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【エッセイ風連載小説】Vol.4『その謎はコーヒーの薫りとともに夕日に解けて』

Vol.4
二回裏「そのラッピング、活かすも殺すもオトコ次第」

 
 
 
「目指すべきはココロのハイブランド化。人間性あっての服だから」
「元ショップ店員が言うと、なんか説得力あるね」
 
モテ服について熱く語っていたカノジョは、なんと元ショップ店員だった。
服が大好きだからショップ店員だったのでは?そのカノジョがなぜ服を「ただのラッピングにすぎない」などと言うのか、その疑問はその後のカノジョたちの会話で解き明かされていく。

似合っていないのに「ステキです!」「お似合いです!」
サイズが合っていないのに「これはタイトめに着るのもアリですよ!」「ゆったりめがトレンドです」
そうやって服を売る会社の姿勢にあらがい、カノジョは常にお客目線での接客を貫こうとしたが、その惨憺さんたんたる結果は数字となってカノジョを追い詰めた。

「会社に必要なのはお前の人間性じゃなくて数字(売上)なんだよ!」
上司のその言葉にココロが折れた。
 
服が好きで、オシャレが大好きだったからこそ、カノジョは理想と現実の板挟みに耐えられなかった。そして、服と自分を嫌いになりたくなかったから、カノジョはお店を辞めた。
 
「いつまでも青臭いこと言って、って思ってるでしょ?」
「それがアンタのいいところ・・・って言って欲しいんでしょ?」
「バレた?」
 
笑いながら二人はお店を出て行った。
だけど、カノジョの笑顔は最後までどこか寂しげだった。
 
隣で寂しくたたずむ「モテ服」をカレは見つめる。
みんなモテたいし、報われたいし、救われたい。
 
モテ服という幻想。
非モテ脱出のために、まずは手っ取り早く一瞬で変われるのが服装、そんな安易な考えで「モテ服」に手を出した自分が恥ずかしかった。
 
服装は良くも悪くも一瞬で変えられるもの。
しかし、人間性は一朝一夕で変えられるものじゃない。
 
ショップ店員は悪くない。
悪いのは「嫌われない努力」をはき違えていた自分だ。
 
「目指すべきは、ココロのハイブランド化」
カレにとってその道のりは険しく、そして果てしなく遠く思える。
 
善を急ぎ、思い立った日を吉日と思い込んだカレは、功を急ぎ、いて事を仕損しそんずる結果を招いてしまった。
 
カノジョたちが去ったあとのテーブルには夕日と、そして忘れ去られたような一切れのピザが残った。
ピザの発祥の地はイタリア、ローマ・・・
 
そうか・・・カレがすべきは「善は急げ」ではなく「ローマは一日にして成らず」だったのだ。700年という長い年月をかけて完成したとされるローマ帝国。大事業は長年の努力なしに成し遂げることはできない。モテるための道のりもまさに、カレにとっての大事業である。
 
折れそうなココロを抱えてお店を出たその時、バスケコートが目に入った。
 
「諦めたら、そこで試合終了だよ」
カレはふと、漫画『スラムダンク』の安西先生の言葉を思い出す。
 
桜木花道さくらぎはなみちは黙々と基礎練習を続けたからスラムダンクを決められた。
三井寿みついひさしはココロの声に素直になれたからまたバスケをやれた。
ひたむきに頑張る姿はいつでも光り輝き、そして美しい。
 
ローマは一日にして成らない・・・がしかし、すべての道はローマに通じている。
 
真理というものは、どのような経路を通ったところで必ず行き着くものであって、 真理に行き着くには決して経路はひとつでなく、試行錯誤しながらもいろいろな方法があるもの。
そう、試行錯誤しながら真理へ、「モテるオトコ」そして「いいオトコ」という真理へとたどり着けばいいのだ。
今日のこの失敗から何かを学べたなら、それでいいではないか。
 
どんなところにもモテる秘訣は隠されている。
それを見つけて立ち止まれるか、気づかぬまま通り過ぎるか、そこがモテるオトコの分岐点であるのかもしれない。

                    つづく

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