見出し画像

「ひとり親家庭で生まれ 今はひとり親家庭を支援」NPO法人『あっとすくーる』理事長 渡剛さん(後編)

柿次郎:
Dooo!編集長の徳谷柿次郎です。今週もNPO法人「あっとすくーる」理事長の渡剛さんにお話を聞いていきます。よろしくお願いします。

渡:
よろしくお願いします。

大阪府箕面市にあるひとり親家庭の教育支援に取り組むNPO「あっとすくーる」

渡:
僕自身がまずひとり親家庭で育ったというのがスタート。

自身もひとり親家庭に育った渡さんが、どんな家庭環境の子どもにも学習の機会をという思いから学習塾「渡塾」を運営しています。

ただ勉強するだけでなく子供たちの居場所をつくりたい。話すうちに見えてきたのはなかなか話題にはのぼらない子どもたちの「小さな困り事」でした。


物件が借りられない

柿次郎:
何かを成すとか法人立ち上げるとかって僕も小さい会社やっていますけど
絶対ありますよね。大学生の時に立ち上げられたってそんなすぐ上手くいくわけじゃないじゃないですか。

渡:
行くわけじゃなかったですね。大学3年生の時に友人たちと立ち上げて最初、物件を借りれなかったんですよ。

柿次郎:
それは大学生っていう立場だから?

渡:
そうですね。不動産屋さんに行って、「塾始めたいんです」って「物件探してます」って見せてもらってここがいいなってとこがあったんですよ。ここでお願いしますって言ったら大家さんから「ダメだ」と言われ。

大学生だし信用がないというのと大家さん世代の人からした時にNPOって家賃を払えるようなイメージがないので。

かつ、学生だし信用も実績も何もない。かつ、NPOなんてうさんくさそうなものを名乗っているので借りれなかったんですよ。

で、どうしようって。そんな自分ではどうしようもできないじゃないですか。ただ、そこで縁があって僕らを対応してくださっていた不動産屋さんの女性の方がシングルマザーだったんですよ。ご自身がシングルマザーで子育てをされていてすごく僕たちがやろうとしていることに共感をしてくださって。ご自身が普段からよくお付き合いのある大家さんにお話を通して下さいって「連帯保証人を2人立てる」ってことを条件に借りれた。その人が対応してくれなかったら多分借りれずにどうしようってなっていたと思います。自分の部屋を開放するしかないのかなって。

柿次郎:
本当に私塾みたいな。

柿次郎:
それは10年ぐらい前ですか。

渡:
今のが10年ぐらい前の話ですね。

柿次郎:
やっぱ10年ぐらい前、今はNPO的な価値観とかも結構身近にありますし。

渡:
10年前よりかは身近ですよね。


塾生が増えない日々

柿次郎:
立ち上げてその寄付を募る。すぐ集まるわけじゃないですよね。

渡:
全然集まんないですし。

柿次郎:
どうやって集めたんですか?まずはじめに何をやってるのかすごい気になりますね。

渡:
そもそもまず塾生が集まんないんですよ。

寄付って子どもがいての話じゃないですか。「この子達を支えるのでお金が必要です、寄付を」っていう話なんですけど、そもそも子どもが全然来なくて。最初3人だったんですよね。まあ開けてすぐにゼロじゃなかったっていうのが僕らは幸いだったんですけど、でも3人なんですよ。それこそ毎日のように色んな中学校の前でチラシを配ったりとか。

もうやってもやっても全然生徒は増えなくて。最初大学の友人とかサークルの後輩とか、その友達とか募って10人ぐらい学生を集めてやってたんですけど子ども3人しかいないんですよ。やっぱこっち側することなくなるんですよ。

柿次郎:
ちょっと過剰供給ですね。

渡:
さすがにすることがなくなって。やっぱやることが無いと離れて行っちゃう人とかもいて。でもやることが無いので引き止めようにも引きとめようが無くっていう・・・。子どもは増えないわ、最初に集まってくれた仲間はまず離れていくわっていうのが最初でしたね。そこからもう最初3年ぐらいって思うようには生徒は増えなくて。


