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2024年~ありのままの私たちが、つながる。

(年に1度すら記事を書けていないTeachers代表 中場牧子の日記です💦)

月と太陽。
夜と昼。
女性と男性。
そして、陰と陽。

陰性と陽性は、この宇宙に存在する最も基本となる力で、この陰と陽の相互作用によって万物が創造されているという。

セルフ・コンパッション(自分に対する理解と思いやり)にも陰陽の側面がある。それが「優しさ」と「強さ」のセルフ・コンパッションだ。

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 おそらく私にとって、2024年を象徴する本は、『自分を解放するためのセルフ・コンパッション』になることだろう。来年は多くの女性たちとつながり、分かち合い、学び合い、実践を通してセルフ・コンパッションを身に着けていくための読書サークルを主催していく。この記事では、私の個人的なストーリーを通して、この読書サークルを開催することに決めた背景について書いてみたい。

Amazon購入サイトより


何かが起こりそうな予感がする。

 「何かが起こりそうな予感がする。私と話す女性はみな、そう感じています。私たちはうんざりしながら、怒りながら、変化を待ちかねています。伝統的な性役割と社会的な権力構造は、女性が自分らしさを十分に発揮する能力を制限し、個人と社会の双方に大きな犠牲を強いています。・・・」

『自分を解き放つセルフ・コンパッション』クリスティン・ネフ、英治出版 p.20

 2024年は一年かけて、この印象的な一文から始まる『自分を解き放つセルフ・コンパッション』を、女性のための読書サークルとして読み進めていく。
 以前より、女性の、女性による、女性のための場を作りたいという気持ちがあった。「何を今更、女性だけで?」という反応もあることは重々承知の上で、「それでもやっぱり、どうしても」という思いが募り、女性のための読書サークルの開催に踏み切ることを決めた。


なぜ女性限定で、なぜ今なのか?

 私たちは今、第4波フェミニズムの渦中にあるという。20世紀初頭の婦人参政権獲得運動(第1波)、1960年代のウーマン・リブ(第3波)、1980年代後半からの「インターセクショナリティ」「ダイバーシティ」を重視した運動(第3波)、そして2010年代以降のオンラインフェミニズム(第4波)だ。第4波の特徴は、SNSやオンライン上での情報発信や議論だという。例として「#MeToo運動」と言えば、ピンとくる方も多いと思う。
 かくいう私も #MeTooで、長い間苦しんできた。幸いにもマインドフルネスやセルフ・コンパッションに出会い、心理的な意味において、またスピリチュアルな意味において、自分は助けられたという特別な思いがある。だからこそ、センシティブな話題について、ジャッジされることなく安心して語ることができるような、女性のための場を作りたいという願ってきた。
 自分の中で怒りと祈りが程よくブレンドし、ようやく声を上げようと思えるようになるのに30年かかった。それが私にとっての「2024年」の意味だ。
 

『幸せになりたい女性のためのマインドフルネス』を読んだ

 私は自分で運営しているオンラインコミュニティ「マインドフルネス・ビレッジ」のほかに、母親向けのオンラインコミュニティである「母親アップデートコミュニティ(通称 HUC)」に所属している。HUCのメンバーは主に30代~60代の母親だ。そこのマインドフルネス部の読書会で、2023年の春から秋にかけて仲間と一緒に『幸せになりたい女性のためのマインドフルネス』(ヴィディヤマラ・バーチ、クレア・アーヴィン、創元社)という本をじっくりと丁寧に読んだ。

『幸せになりたい女性のためのマインドフルネス』

 現代女性はとても忙しい。多くの女性たちが、持続可能なワークライフ・バランスを見つけるのに四苦八苦している。もちろん私もその一人だ。
 では、どうやって仕事と私生活のバランスをとることができるのだろうか?どうすれば自分らしさを見失わずに生きることができるのだろうか?そして、どうすれば自分の可能性を制限することなく力を発揮して生きられるのだろうか?・・・ このような問いに対し、様々なマインドフルネスのプラクティスを通してこたえていくというのが本書の内容であった。現代女性は忙しすぎる。だからこそ、調和を取り戻して安定するためには瞑想が必要なのだ。そこにも陰陽の原理が働いている。そして瞑想を充電時間として大切にすればこそ、行動するためのエネルギーが得られるというわけだ。
 この本の最終章に、現代の女性を取り巻く現実について淡々と記載されている箇所がある。

