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【1話完結小説】坊やと電柱(ロングバージョン)

飛び出し坊やは「僕が子供達を守るぞ!」とキラキラ輝く瞳でこの街にやって来た。

20年後。

飛び出し坊や(もう青年)はかたわらの電柱に呟く。
「なあ…俺がずっとここにいた意味、あるのかな?」
その瞳はどこまでも真っ暗で、今ではもうキラキラも何も映していない。

電柱は「何事もなかったことが答えです。」と静かに言う。

2人の間にぴゅうと秋の夜風が吹き抜ける。
飛ばされた枯れ葉たちが遠い闇の向こうへカサカサ音をたてながら消えていった。

飛び出し坊やは明日、ひっそりとその役目を終える。

*******

飛び出し坊やは去った。

電柱は、想像以上の喪失感を抱く自分に戸惑っていた。
細長いこの体をいま切断してみたら、鉄骨もコンクリートも入っていないただの空洞なのではないか…そんな不安に駆られるくらい、何かがごっそり無くなってしまった。
きっとあの日、彼を載せて走り去ったトラックが私の中身も持って行ってしまったのだ。

来週には新しい坊やが配置されるだろう。
それでもこの空洞が埋まることはない。
きっともう、永遠に。

ドォォオオオン

急にダンプカーが突っ込んできた。

電線がぐわんとたわみ、コンクリートの破片が砕け散る。
皮肉なことに、この衝突で自分の体に鉄骨とコンクリートがきちんと詰まっている事実を突きつけられた。

電柱は薄れゆく意識で思う。
ああ、彼は子供たちだけでなく私をも守ってくれていたのだ。

「ありがとう、あなたの隣にいられてずっと幸せでした。」

向こうで会ったら真っ先にこの気持ちを伝えよう。
彼のもとへ行けることが嬉しくて、電柱は倒壊しながら最期に頬を染めて笑った。

end

※解説※
元々このお話はTwitter上で140字小説×2(坊やサイドと電柱サイド)という長さで誕生しましたが、もう少し肉付けした文章も書きたくてnoteではロングバージョンも作ってみました。
140字だと、俳句のようなもので読み手さんが感情や情景を脳内補足しながら読める自由さがあるなと思います。
ロングバージョンだと私なりの世界観をもう少しだけ具体的に伝えることができるのかなと思います。
みなさんはどっちがお好みだったでしょうか^ ^

読み比べてみて☆
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