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デザインの仕事を自己表現の手段にしようとする人ほど自己表現がわかっていない、という話

元WEBデザイナーが、デザインの仕事についてつらつらと書いていきます。今回は、デザインの仕事を自己表現の手段にしてしまう事の是非について語ります。職業訓練、スクールでデザインを学んでいる人、就活中の人、駆け出しデザイナーに読んでいただければ幸いです。


作る目的を他人に与えてもらっておいて、「自己表現」って言えるの?

デザインを学ぶ理由を「自己表現のため」とするデザイン初心者、学習者をよく見かけます。

SNS等で自己発信する、自身の作品を販売する、自身で事業を立ち上げる等の目的があり、そのための手段としてデザインを学ぶのであれば問題はありませんが、デザイナーとして就職するのが目標であったり、フリーランスとしてデザインの仕事を請負うために学んでいる人が、デザインを学ぶ理由に「自己表現」を据えてしまうと、仕事を始めた際に上手くいかなかったり、トラブルを引き起こす原因となります。

デザインの仕事を依頼するクライアント側からすれば、デザイナーの自己表現など誰も求めてはいません。しかし、デザイナー側はそれがわかっていない人、理解できていない人が結構な数いるようです。

そもそも「自己表現」がやりたいのに、何故他人の仕事を請負うのでしょう?さらに言うと、何故他人に「自分自身の創作活動のためのお題」を提供してもらわないと、何も作れないのでしょう?

他人に作る目的を与えてもらう事のどこに「自己表現」の要素があるのでしょうか?

他人の事業を自己表現のための「おもちゃ」にしてない?

クライアントワークにおいて、デザイナーは他人の事業を手伝う立場、他人の想いを伝える代弁者の立場と言えます。

しかし、クライアントから依頼を受けて仕事をしているにもかかわらず、自己都合全開、自己満足満載な制作をするデザイナーを時折見かけます。

デザイナーのそのような思想・行為は、他人の事業を自己表現のための「おもちゃ」にするようなものであると言えるのではないでしょうか。

クライアントが表現して欲しい事は、クライアントの想い、世界観、製品・サービスの魅力等々、クライアントにまつわる事であって、デザイナー自身のよしなし事、デザイナーの都合ではないのです。

他人の仕事を自己発散、承認欲求を満たすために利用するような心持ちでデザインしても、クライアントの要求を満たすことなどできるはずがありません。そもそもそのようなスタンスのデザイナーは、クライアントの提示する要件を理解していない、見てすらいないのではないでしょうか。

「自己表現」と騒ぐ人ほど自身を表現するという事を深堀したことがない

クリエイティブの領域で、やたらと「自己表現」を喧伝する人を見かけますが、よくよく観察してみると、思春期の若者がやりそうな自己紹介、自身の感情の吐露で終わっている場合がほとんどのように見えます。

そのような、ただの「自己紹介」「自分語り」で終わっているような掘り下げ方の浅い自己表現では、世に出しても評価される事は決してありません。

アーティスト、クリエイターの中にも、自分自身をテーマにした創作をする人達が一定数います。ですが、そういった人達は自分自身を深く掘り下げた結果、社会性、時代性、万人が共有できる感覚・感情を内包する作品を作り出す事ができているから評価されているのです。

アートの領域でも自分をさらけ出すだけの「自己表現」は相手にされない

Fine Art、Contemporary Artの領域でも、作品として成立させるには、作家と鑑賞者が共有できる客観的視点、感覚、価値観に基づく創作が必要になります。

特にContemporary Artにおいては、批評性、社会性、客観性、同時代性といった、作家本人の私情よりも、作家本人の社会に対する視線や、社会的に共有されている認識、価値感に対する作家の解釈、批判・批評等を主題とする事が重視される傾向があります。

基本的にArtの領域では作家個人の人格、個性、感情、感性等は、他者があれこれ批評してはならない、侵してはならない絶対的なものであり、批評の対象とする事を良しとしません。

なので、「自分はこういう者です」という、自分をさらけだすだけで終わっているような「自己表現」では、美術批評の土俵にあがらせてもらえず、「『評するに値しない』という評価」をもらってしまう結果となります。

デザインは「ビジネス」だよ?

デザインは産業、ビジネスの一環であり、クライアントワークを請負う時、デザイナーは私的な活動とは一線を引いて行動しなければなりません。

ビジネスとしてデザインする時、その制作物が何かしらの成果を生む事を期待されますが、デザイナーの自己満足、自己発散、承認欲求にまみれた制作物では、ビジネスとして成果を出せる事はほぼありません。

デザイン学習者、初心者は社会、ビジネスにおけるデザインの目的は何であるか?求められている事が何なのか?をよく考えて行動しましょう。


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