● 女性は、全労働時間の3分の2、全世界の食料生産の2分の1を担っている。 にもかかわらず、手にしているのは、全世界の収入の10%、財産の1% にす ぎない。
● 世界人口に占める女性の割合は50%であるのに対して、全世界の貧困者に占める女性の割合は70%に上る。
● 15歳から44歳の女性がレイプや家庭内暴力の被害を受けるリスクは、戦争、 がん、マラリア、 交通事故のリスクよりも高い。
● 世界じゅうの女性の3人に1人が生涯に一度は暴力を受けたり、セックスを強要されたり、 虐待されたりしている。
● 毎年150万~300万人の女性が性差別的暴力により命を落としている。
● 毎年 70 万~400 万人の女性が売春目的で売り飛ばされている。
● 妊産婦の死亡の99% は発展途上国で発生する。1分に1人の女性が妊娠関連の原因で亡くなっている。
● 非識字人口(読み書きのできない人)は全世界で 7 億 8000 万人、そのうちおよそ3分の2は女性である。
● 全世界で 4100 万人もの女の子がいまだに初等教育を受けられずにいる。
● 全世界の国会議員に占める女性の割合は20%にすぎない。

『女性が幸せになるためのマインドフルネス』p.187

 初めてこの箇所を読んだとき、愕然とした。目を覆いたくなるような、胸が痛くなるようなデータの数々。21世紀とはいえ、世界に目を転じてみれば私たちを取り巻く現実はこれほどまでにシビアなのだ。そして日本についても、未だ女性の国会議員はほんの10%程度、そして上場企業の女性役員は9%程度に過ぎないという。(実際、私自身も名刺を渡した瞬間に、相手の男性から「あ、あなたが代表・・・」と、困惑が入り混じった独特の笑いを浮かべられ、うっすらとした違和感を覚えたことが何度もある。)
 そして著者は次のように女性たちに対して勇気づけのメッセージを贈り、本書を締めくくる。「瞬間瞬間、マインドフルで優しくあろうとすることは、 とても小さな行動にすぎません。 しかし、それを何千回も何万回も繰り返していけば、 私たち女性は、とても大きなことも成し遂げられるのです。・・・今こそ『あなた』と『私』が集まってつながり合い、『私たち』になるときなのです。」(本書p.190)
 このメッセージは、私の胸にガツンと響いた。

『ソーシャルジャスティス』も読んだ

 母親アップデートコミュニティ(HUC)ではもう一つ、読書部にも所属している。HUC読書部で2023年秋に『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(内田舞著、文春新書)を課題図書として読んだ。これが、とても刺激的だった。出版元のサイトを見ると、こう書かれている。「恐れず変化の種をまくために。炎上や論破ゲームに乗らず、分断と差別を乗り越えるためには。」

そのための処方箋がこの本、というわけだ。

『ソーシャルジャスティス』


 この本のエピローグには目が釘付けになった。タイトルは「ラジカル・アクセプタンス」。心理療法やマインドフルネスのコンセプトとして取り上げられる概念だ。(旧版『ラディカル・アクセプタンス』(タラ・ブラック著)は2022年のHUCマインドフルネス部での課題図書でもあった。)ラジカルアクセプタンスとは、感情や状況をジャッジしたり非難したり拒絶したりするのではなく、ありのままに受け入れることを意味する。つまりそれは自己受容と他者の受容でもあり、現実をありのままに受け入れるという態度のことだ。
 エピローグの最後、こんな文章が書かれていた。

気づくことが第一歩。気づきを声にしてみることが第二歩。その気づきの声が共鳴するたびに、社会の歌が生まれます。その歌が社会をさらに前進させる。・・・まずは自分の思いに素直に耳を傾け、その思いが社会とも無縁ではないと信じてみること。それがソーシャルジャスティスの種になり、そこから未来の分断を超える変化が育つのだと信じています。
私もまた自分のために、社会のために、未来のために何ができるのか。誰かのために、小さな一歩でも前に進む種まきの手助けができたら光栄だと思っています。

『ソーシャルジャスティス』エピローグより

 内田舞さんのしなやかで希望に満ちた言葉に、心が大きく震えた。そして共鳴するものを感じた。私自身、オンラインコミュニティ「マインドフルネス・ビレッジ」のテーマとして掲げているのが「誰もが大きく花開く」という言葉だ。コミュニティを土壌に見立て、各々の心の中にある喜びの種にマインドフルネスの光をあてて、そこでお互いにコンパッションの水やりをして、心の庭にある花を健やかに成長させ、大きく開花させる・・・こんな願いがそこにはある。
 気づくことが第一歩。気づきを声にしてみることが第二歩。本当にその通りだ。私だったら自分のために、社会のために、未来のためにいったい何ができるのだろう?そしてこの「気づき」という言葉は、私を後押しすることとなる。

Strong Back, Soft Front(背筋をしっかりお腹を柔らかく)

