スポーツを選ぶ観点

夫はゴルフをする。

出会った頃はとにかく一緒にいたいがために、必死でゴルフに興味があるフリをした。練習場へ行くと言えば着いて行き、座って夫がスイングするのを眺めたり、「たまにはやってみますか」というスタンスで教わったりもした。
が、彼が何を言っているのかは、1ミリも理解できなかった。

そうこうしているうちに下手なりに少しは打てるようになり、友人夫婦とラウンドに行ってみようかという話になった。
そして秋に差し掛かったとある日、私たち4人は某県のゴルフ場にハーフラウンドに行った。

結果は散々だった。
しかし、ラウンド自体は楽しかった。走り回り地面を叩き散らかした私は、心地よい疲労感と達成感でいっぱいだった。
そして友人夫婦と別れたあと、「腹減った~」とこれまた楽しそうな夫と、すき家で空腹を満たし、帰宅した。

その後10年近く、私はゴルフに行っていない。

理由は痩せないからだ。

あれだけ歩いて疲れたのに、私の体重は1グラムも減っていなかった。むしろ帰宅途中のすき家のせいで、体重は朝よりも増えていた。
痩せていると球が飛ばないという理由で、ゴルファーのなかには体を大きくする人もいる。が、あれだけお腹が減っても痩せないスポーツだから、体が大きい人が多いのも納得だなと感じた。

私はそもそもインドアで怠け者で、スポーツはあまりしない。ダンスは長く習っていたし、学生時代はバスケサークルにも入っていたので、根本的に体を動かすのが嫌いなわけではないが、屋外スポーツは日焼けがいやだし、暑さ寒さをもろに受けるので好まない。

だが夫と楽しめるなら…と始めたゴルフなら、できる気がした。ウェア買おうかな、バッグはアレがいいななどとワクワクしていた気持ちは、すき家を経由して乗った体重計の上で砕け散った。

息子たちが生まれて、家族で練習場に行くことが年に1,2回ある。そんなときは「お母さんも打っちゃおうかな~ウフフ」などと行って数球打つが、それ以外にゴルフに触れることはない。
夫はよく「奥さん、ゴルフしないんですか?」と尋ねられるそうだが、「しないんですよね~。焼けるし痩せないからって」と、都度正直に答えるらしい。

体を動かすといえば、最近はストレッチとウォーキングをしている。ここ数年、座りっぱなし、基本引きこもりの毎日に何の疑問も抱かず生きてきたが、30も半ばに差し掛かると「健康」を意識するようになる。その結果が、ストレッチとウォーキングだ。

スポーツの選択肢は幅広いが、私は「楽しいかどうか」よりも、まず「痩せるか痩せないか」を重視する。ウォーキングが痩せるのかは謎だが、意識的に歩くようになってから体重は少し減ったし、ストレッチのおかげか肩こりも軽くなった。
ゴルフが痩せるスポーツなら、私は迷わずゴルフにのめり込んでいただろうが、そうはいかなかった。

しかし最近、ゴルフ関連の仕事をいただくようになり、スイングやら何やらの知識だけは昔より増えた。正月に練習場で数ヶ月ぶりにクラブを握ったら、自分でも驚くくらい球が飛んで、夫が感動していた。

爽快感や満足感は、やはり「痩せない」を超えるものではなかったが、「ゴルフ、やってみようかな…20年後ぐらいに」という気持ちにはなれたので、それはそれでよかったと思う。

スポーツを選ぶ観点は人それぞれだ。私は「痩せるかどうか」だが、次男はどうやら、「土日に行かなくてよいか」がそれらしい。隣家の男の子がバスケをしているのを見て興味を持ったものの、「土日に練習がある」と聞き、「行かない」と即答した。

長男がそのあたり何を考えているかよくわからないが、恐らく何も考えていないのではないかと思う。強いて言えば「痛いか痛くないか」は気になるらしい。空手は何が何でも行きたくない様子だったし、サッカーも「友達とやるのは楽しいけど、習いに行くとなると違う」そうだ。
そんな彼は、毎日休み時間に鬼ごっこをしている。1年以上、飽きもせず。「鬼ごっこばっかして、何になるのか」と、何にもならないごっこ遊びやおしゃべりばかりしていた自分を棚に上げて思ったが、長男はマラソン大会で最高4位という記録を持ち帰ってきたので、私よりは有益な休み時間の使い方をしているのは明らかだろう。

「楽しい」が何かの結果につながるのは、いいことだ。私もゴルフを楽しいと思うので、始めれば新しい扉が開くかもしれないとも思うが、最近ますます出てきた夫の腹や、試合に登場するプロ達の体型を見ると、どうしても自分のなかで失うもののほうが大きい気がしてならないのだ。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?