2018/10/28 風をよむ『“新冷戦”の始まり…?』

これは1988年、ソ連の核ミサイルが廃棄される映像です。冷戦の末期、  世界では核兵器の撤去が行われるなど、軍縮が進む動きもあったのです。

記者「ヨーロッパの人たちに、大きな期待と、そしていささかの不安を残して中距離核が廃棄されます―」

それから30年…

トランプ大統領
「アメリカは条約を尊重して守ってきたが、残念ながらロシアは守らない。条約を終わらせ、離脱することにする!」

アメリカのトランプ大統領が20日、離脱を表明したのは、中距離核戦力の全廃条約。かつて次々に廃棄された中距離核ミサイルが、再び開発される流れができたのです

中距離核ミサイルとは…大陸の間を飛び、遠く離れた国への核攻撃を可能にする射程5500キロ以上のICBM=大陸間弾道弾に対して、射程500キロ以上の中距離を飛ぶ、地上配備型の核ミサイルを指します。

それらは主にヨーロッパや旧ソ連に配備されていましたが、1987年に結ばれた「中距離核戦力全廃条約」で撤去されたのです。それが・・・

トランプ大統領
「ロシアも中国も開発しているのに、アメリカだけが条約を守るなんてあり得ない!」

これに対し、中国、ロシアは相次いで反発します。

中国外務省・華春瑩報道官                      「一方的な条約離脱には様々な悪影響がある。強調したいのはアメリカの条約離脱を中国のせいにするのは間違っているということだ」

プーチン大統領
「アメリカが新型ミサイルをヨーロッパに配備した場合は、我々も同じことをしなければならない」

今回の突然の条約離脱表明。その背景を専門家は…
 

太田昌克・共同通信編集委員                     「ボルトン大統領補佐官を中心に、現在のトランプ政権の中には軍縮条約に縛られたくないという核のタカ派の考え方がある。中国やロシア、イラン、北朝鮮が中距離戦力で武装するのであれば、対抗策として、やはり自分たちも中距離ミサイルを持った方がいいんじゃないか という判断に傾いている」

実際、ロシアや中国における核開発は今、急速に進んでいます。

プーチン大統領
「既に皆さんも察している思うが、世界に類似の兵器はない。」

プーチン大統領が3月に行った年次教書演説。複数の核弾頭を搭載可能なICBM=大陸間弾道ミサイルや、超音速ミサイルなどの新型核兵器の開発を発表。

その9日後には、ロシア国防省が音速の10倍というミサイルの発射実験映像を公開したのです。

また中国も近年、中距離弾道ミサイルなどを相次ぎ開発。3年前の軍事パレードで披露された「東風26」は、グアムの米軍基地まで射程に収めるため、通称「グアム・キラー」とも呼ばれ、さらにアメリカの空母機動部隊を標的にした「空母キラー」の配備も進んでいます。

太田昌克・共同通信編集委員 
 「INF全廃条約は2千発以上を廃棄した核軍縮史の金字塔、(条約が)なくなることによって"新冷戦"下での新たな軍拡競争核軍拡競争が起こる」

さらに今回のアメリカの離脱表明によって、日本をも巻き込んだ新たな“冷戦”の危機が生じているのです―

現在、アメリカやロシアなどは、局地的攻撃に使用される、爆発力を抑えた小型核、いわゆる「使える核」の開発を積極的に進めています。

またアメリカは2月に発表した「核態勢の見直し」の中で、通常兵器の攻撃に対して、核兵器で報復する可能性を初めて示したのです。

そうした中での「中距離核戦力全廃条約」からの離脱の発表。これに対し日本側の反応は・・

菅官房長官
「米国がこの条約から実際に離脱せざるを得ないような状況は望ましくなく、このような状況が解消されることを期待したい」

現在日本は、地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の 導入を進めていますが、今回の条約離脱でアメリカの核開発が加速する  可能性がある中、日本にもその影響は及ぶと、太田さんは言います。

太田昌克・共同通信編集委員 
「条約もなくなって、今度はアメリカは盾(ミサイル防衛システム)に加えて 矛(中距離核戦力)もますます拡充させる。では、その矛を中国の心臓部 を狙うとしたら、どこへ置くか。南北対話を進めている韓国が置くとは考えられない。日本が一番有力な選択肢に上がってくる可能性がある」

今、世界が期待した「核なき世界」が遠ざかり、新たな軍拡競争の時代が訪れようとしているのです…。

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