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【エッセイ】甘くない話

 これは私が“危うく高い桃を買わされそうになった”…要約すればそれだけの話です(笑)

 まずは下記の小話にお付き合い下さい。多少フェイクありつつもほぼ実話です。

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“あま〜い桃6個500円”

 「安っ!」車を運転していると、田舎の車道沿いに点々と置かれた粗野な看板が目に入った。手書きの雑さが逆に直売ならではの新鮮さやお値打ち感を演出し、私は宝箱を見つけたような気持ちで、勝手に期待を高める。

 そうして看板を3つほど過ぎた頃、満を持して路上に停められたリヤカーと桃ののぼりが目に飛び込んできた。「ああここか」思わず車を停めて近づく。

 リヤカーには真っ黒に焼けた中年男性。足音でこちらの気配に気づいても良さそうなものだが、ずっと下を向いている。

 「あのう…6個500円の桃、欲しいのですが」私が声を掛けると男性は顔を上げ、おもむろに簡易机の上のカバーをめくる。そこには大小様々な桃がずらりと現れた。

 そして当たり前のようにこう言った。「6個500円の桃は味がしません。甘いのはこちらの大玉、6個3000円です。」

 私は驚いて固まり、我が耳を疑った。

 男性は続けて3段回ほどの桃のサイズと値段(いずれも500円より高い)を淡々と説明しながら「味見どうぞ」と一切れの桃を差し出す。“あま〜い”はずの桃は思ったより甘くなかった。口に含んだ桃には皮が付いていたが、捨てるゴミ箱もなくそのまま口中で持て余す。

 ____そして訪れる沈黙。

 昔の私なら男性の雰囲気に呑まれ、中くらいの値段の桃を買っていただろう。しかし年を重ねた今、私は少し強くなった。「ちょっと思ってたより高いので…考えますぅ〜」とヘラヘラ笑ってみせる。

 男性は無表情で「そう、桃は高いからね」とひとこと告げると、また私の気配など感じていないかのように下に向き直る。

 私は口に残った桃の皮を無理矢理ごくりと飲み込んで、逃げるようにその場を後にした。

end

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 …ハイ、ここまで読んで下さりありがとうございます!
 後日気になって調べたらこういう商法(?)があるようです。安い値段だけ表示して、客をおびき寄せるという。

 勿論、路上販売の全部が全部そうだとは限らないけど。中には真っ当な値段設定で良心的にやってる人も居るかもしれません。

 とにかく、自分の目で見て触れて、そして「ヤバいな」と思ったらキッパリ断る勇気。これが大事だなと今回改めて思いました。しっかりした人はそもそも近寄りすらしないのかもしれないけど(笑)

 個人的には非常にいい経験になりました(こうしてネタにもなった)!皆さんも甘い話にはくれぐれも御用心下さいね。しかしあの桃買う人、どれくらいいるんだろうか…。

end

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