「クッキングババア」ショートショート
むかしむかし、ある所にクッキングババアと呼ばれる老婆がいた。
老婆は山奥に暮らし、滅多に人に会わない生活を送っていた。
そして、いつからかこんな噂が流れた。
「クッキングババアの料理は、あの世に行けるくらい美味いらしい」
その噂は人から人へと伝わっていき、
それとともに、クッキングババアを探す者も多くいた。
老婆は隠れて生きている訳ではないので、すぐに色んな人が女の元にやってきた。
そしてみんな言うのだ。
「おいらに料理を作ってくれねぇか」
しかし老婆は絶対に作らなかった。
クッキングババアの料理が食べたいからと、たくさんのお金を用意してくる者もいた。
しかし、お金を目の前に出されても、絶対に料理を作ることはなかった。
そんなこんなで時が流れ、
クッキングババアの噂も消えかけた頃。
1人の男が、老婆の目の前に現れた。
そして男は言うのだった。
「ババア、おめぇさん料理作れねぇだろう」
ずっとお願いされてきた老婆は、この男の発言に驚いたが、すぐに返事をした。
「お前さんは何だ。冷やかしなら帰ってくれ」
しかしそんな事で男は引き下がらない。
「世間から料理がうめぇだのチヤホヤされて、調子に乗るんじゃねぇ。噂で話が膨らんで、期待が高まってるだけで、本当はそんな料理ねぇんだろ」
老婆は腹を立てたが、何も言えなかった。
男は続ける。
「まずてめぇの料理はよ、あの世に行けるくらい美味いと言われてるがよぉ。食ったらあの世に行くんなら、みんな死んでそんな噂なんか流れねぇだろうが」
男はどんどん老婆に詰め寄る。
老婆はどんどん苛立ってくる。
実はこれ、男の策略なのだ。
今まで大事にされても料理を作らなかった老婆に、こうやって詰め寄る事で、嫌な気持ちにさせて料理を引き出してやろうという魂胆だ。
男は老婆の料理が食べたくて仕方なかった。
老婆が言う。
「お前さん、ついてこい」
男は文句を言い続ける。
「なんでどうせ作れねぇババァについて行かんといかんのじゃ」
しかし心の中は違う。
「ついに!ついにクッキングババアの料理が食べれる!!!」
そうして着いた老婆の家。
なんてことないただの山小屋であった。
男は座らされる。
男が言う。
「こんなしょぼくれた家で、美味い料理なんてあるかよぉ」
すると老婆が男の目の前に、お椀を出す。
豚汁のようだった。
「なんだこれ」
「黙って食え」
男が一口食べる。すると、
「なんだこれ!うめぇじゃねぇか」
ザクザクと野菜の食感がありながら、肉の旨みがしっかり出ている出汁。
また肉がうまいうまい。
「おい婆さん、この肉はなんだ?食った事がねぇ。とんでもなくうめぇ」
老婆は言う。
「人だ」
男は何が起きたかわからない。
次に言葉を発する時には、もう男の首は落ちていた。
老婆は1人でに話す。
「人間は死んでも聴覚はまだ少しの時間残るらしい。だから教えてやる。これは人の肉だ。わたしは心の底から気に入らないやつを殺して、内臓を取り、それを吊るして、乾燥させて熟成させる。あの世に行くくらい美味い?まぁそうだろう。食べたらあの世に行くからな。しかしこんな噂が出回ってるのはめんどくさいねぇ。むかつくねぇ」
男がこの話を始めて聞いた時、
それを話した者がいた訳だが、
そいつは老婆にこの調理法を教えた人間だった。
クッキングババアの噂が消えかけた頃、
クッキングジジイの噂が流れ始めた。
「クッキングジジイの料理を食うと、天国に行くくらいうめぇんだとよ」
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