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2019/2/24 風をよむ「躾」

●親が子供を戒める「懲戒権」とは

●虐待問題の背景を考える

●子供を主体として接する

この漢字、なんと読むのか分かりますか?

街の声「身に、美しい、ちょっと分からない」「分からないですけど、たぶん虐待に関する言葉だと思う」

正解は「しつけ」。身を美しく飾る、というイメージでしょうか。その「しつけ」について聞いてみると・・・

街の声 「頭にげんこつをゴツってくらった。その時はやっぱり、悪いことしたなという感じで自分でも納得」「家から出されて20分間、家に入れてくれなかった。」

何か、懐かしささえ感じさせる「しつけ」という言葉の響き。ところが・・・

千葉県野田市で10歳の女の子が死亡した事件、さらに去年、東京・目黒区で5歳の女の子が死亡した事件、いずれの事件でも父親は自らの行為を「しつけ」と正当化しました。

警察庁によると、去年1年間に全国の警察が虐待の疑いがあるとして児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数は8万人を超えました。

そんな中、「しつけ」という言葉が、暴力行為の正当化につかわれる ケースが相次いでいます。なぜこんなことになってしまったのでしょう? 

その背景の一つとして考えられるのが、明治時代から続いてきた、民法の「懲戒権」という規定。「懲戒権」とは、親が子どもを、懲らしめ、戒める権利です。

近年、子供への親の虐待行為が表面化、問題視されたことから、明治以来のこの条文は、2011年になってようやく改正。

虐待を正当化されないように、子どもの利益になる場合に限って 認めるとの条件がつけられましたが、懲戒権そのものは残されました。

民法の注釈書には「懲戒」行為として 「しかる・なぐる・ひねる・しばる・押入に入れる、蔵に入れる・禁食せしめる」などの行為が挙げられています。

法改正の際、“懲戒権”という言葉そのものを削除すべき、という議論がありましたが、当時の江田法務大臣は削除しない理由をこう説明したのです。

江田法相「懲戒という言葉を口実にして児童虐待をする場合がある。しかし、一方で、懲戒という言葉をなくすと、今度はしつけもできないんじゃないか と誤解されることもあるいは出てくるかもしれない」

強調されたのは、しつけと暴力の線引きの難しさ。
  
そもそも、日本では子供のしつけを、どのように考えてきたのでしょう。
16世紀から18世紀に日本を訪れた外国人の記録をみると・・・

「日本では子どもを育てるのに懲罰ではなく、言葉で戒めている」(イエズス会宣教師ルイス・フロイス)「子供を打つ、叩く、殴るといったことはほとんどなかった」(スウェーデン人医師ツュンベリ-)

子どもに手を挙げないでしつけをする、日本人の光景を、驚きをもって見つめていた外国人もいたようです。では、その日本でなぜ今、子供への虐待が繰り返されるのでしょうか?

かつては、外国人の目に、子供に寛容な国と映った日本で、なぜ今、子供への虐待が繰り返されるのでしょうか?虐待問題に詳しい専門家は・・・

西澤哲さん(山梨県立大学教授)「明治期以降にヨーロッパ、キリスト教文化圏から移入された。生まれ持って、悪魔を心に宿しているという性悪説。子どもは、叩かないとダメな大人になってしまうという思想。それに基づいた体罰という方法を、無批判に取り入れた。それが昭和に入る頃に軍国主義的な教育が持ち込まれ、富国強兵策が入ってきて体罰も日常的に行われるようになったと思う」

戦後、世界で子どもの見方が変わっていきます。1959年、国際連合は「児童の権利宣言」を採択。さらに1989年には、子どもを、単に保護の対象としてでなく、大人同様に、人としての権利を持つ主体であることをうたった、「子どもの権利条約」が国連で採択され5年後、日本も批准しました。

ところが、2017年国際NGOが、日本人を対象に行った調査では、6割の人が体罰を容認。育児中の親の7割が、叩いた経験があると答えるなど、子どもの人権が守られているとは言えない状況です。

体罰を肯定する意識が、容易に拭いきれないのは、なぜなのでしょう?

西澤哲さん(山梨県立大学教授)「『叩いてでも言うことを聞かせるのが親の務めだ』という、体罰肯定感を持つ人の多くが自分自身が暴力を受けて、厳しくしつけられた人たち。自分がやられた方法と同じ方法で子どもをコントロールしようとする。人間は、過去を肯定したいという思いが強いので、不適切な、叩かれる養育を受けても、それを肯定したいんだろうと、思いますね」

今月、国連の「子どもの権利委員会」は、日本で子どもへの虐待など、暴力が頻繁に起きていることを懸念し、政府に対策を求める勧告を公表。

国会でも、超党派で「懲戒権」規定を見直す動きも出始めました。
  
虐待、いじめ、少子化など、「子ども」に関わる問題が深刻化する今「子ども」という存在にどう向き合うのか、社会が試されています。


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