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就活失敗して頭に来たので独立したが就活の方が楽すぎて草ww⑥


「俺がやってあげますよ!
 さぁ、来週から”動画”を作りましょ!」


今となれば、十分板についた言葉だ。
だが、ふと思った。


「一番最初に,俺が掴んだ仕事って、
 どやって生まれたんだっけ?」


時は8年前の2012年。


「動画をやることは分かったけど、
 どやって金を稼いだらええの?」


いつものベンチで
素朴な疑問を尾崎に投げてみる。


「まずは、依頼する”対象”が必要やね!
ピザがあるから”配達”の仕事が生まれるしね!」

「ほほぅ。ほんなら、動画は”配達”とみなして、
 動画でいうところの”ピザ”って言うと・・・」


少しの沈黙も、
今となっては苦痛ではない。

なぜなら、鳥籠から羽ばたいた今の自分達には、
出口の見えない迷路は昔の話だからだ。

燦々と照りつける太陽と
澄み切った青空。

チラチラと光が漏れてくる木陰の下で
会話をする”スズメ”がそこにいる。


「!!!」

「音楽や!」

尾崎は、”それ正解?”と言わんばかりに
こちらを見ている。


「いわゆる、”ミュージックビデオ”とか
 “Live映像”が、ピザみたいなもんやな!」


尾崎も、表情で”ええやん!”と言うような
柔和な笑顔をこちらに向けている。


「元々バンドしてたから、
 知合いはたくさんいるし、


コンピレーションアルバムにも参加したから、
その中のバンドマン達に提案してみるわ!」


意気揚々と喋っていると、


タバコに火をつけながら、
尾崎は言った。


「良いやん!流石やね!」 

しかし、そこから2週間が経過。


結論から言うと、
中々うまく事が運べない。

電話やメールで要件を伝えても、
いわゆる”ピザ”は、必要ないと言われたのだ。


モヤモヤしながら、
ふと自分のバンドで作った
PV映像を見ていた。


「ええよなー!”こういうの”あれば、
 皆もっとLIVEの集客に活かせるのに・・・?」


「!!!」


今となっては、当たり前だが、

当時は大発見でもしたかのような気分だった。


「そうか!ちゃんと目の前で
 ”参考になるミュージックビデオ動画”を
 見せたらええんや!」


気づいてからは早かった。


コンピレーションアルバムに
参加したバンドの中で、


最も近い日にLiveがあるバンドを
調べて、実際に見に行った。


今はなき、福岡天神のVIVRE HALL。


ギャル系のアパレルショップが
並ぶ施設内をそそくさと進み、


エスカレーターをスタスタと
駆け上がる。


ドアゲートの2000円を支払い
チケットを手渡してくる女の子は、
 とても仏頂面だ。


毎回思うが、


“なぜライブハウスや音楽系スタッフの子は
こんなにも仏頂面の接客をするのだろうと
思ったことが何度もある。


それも、昔は分からなかったが、
今では分かる。


中に入ると丁度楽曲が終わった
ところらしい。


どこぞの知らない”自称”アーティストが、
たわいもないMCをしている。


立場が変われば、
発言も変わる。

昔、自分がステージからお客さんに
投げていた言葉ってこんな感じだったのかと


改めて気づかされた。


そして、ラストソングと
バンド名を伝えると、
あることに気づく。


「お目当の商談相手は、この次だ!」


バンドは終われば、来てくれたお客さんの相手や
打ち上げでふけてしまうために、


PVの話をするなら、
ステージに上がる前しかない。

気がつけば、立ち入り禁止の
ゲートを勝手に開けて、

楽屋に飛び込んだ。

すると、お目当てのバンドの
ドラマーが不思議そうにこちらを見ている。


「あの、OOってバンドですよね?
 話したい事があって、見にきました!」


「おぉマジで!?何か分からんけど、ありがとう!」


今でも、こういったご縁には、
感謝している。


そして、そこからは決して
誰からも習っても学んでもないのに、


“商談”を流暢に進めたのである。


ミュージックビデオを見せて、
なぜ、集客に苦戦するのかを伝える。


「知らない曲を金払って、
見にきたい人はいない」

「知っている曲を聴きたくて、
 そして見たくて、人は足を運ぶ」

昔、自分がバンドを組んていた時の
ライブ帰りに尾崎から言われたことが
頭をよぎる。

「目線は自分ではなく、
 お客さんに向かないと意味がない」

あっという間の15分くらいの会話だったが、
このお目当てのバンドのドラマーも飲み込みも早く、


「終わったら、メンバーに伝えて、 返事するね!」


そう言って、ステージに向かっていった。 

「何やってんだ!お前!」


関係者スタッフに見つかり、
怒られるも、満足して笑みを浮かべたら、


火に油を注いだらしい。


そそくさと、客席へ戻り、
お目当てバンドのラストナンバーを聞く。


この曲を、こんな風にして
ミュージックビデオにすれば、
お客さんにも彼らの良さが伝わるだろう。


鼓膜を揺らす轟音に
脳内を切り裂くシンバルの音。


心臓のリズムすら狂わしそうな
ドラムビード。


演奏が終わり、少し待っていると
お客さんへの挨拶よりも先に、
自分のところへ来てくれた。

「タカシくん!さっきの話,OKってよ!」 

そういって、メンバー全員を紹介してくれた。


そして、満を持して、
伝えた。


「俺がやってあげますよ!
さぁ、来週から”ミュージックビデオ”を作りましょ!」


金なし、コネなし、人脈なし。


唯一あったのは、
根拠のない自信と


親友からの、”戒め”の言葉。


自分目線ではなく、 “お客様の目線”に立つ。


そうして、”初仕事”は、
舞い降りてきたのである。


続く・・・・



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