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3.1.2. 問題(1)茶事をしない/させない教授者

茶会をしない茶道修練者

本稿の主要なインフォーマントの第一の特徴として,人にお茶を振舞っていることが挙げられる。

お茶を点てるための点前作法を学んでいるのだから,茶道を習っている人々がお茶を振る舞うのは当然だ,と思われるかもしれない。


そこで,松江市の茶道修練者に自分たちでお茶会をするかどうか尋ねてみた。
彼女らも「お茶会の時期に親しい人で集まって」茶会をすることはあるようだ。
しかし,先生の道具や場所を借りる都合で,先生と一緒に茶会をすると説明を加える。

茶道の習熟度や茶道具一式を揃える必要性などを理由に,師事している教授者に直接関係のないところで茶会を開く機会が少ないということは,広く一般的な茶道修練者に当てはまるのではないか。



茶事をしない教授者

一方で,「茶道団体」のメンバーであるレナさん(20代後半,女性)は,茶道のポジティブな面は茶事の中にあると考えていた。
過去には年に4回ほど,自宅でも自分で茶事を催していた。


一般的に広く「茶会」と呼ばれる場では,主に薄茶と茶菓子が供される。
それに対して茶事はより正式な茶会であり,懐石料理と濃茶と薄茶が供される。

そのため,茶事の準備をする亭主側は,通常の茶会とは比べものにならないほどの時間と労力を要求される。

レナさんは,自身の茶事に招いたある茶道教室の教授者が,今まで茶事をしたことがなかったことが一番ショックだったと語った。


加えてレナさんは,教授者になると仕事としての茶道が忙しくなり,簡単な茶会は催しても,プライベートでは茶事をしなくなる人が多いことに触れていた。

確かに茶事を催すのは難易度が高い。
しかし,もし生徒が茶事をやりたいと申し出た場合,教授者の多くは「あなたはまだ」と言う,とレナさんは説明する。

そして先生が生徒を止める理由は,その生徒の力量だけでなく,先生自身が茶事をしたことないからではないかと推察していた。


生徒に茶会の開催を薦める教授者の場合

しかし,先生が茶事や茶会を開くことを勧めるか否かは,茶道教室の方針に依拠する。
上述の例で言えば,先生自身が(若い頃から)茶事の経験があれば,人に振る舞うということを応援してくれるようだ。


社会人になって4年目ほどの頃に茶道を習い始めた大輔さん(30代後半,男性)は,月に3回茶道教室に通い続けていた頃に,「3年くらいしたら本当に飽きて,辞めようかなと思っていた時期もあった」と語った。

すると,大輔さんが点前の練習に飽きてきたことを先生が見抜いて,毎月茶事をすることを提案し,茶事の仕方を教えた。
大輔さんは,懐石料理の作り方など茶事の稽古をきっかけに,茶道が面白いものだと再認識し,こうしたお稽古に加えて「茶道団体」の活動も始めた。


洋平さん(30歳前半,男性)の茶道の先生も,茶会を自分で催すことを勧めてくれるタイプの人だったようだ。
人にお茶を振る舞うことに関して,「先生はすごく背中を押してくれた。私だけじゃなくて,他の生徒さんみんなにも。むしろ会社とかで,自分のお茶の稽古場以外で茶を点ててないと怒る」と語っていた。

その言葉通り,洋平さんと同じ茶道教室に通う若い女性は,お稽古を始めて3年ほどであったが,自分の好きな道具や服装で茶会を開いているようだった。

亭主デビューの早い人

茶道界では,何十年とお稽古に通っていても,みな一様に「まだまだですから」と謙遜することが美徳とされている。
3年という修練期間で客に茶を点て始めるのは,非常に早いと考えられる。

通っている教室の教授者の後押しや理解がなければ,なかなか茶会に踏み切れないと推測できるだろう。

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