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量ではなく「質」で承認欲求を満たすために必要なこと

10月24日に神楽坂モノガタリで行われた磯野真穂さんと水野梓さんのトークショーのレポートです。磯野さんの著書『ダイエット幻想ーやせること、愛されること』を元に承認欲求について紐解き,他者とラインを描きながら生きることに触れていました。


質的に承認されるとはどういうことか

承認欲求といっても,量的な承認質的な承認があるらしい。前者はフォロワーのような数値化できる形式だが,後者はなんだろうか。

例えば数字を持たない民族は,自分たちが飼っている牛が何頭いるかと言われても答えられない。しかしどこから来た牛か,どの牛と結婚して生まれた牛かなど,個々の牛に関しては答えられる。
つまり数で答えられなくても,個々の牛が持つ「ストーリー」は把握している。

磯野さんはこの状態を「(牛を)質的には把握している」と表現していた。
つまり質的に承認されるとは,数ではなくストーリーで認識してもらうことなのではないだろうか。


「美味しいエピソードは彼女のストーリー」

ストーリーの具体例として,磯野さんは美味しかった食べ物がなぜ美味しかったのかを質問して「美味しかったエピソード」を集めていた。

ある女性はチョコバナナチップスが美味しかった理由を「彼がバイトの前にわざわざ買ってきて家のドアノブにかけてあったから」とシチュエーションで説明する。全然味の話ではなかった。

しかし上記のようなエピソードは,普段は表に出てこない。説明しようとしなければ,「だって美味しかったから」の一言で簡単にストーリーを消せてしまう。


これは話す側・聞く側問わず,簡略化や抽象化をする人が悪いのではない。
ストーリーを圧縮することなく,元データのサイズで話を聞いてくれる人が稀有なのだ。
脳のストレージは限られてるから,近しい間柄だとしても圧縮前のサイズで共有できることは少ない。


自分の存在が抽象化されるということ

例えば私が「茶人なんです」と自己紹介するとき,それを聞いた初対面の人は,矢島は茶道をしてる人だなと抽象化する。

このとき「楚々と茶道教室に通っている訳でもなく,従来の茶道に全然馴染めていない私」という実際のストーリーとは,おそらく真逆に解釈されている。
抽象化とは,そのくらいの精度だ。


茶人っていうぐらいなんだから茶道が好きなんだろうと思われ,私も面倒なことは言わずに「好きです〜」というスタンスで応じる。
こうして「キャラ(他人が思う自分像)」ができていく。


私の「個性」は他人が決める

もしそれが嫌なら「お茶の人です」と自己紹介しなければいいのだろう。お茶が本業だから難しいが,隠すこともできるはずだ。

しかし今の私にとってはお茶が「人より頭一つ出るところ(=個性)」だから,名乗らざるを得ない。


明日にでも茶人を辞めてしまえば,きっと頭一つぶん背の低い私が出来あがる。

私の「個性」からお茶が消えれば,第二の特徴として,今度はインスタの人とでも思われるのだろうか?
私の背はどんどん低くなっていくのだろう。


なぜ理解されない人生は辛いのか

このとき,私の願望は「ストーリーを知ってほしい」だ。褒めてほしいとかより手前の次元。
しかしそのストーリーは,(茶道界や現職のことを考えると)大っぴらに発信して不特定の誰かに知ってもらう訳にもいかない。

つまり何百・何千とフォロワーがいたとしても決して満たされる部分ではなく,量的な承認は役に立たない。


こうして「人から見えているキャラ」と「人に言えない部分」のズレを生きることになる。


私を茶人だと思って接してくれている人には,言えない話もある。私がなぜお茶をしているか,本当のところは身近な人も知らない。

お茶をすればするほど「茶道が好きな人」というキャラづけを自分で繰り返してしまい,余計に孤独を感じる。

私のお茶人生は,この「ズレ」の歴史だった。


「ズレ」を繋ぎ,関係性を築くこと

どんな関係性も"店員と客"のような役割から始まると磯野さんは説明する。関係が深まる中で,「こう振る舞わなければ」と決め打ちされた役割から「ズレ」が出てきて,それを繋いでいくのが「質的(ストーリー的)」な部分。

つまり,茶人としての私が誰かと向き合うときに生まれた上述の「ズレ」は,ズレた部分を繋ぐストーリーを話していくことでしか埋まらない。



量的にフォロワーを増やしても仕方なくて,自分のストーリーを把握してくれる人を見つけるしか,質的な承認を得る方法はないのだと思う。

それはもう,誰かに賞賛され評価が上がるといった,今以上の自分になるための承認ではない。

ある人の前ではズレていない自分でいられるということが,何よりも「存在を認められている」ということだ。



↑トークショーの中でご紹介いただいた,宮野さんと磯野さんの別のイベントのレポートはこちらです。こちらの方は偶然性の話を受けて「自分の力で」恋愛することについて書いています。


↓偶然ですが,このトークショーの数日前に量的な承認についてつぶやいていました。


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