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「アイアムアファーザー」第24話:僕だけの人生を生きる為のはじめの一歩

 あの日以来、僕は一心不乱に原稿を書き続けていた。子どもをバイリンガルにしたい人が読む本を出版できないかと思ったのだ。

 これまでに色々な国の人達と英語で交流をしてきて、日本人は英語でのコミュニケーションが苦手な人が多いことに気が付いた。そしてそれは、日本の英語教育の在り方に問題があるのではないかと考えていた。

 新太郎が生まれたとき、せっかく僕が英語を話せるのだから息子に英語を教えようと始めた英語子育て。新太郎が3歳になり、このまま続けていけば間違いなくバイリンガルになると確信していた。そして、この英語子育ての経験から、日本の英語教育の問題点もハッキリと見えていた。

 日本でも英語圏の国でも、子どもが生まれると、「聞く」「話す」「読む」「書く」の順番で母国語を覚えていく。それなのに日本の英語教育は「読む」から始まっている。「聞く」「話す」から始める英語子育てのマニュアルができれば、日本人の英語力が飛躍的に上がるのではないかと考えた。

 自分にしかできないことの第一歩として、このバイリンガル本を出版することができれば人生が変わっていくのではないかと思った。新太郎が最初に言葉をしゃべったときから今までつけてきた成長記録メモが役に立ちそうだ。

 僕は毎日、仕事を終えると原稿を書き、その合間に知り合いの編集者に会って、出版するためには何をすべきか相談した。その編集者には、出版不況の現代では、持ち込み原稿が出版される確率はほぼゼロに近いと言われて落ち込んだが、ブログで英語子育てのことを書いて人気ブログになれば、可能性が広がるだろうとアイデアをもらった。

 原稿を書き終えたその日に、ブログを開設した。奇しくも母の命日である6月30日のことだった。なんとなく母が応援してくれているような気がして心強かった。新太郎が英語を話している動画をアップすると、すぐに反響があり、読者が増え始めた。

 7月になると僕は原稿を持ち込む出版社を探し始めた。大きな書店に行って、英語関連の書籍を色々と立ち読みして、良い本が多いなと思った出版社をいくつかメモして家路についた。

 帰ってからそれらの出版社の規模を調べた。毎月百冊も二百冊も出版している出版社では、あわよくばバカ売れ、全く売れなくてもまあOKみたいな一か八かの色物的な本を作られてしまう不安があったので、月に数冊しか出版しない小さな出版社が希望だった。月に数冊しか出版しないということは、それを確実に売っていかなければならないので、しっかりとした内容の本を作ってくれるだろうという狙いがあった。

 リサーチの結果、僕が求めている出版社に一番近いベレ出版という語学系の本を多く出している出版社に電話をかけた。自己紹介をして本を出版したいので原稿を見て欲しいと伝えた。

 ベレ出版ではこれまでに持ち込みから出版に至った例はないし、出版不況なので本を出版できるハードルはかなり高いので難しいと言われたが、食い下がった。

「つまらなければそのまま捨ててもらっていいので原稿を送らせていただけませんか?」

 あまりに真剣でしつこい僕に根負けしたのか出版社側から原稿を送っても良いとOKが出た。「本当に期待しないでください」と念を押されたが気にならなかった。とにかく行動することで何かが起こる事を期待した。

 一週間後、ベレ出版から電話があった。

「原稿読ませていただきました。率直に言って大変面白かったです。よろしければ出版を目標に社内会議にかけさせていただいてよろしいですか?」

 僕は受話器を片手に満面の笑みでガッツポーズを決めた。ただ、会議にかけるからと言ってその企画が確実に本になる訳ではないらしい。数回の会議でどんどん企画が振り落されていって、最終的に残った数本の企画が本になるということで、まだまだ出版までの道は遠そうだ。

 だけど、このときの僕にはなぜか自信があった。リビングで遊んでいた新太郎と由莉杏に声を掛ける。

「Am I on the right track?  (俺、これでいいのかな?)」
「OK!」

 意味もわからないくせに新太郎が笑顔で答えた。


第25話:https://note.com/teachermasa/n/n25b97dd1141a

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