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【エッセイ風連載小説】Vol.3『その謎はコーヒーの薫りとともに夕日に解けて』   

Vol.3
二回表「そのラッピング、活かすも殺すもオトコ次第」


きっと誰もが思っていること。
「モテたい」一度でいいから「モテてみたい」
 
もちろんカレも例外ではなかった。
そんなカレが先日行ったカフェで偶然手にした「モテるための虎の巻」の第一章に書かれていたのが「嫌われない努力」である。
 
とはいうものの、何をどう始めればいいのかわからない。
モテたことはもちろんないが、あからさまに嫌われた経験もなかっただけに、何からどのように改善すればいいのか、それがわからないのだ。
 
しかし、「善は急げ」そして「思い立ったが吉日」である。
 
「人は見た目が9割」というから、まずは「服装」だろう。
カレは手っ取り早く、わかりやすい部分から改善していこうと考えた。
 
今までのサエない服装から、女子ウケするであろう服装へ。
カレは意気揚々いきようようと「嫌われないオトコ」への第一歩を踏み出した。
 
その数時間後、カレはショップ店員に勧められるがまま「モテ」フルコーデを購入し、高揚感と大きな紙袋を抱えてカフェに入った。
 
街の喧騒けんそうから少しだけ距離を置き、まるで来店を拒むかのような坂道のほど先にある、原宿のカフェ『I
向かいの広場のバスケコートでは白熱したゲームが続いている。
それとは対照的な、オトナの雰囲気満ちる店内で、まずは高揚感を落ち着かせようとカレはアイスコーヒーを注文した。
 
後ろの席では女子ふたりが、それぞれ大きな紙袋を脇にかかえて楽しそうに話している。聞こえてくる会話から、カレと同じように服を購入し、ここへとたどり着いたようだ。
 
「店員が推すモテ服を喜んで買ってるオトコなんて、モテるわけないじゃん」
 
ショップ店員オススメの「モテ服」を脇にかかえ、ゴキゲンでアイスコーヒーを飲んでいたカレの手が止まる。自分だけに向けられたかのようなカノジョのその言葉は、恐々としながらもカレの興味をとらえて離さない。

テーブルの上に置かれたグラスの中の氷とともに、カレの意識もまたその会話の中へとゆっくり溶け込んでいく。
テーマはずばり「オトコの服について」だった。
 
「いい店員なんてホント一握り。会社や店が売りたい服をモテだのトレンドだの適当なこと言って売りつけてる店員多いから」
「ま、仕事だからね」
「ダサいヤツと見るや、アタマのテッペンからつま先まで、徹底的にやる店員ってマジ尊敬」

明らかに皮肉まじりのカノジョの発言を、友人はやれやれといった感じで聞いている。どうやら早々にリアクションを放棄し、黙ってカノジョの話を聞くことに決めたようだ。

「オトコなんてモテたいヤツばっかだからさ、店員からモテ服だの今年のトレンドだの言われたら、よっぽど自分のセンスに自信持ってなかったら買っちゃうよ」
 
普段はファストファッションで最低限の無難な服しか買ってこなかったカレが背伸びして買った、セレクトショップの「イマドキ」な「モテ服」
しかもそれは「嫌われない努力」の第一歩だったはず・・・
 
「それに、『モテ服着てます』的なオトコって、たいていやり過ぎてるしね。トレンド完璧に押さえてますコーデとかってさ、絵に描いたような『足し算だけのオシャレ』じゃん?そんなの見てると、『あ、このオトコ、自分に自信ないんだろうな、ダッサ』って思わない?」
 
図星だ。
自分に自信なんてあるわけない・・・だってモテないんだから。
カレはただただうつむくしかなった。
 
「そもそも服とは何か、をわかってないからモテ服なんて勘違いするんだよ。服なんて人を包むための、ただのラッピングじゃん。肝心の中身がスカスカなのにラッピングだけよくても意味なくない?大切なのは・・・」
「どんな服を着るかじゃなくて、どんなオトコになるべきか、でしょ?」
「わかってんじゃん」
「耳タコ。アンタも毎回毎回よく、お酒も入らずにそんなコッ恥ずかしいこと言えるよね、マジ尊敬」
「モテ服だの流行りだの身に着けてドヤ顔キメてるような、カッコばっかの残念なオトコが多いからしょうがないじゃん」
「ま、そのモテ服にダマされちゃうようなバカなオンナと、似合わなくても平気で客に売りつける店員がいるのが現実なんだから仕方ないよ」
 
カレにとって、まず身につけなければいけないのは服ではなかったのだ。
「嫌われない努力」をするはずなのに、カレはその第一歩でつまづいてしまった。
 
「買うほうも売るほうもさ、人間性って大事だよ」
カノジョのそのつぶやきに、カレは俯いたままココロの中でうなずく。
 
「清潔感とサイズ感と、その人だからこその似合う服なら、流行りだのモテだのなんて、そんなにこだわらなくていいんだよ。それよりも・・・」

                    つづく

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