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コンビニバイトとニート姉さんの話

高い音が後ろでなった気がした。振り返るとサエさんが道にあるポールの裏を足で探っていた。


「サエさんなにしてるんですか?」

「いや、蹴ってた石がこの棒の裏に行っちゃってさ」

「いや、他の石探せばいいじゃないですか」

「...お前はなーーんにもわかってないな」

「どう..何がわかってないんですか?」

「いいか。私がさっきまで持ってた石はなぁ、、10分前に通ったスキ薬局の駐車場の所から大切に暖めてきた最高の石だったんだよ!!それをどこの馬の骨かも分からないそこら辺のと一緒にすんな!」


骨というか石だけどな。ていうか、スキ薬局で拾った石だってそこら辺の石じゃないか...

そう思ったが、よくわからない事で怒っている時のサエさんには何を言っても謎理論で返される上に頭の回転は速いのでその謎理論でいつも僕は言い負かされてしまう。だからこういう時の対応は決まっている。

「それはどーもすみません。お詫びにガムあげるんで許してください」

「エナドリ味のやつか?」

「エナドリ味のやつです」

「よい。アキヒト、お前の全てを許そう」


この変わった姉さんと仲良くなったそもそものキッカケは今から3ヶ月前のクリスマスの夜、いつものようにバイトをしていた時の事だ

実はその前からサエさんのことを僕は知っていた。バイトを始めた9月の半ばからほぼ毎日のように深夜1時頃に来ては3つ入りのアンパンだけを買っていく上下スウェットの金髪女。

店長が言うにはもう一年以上そんな感じらしく、店員の間では「ニート姉さん」というあだ名がついていた。でも特に話した事もなければいつもアンパンを最短ルートで手に取り足早に去っていくので、よくアンパンを買いに来る人以外の印象はなかった。

でもクリスマスの日の彼女はいつもと少し違っていた。普段なら最短ルートで行くところを今日は何かを探しているような感じでやけに時間がかかっている。クリスマスだから何か小さいケーキでも買って帰るのかなと思っていると彼女はいつものアンパンとブラックコーヒーをレジに出して少し間を置いてこう言った。

「彼氏に買って来てって言われたんだから仕方ないよね」

「はぁ..」

最初はよく分からなかったが、少し考えている内に全てを察した。

(恐らく彼女はクリスマスの日に一人、深夜のコンビニで買い物してる女だと思われたくなくて彼氏に言われたから仕方なく買いにきてるんだぞ感を出そうとしてるんだ。そのために普段飲まないコーヒーもわざわざ探して一緒に買って、そしてあろうことか店員の僕にまでそのアピールをしてるんだ...!)

その意味がわかった瞬間、色々と面白くなってしまいちょっと笑ってしまった。

「本当に彼氏いるからな!私はコーヒー飲めないからね!」

「..じゃあそのアンパンも彼氏に頼まれたんですか?」

「もちろん!全くしょうがないやつだよ」

「いつも買っていくのも彼氏のためですか?」

そう言うと彼女は激しく動揺し、眉をしかめ、お金を払うとすぐにアンパンだけを持って出口に走り出すと同時に吐き捨てるように言った。

「お前だってこんな日にバイトしてんだからどーせ彼女いないんだろ!バーカ!」

そこに関しては正直図星だったのでちょっとムカついたが、店員という立場上忘れたモノは渡さなければいけなかったのでコンビニの外に出た。すると駐車場はしんしんと降る粉雪でうっすらと白く塗られている。

「お客さーん!コーヒー忘れてますよ!」

「もう要らないからあげる!メリークリスマス!」

彼女はそう言って小学生のように笑うとそのまま走って行ってしまった。この地域では22年ぶりのホワイトクリスマスの夜。もらったコーヒーはいつもより少しだけ甘い気がした。





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