスをとることで最終的な音響を作り上げていく。木のチェーンソーが実際に形となるのはこのフェーズでの作業だ。あらゆる収録した素材から吟味して音を選び、迷って迷って出来上がったものが作中のチェーンソーの音なのだという。苦しさもあったが、新しい世界の音を生み出すのは勝亦にとってとてもワクワクする作業だったという。

今回の記事で、あの音ってその音なのか...と感じられた方も多くいるだろう。ぜひよく耳をすませて、もう一度パイロットフィルムをご覧いただけると嬉しい。

音の最終MIX日に、犬の声を自ら録音する川村監督


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