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五分の靴にも一寸の魂

アマゾンから靴が届いた。

履いていた靴の靴底の溝がなくなり、限界に近づいたので、同じものを買い替えた。

本当は、靴の大型店で試着してから買うつもりだったが、いま履いている物が1万1000円することに気づき、買い替えるか、もう少し履き続けるか悩んでいた。

ネットで調べると9000円程度で買える。

この靴は、評価が分かれる。

ほどほどに使う分には軽くて、見た目も悪くなく良いが、インソールが悪いとか、靴擦れするとか、ネガティブなレビューもある。

実は私も、初めてこれを試着して買った時はすごく良かったんだけど、歩きだしたらものの5分でクッション性の悪さを感じて後悔した。地面のショックがダイレクトに来る感じ。

それでも買ったからには、履きつぶすまでは使わなければならない。

これで東海道を歩いた。

クッション性がないため、旅に出て足首の痛みがひどく、どうすれば良いか考えた末、インソールを変えることを思いついた。

いままでインソールなど買ったことがなく、ネットで調べて、とりあえず高すぎないものをアマゾンで買った。

びっくりするくらい変わった。

「なんだ、こんなにいい靴だったんだ!」と。

それから、東海道を何度もそれで歩いたが、そろそろ買い替えどきだと、大型靴店に行った。

ウォーキングシューズとしては、ニューバランスかアシックスが自分の希望。

ニューバランスのウォーキング系で予算の範囲のものは、見た目が好きではないのと、ニューバランスは最初は最高に履き心地がいいが、ヘタリが早く、靴底の減りも早い気がするので、やはりアシックスの、今までと同じものにしたいと考えていた。

ネットを見たら2000円ほど安く、インソールを別に買って、靴屋と同じ値段になるならそのほうがいい、と今回ネットで両方買った。

今までと同じサイズでありながら、足に合わなかったらどうしようか、という心配があったがピッタリだった。

そしてやはり、もともと付いていたインソールは、貧相ですぐにクッション性が無くなりそうでペラペラだった。

同時に買ったニューバランスのインソールに入れ替えると、見違えるほど、履違えるほど、足の裏側から高級感が伝わってきた。

まさにこういう靴が欲しかった!
これから君たちが、私の靴だ。
よろしく。

そして、いままでの靴とはお別れだ。

左右の靴を手で掴み、ゴミ箱に入れた。

古い靴は、こちらを向いてゴミ箱の中でちょこんと座った。

まるで、2匹の猫が仲良く座っているかのように。

ボロボロになった靴を見て、一緒に旅してきた東海道や自転車ツーリングのことが、走馬灯のように眼の前に浮かんできた。

私が、歩く旅や自転車の旅をするのは楽しいこともあるが、災害が起きて生き残った場合に、何か役に立てるための基礎体力を維持していたい、という理由もある。

よく、こんなデブのために働いてくれた、ありがとうと思いながら、ゴミ箱のフタを閉めた。

今日は阪神大震災が起きた1月17日。

私はその時、八ヶ岳の山小屋で働いていて、お客さんの朝食の準備の為、起きて動き出した頃だった。

山小屋が揺れた。

都会で揺れるのには慣れていたが、こんな山の上で揺れるというのは、また別の感覚だった。

山小屋はソーラーパネルで充電をして、最低限の照明と、夕方の天気予報をテレビで見る時などだけに限定していたが、その時はテレビをつけて、3人の従業員と、その時連泊していた有名な山岳写真家で呆然とニュースを眺めていたことを思い出す。

そういえば、昨日は、西日本豪雨の復興支援で大きな働きをした人と飲んでいた。

能登での復興支援で、大事になってくるのは下水の復旧だと彼が言っていた。

聞きたいことがあった。自分が大災害にあって生き残ったら、トイレ掃除をしたいと考えているが、実際何をどうすれば良いのか聞いた。

トイレが流せなくなった時、みんなが好き勝手に外で用を足しだすのは衛生的に良くないから、処理しやすい場所など少しでも適切な場所を提案、告知、誘導するのが大事だと。

そして、こういう時には性被害が起きる心配があるので、女性同士交代に見張りをして、安全を確保できるように気を配る必要があるという。

また、私のようにキャンプや山小屋での経験があることは、全くない人よりも、対応力があるので、その点では役に立つ可能性があるということだった。

東京だけでなく、私が旅する東海道エリアや福島宮城県などは、これからも大きな震災が起きる可能性がある地域で、旅先で震災にあっても、生き残ったら少しでも役に立てる人間でありたいと思う。

これからも、デブなりに体力の維持に努めるので、新しい靴さん、どうぞお付き合いの程、よろしくお願いします。