 今年もう一つ、私がマインドフルネスを実践する上で大きな出来事があった。秋に、コンパッションの世界的指導者 ジョアン・ハリファックス老師の来日イベントに参加したことだ。
 彼女のTEDトーク「慈悲、そして共感の真の意義について」は私のお気に入りの動画だ。

彼女のユーモアあふれる力強いスピーチには、エネルギーが枯渇してヘトヘトになったときに何度も勇気づけられ、精神的に助けられてきた。ハリファックス老師はこう言う。
「仏教では 『背筋をしっかり、身体の前面(お腹)を柔らかくすることが必要だ 』と言います。状況の中で自分を支えるには、背筋に大きな力が必要です。そしてそれが平常心という精神的資質なのです。しかし、同時に柔らかなお腹も必要なのです。 ありのままの世界に開かれる能力、 防御のない心を持つことです。 そして、仏教におけるこのアーキタイプ(元型)とは、世界の苦しみの叫びを聴く者である観音菩薩なのです。」
 来日時にもハリファックス老師の”Strong Back, Soft Front” は何度も聞かれた。彼女には、長年の活動から培われたエネルギッシュな一面と、仏教の修行から培われた柔和な面がある。その二つが統合された圧倒的なプレゼンスが感じられた。    
 ハリファックス師来日時に、通訳として付き添っていたのが本書の監訳を手掛けた木蔵シャフェ君子さんだ。当時の君子さんのSNSに、次のような言葉があった。「(老師は)日本の女性差別について、マインドフルネスとコンパッションを実践する以上は立ち上がってください、と力強くおっしゃり、私自身もっとはっきりと声にしていこう、と思ったのでした。」
 目が開かれた思いがした。マインドフルネスといえば、気づきだ。気づいたなら声を出さなくちゃ。
 気づくことが第一歩。気づきを声にしてみることが第二歩。ここでも同じことが語られている。その偶然に「タイミングなんだな」と思った。

待っているだけでは遅すぎる

 また、君子さんがnoteに書いた言葉も私を後押しした。本書の内容紹介も兼ねて、長くなるがそのまま引用してみよう。

 本書では特に、社会にあるバイアス、特にジェンダーバイアスに対して優しさと強さのセルフ・コンパッションを活かすことが提言されています。
「女性は不公平や理不尽に際して、怒ってはならず、いつも感じ良く穏やかでいること」「男性は怒ることは許されても、悲しみや涙などを見せてはならない」「女性は本来は男性リーダーの補佐が向いている」「女性リーダーの補佐をしている男性は弱い」など、改めて文字化すると、ジェンダーバイアスの不条理や有害さがより明らかになりますね。
社会が変わるのを待っていては遅すぎます。このペースでは私たちや子供の世代までも間に合いそうにありません。
 しかし、女性、男性のみならず押し付けられた性役割のために自分の価値観を抑圧されているすべての人が、セルフ・コンパッションの強さと優しさ、両方によってエンパワーされれば、個人が自分のために状況を変える勇気が芽生え、本来の力が発揮でき、社会にも公平性や寛容さが可能になってきます。
 セルフ・コンパッションは個人の問題であると同時に、その影響は周囲やコミュニティ、ひいては社会や文化に浸透していくのです。
強さと優しさのセルフ・コンパッションを培うことは、この点において着実な社会改革なのです。
 まずはご自身の生きづらさを変容するためで良いのです。強さと優しさのセルフ・コンパッションで自らの苦しみを成長へと変容させていただけることを心から願っています。

マインドフルリーダーシップnote記事より
https://note.com/mindful_ls/n/nc2a50066b2db

 君子さんのこの文章は大きな刺激となり、「ああ、そうだ。社会が変わるのを待っているだけは遅すぎる・・・じゃあ今、自分にできることをしよう」と思った。これが私のアクションを促す大きなきっかけになった。
 振り返ってみれば、今まで主催してきたオンライン読書会の中で読んだ本は既に十冊以上に及ぶ。この経験を活かして自分にできること。それは、まず積読状態で放置していた本書を、本棚から引っ張り出してくることだった。

 本書の見所

著者クリスティン・ネフの思い

 『自分を解き放つセルフ・コンパッション』は533ページにも及ぶ、まるで辞書のような存在感がある大著だ。普段から書物に親しんでいる人ならともかく、読書離れが語られて久しい昨今、誰にでも「おススメです」とは言い難い。正直なところ、手に取るだけではズッシリとした無言の圧を感じる。
 そのボリュームもさることながら、英語版は真っ赤な表紙。それを見たとき、私もその迫力に一瞬たじろいだ。副題である ”How Women Can Harness Kindness to Speak Up, Claim Their Power, and Thrive” は、「女性が優しさを活かして声を上げ、力を発揮し、成功する方法」とでも訳せるだろうか。

Dr Kristin Neff, (2022)

 表紙の左下にいる黄金色のクマは母グマのような勇猛さを表す象徴だ。大切な子グマを誰かに脅かされたり、攻撃されたりしたときに、凄まじい防衛的な怒りとともに果敢に相手に立ち向かうというような。そういうエネルギーを、「強さのセルフ・コンパッション」と著者のネフは言う。
 

第4波フェミニズムからの流れ

 彼女はこの本を明確に、女性に向けて書いている。その理由を、「歴史上の現時点において、とりわけ女性にセルフ・コンパッションが必要だと考えている」からだとする(p.31)。女性の権利を守る運動のおかげで参政権を得て、職場にも参入できるようになったとはいえ、まだまだ男性優位の社会で成功するには男性のように振る舞い、男性原理では評価されない優しさを封印するよう求められていると指摘する。
 そして#MeToo運動もまた、彼女が本書を書くきっかけになったという。本書の第4章では「#MeToo」をタイトルそのものとして、性的なハラスメントや暴力、虐待について取り上げられている。自分が詐欺師にだまされたという体験を赤裸々に述べた後に、強さと優しさを兼ね備えた、開かれた心で女性たちが団結することで最善の道が見えてくるとネフは述べる。
 さらに本書でネフは、自分が白人でシスジェンダーで異性愛者であることを明記し、無意識な偏見が存在し、可能な限り女性を自認する人々の経験を取り上げるつもりだが十分ではない可能性にふれている。そのうえで、本書が示す一般的原則が有意義な形で多様なアイデンティティを持つ人々に語り掛けるものであってほしいと願う。

全ての女性は同じではありませんし、全ての苦しみは同じではありません。しかし、勇猛さと優しさを兼ね備えたセルフ・コンパッションは全ての人に役立つものであり、性差別、人種差別、同性愛差別、障がい者差別などの迫害と戦う鍵になるはずです。

本書 p.33

実践からの学び

  ネフが本書で試みたのが、セルフ・コンパッションの強さの面にフォーカスして解き明かし、優しさのセルフ・コンパッションと強さのセルフ・コンパッションを統合することだ。これを単なる理論ではなく、実行できる新たな習慣として身につけられるように、本の中で27にも及ぶワークを提示している。「両者を組み合わせて思いやりの力を生み出し、その力を人間関係、介護、育児、仕事といった人生の重要な場面に生かす方法もお伝えします」と彼女はいう。つまりワークを通して陰と陽のセルフ・コンパッションを統合する術を身に着けることは、人生の本番で役に立つというわけだ。
 ありがたいことに、日本語での音声ガイドが英治出版から提供されている。本を読みながら、もしくは音声ガイドのみでもワークに取り組むことが可能だ。


ありのままのわたしたちが、つながるところ

 この本を手に取って読書会をすることを考え始めたとき、自分一人で回していくよりも、多くの女性のマインドフルネス講師たちとつながりながら読み進める方がいいと直感的に思った。「気づくことが第一歩。気づきを声にしてみることが第二歩。その気づきの声が共鳴するたびに、社会の歌が生まれます。」・・・それは、『ソーシャル・ジャスティス』で目にした内田舞さんのこの言葉が影響したのかもしれない。
 思い切って読書会をしてみたいと相談してみると、ありがたいことに監訳者の木蔵シャフェ君子さんのほかにも、海老原由佳さん(一般社団法人セルフ・コンパッション・サークル理事)、望月里恵さん(HUCマインドフルネス部部長、MBSR講師)がすぐに協力を快諾してくださったのが大変心強かった。この場を借りて心からのお礼を申し上げる。
 最後に、本書を通してセルフ・コンパッションのプラクティスを深めたいと願う女性に向けて、2024年に私が関わっていく場を二つシェアしたい。この記事を読んで興味を持ってくださった方は、是非ご参加ください。ネフが言う「何かが起こりそうな予感」を、単なる予感で終わらせずに現実にしていこう。あなたとともに本を読み進めることで、私たちの気づきの声が共鳴し、いずれ社会の歌として大きく育っていくことを信じている。

✿  母親アップデートコミュニティ(HUC)マインドフルネス部 ✿
毎週土曜日朝6時~7時に本書を丁寧に音読しながらじっくりと理解を深めています。(HUC入会のうえ、マインドフルネス部に入部ください。)


✿ 『自分を解き放つためのセルフ・コンパッション』読書サークル ✿
2024年1月から、1カ月に1章ずつワーク中心に進めます。Facebookグループに参加申請をしてください。
(監訳者 木蔵シャフェ君子さんをゲストに迎えたイベント(#0)の内容を一部公開しています ⇩)



文責:
中場牧子( ティーチャーズ株式会社 代表取締役)

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