大きな転機はテレビの取材

柿次郎:
ある日急にというか何か象徴的な出来事があったんですか。

渡:
局名とか出していいんですか?・・・NHKさんでハートネットTVっていう。

柿次郎:
あー分かります。見たことあります。

渡:
それを見た人から問い合わせが来るようになって。それこそ生徒も寄付も。

渡:
その番組的にもハートネットTVっていう、そういうものに興味関心のある方が見てくださってた番組で取り上げてもらえたっていうのも大きかったんですけど。

柿次郎:
それが無ければどうなってたのか。

渡:
どうなってたんでしょうね本当に。

柿次郎:
すごい、もうすでに綱渡りの話が3、4回出てきますね。

渡:
いやもう常にです。10年ずっとわたり続けてます、綱を。

柿次郎:
綱を。

渡:
綱を渡り続けてます。

柿次郎:
綱を渡りさん。渡り塾・・・渡り方を教えるのもいいっすね。

渡:
確かに。僕が知りたいですね一番。

柿次郎:
今もそんなまだまだ課題もいっぱい。

渡:
そうなんです。

柿次郎:
そこから生徒が増え寄付的なものも増え、今は例えば理想とする状態から何割ぐらいなんですか。

渡:
ええ、でも全然ですよ。1割とか2割ぐらい。

柿次郎:
1割2割。

渡:
はい。

柿次郎:

渡:
人生全部賭けないといけないやつですね。

柿次郎:
もうここまでやったらもうね。引けないでしょうし。

渡:
引けないですね。

柿次郎:
あと何が必要なんですか。例えば僕も結構社会系のこととか・・・例えば一次産業のこと取材したり。漁業のこと取材したり。知れば知るほど知らないことが増えていって、問題のでかさに途方にくれて、人ひとりで何ができるんやろうみたいな、そういう瞬間ありませんか。

渡:
あります。それで言ったら僕ら本当にとりあえず一人親の子どもを大学にいけるようにしようと思って始めたんですよ。

柿次郎:
この明確な目標とかビジョンがあるわけですね。

渡:
そうです。数字的な話を出すと日本で言うと全体の子どもの約半分が大学に行ってるんですよ。5割、大学進学率5割なんですけど。

柿次郎:
そんな行ってるんですね、日本って。

渡:
そうなんですよ。

柿次郎:
すごい。結構それはすごいですね。

渡:
ひとり親だとそれが2割ぐらいまで落ち込むんです。

それで言うとやっぱ「大学行けないからしんどいんじゃないか」って10年前の僕は思ってたんですね。

大学に行きたいけどそもそも学力が無いし、お金が無くて塾にも行けないんだったらそういう寄付をいただく形でできるだけ低価格で子どもたちに学習機会を届ける仕組みを作ろうと思って始めたんですよ。そうやって大学に行かせようと思って始めた僕らの前に現れた最初の3人のうちの一人がなんて言ったかって言ったら・・・

って言われたんですよ。大学に行かせようって始めたのに・・・ほぼ100%高校に行くんですよ、この国の子どもたちって。一発目に「俺高校なんて行けないと思う」という子が来て・・・

このあたりから始めてここまで行けばいいのかなって思ってたことが「あ、もっと手前からやっていかないといけないんだ」っていうのを出会った子どもに気づかされ。居場所というかそういう日常を支えるところからやっていかないといけないっていうのにまず気づかされたっていうのは本当に一番最初だったんですけど。


小さな困りごとが子供には「しんどい」

渡:

すごいちっちゃな話でいけば「明日給食が無いけどお弁当を作らないといけない。けどちょっと親御さんが忙しくてお弁当は用意できない。それでお金はもらうけどじゃあコンビニで買っていくかって・・・自分だけコンビニっていうのも嫌で・・・」って何かこう苦しんでるんですよ。子どもはそういうとこ。

柿次郎:
うわそれもう滅茶苦茶分かるんですよ僕。もう中学校入学して初日が全校生徒のうち僕一人だけコンビニ弁当だった。デイリーヤマザキで買ったとんかつ弁当。覚えてるんですよね。で初めて会って「なんでお前コンビニ弁当食ってるの?」「いやちょっと…」みたいな。

渡:
いやそうですよね。そうなりますよね。

柿次郎:
その心の複雑さたるや。そこから何か逆に外で買うのかっこいいやつみたいな演じてた気がします。笑

渡:
そうすよね。もう強がるか、もう出てこない、要はもう不登校なるか。もう絶対に嫌だってなるかじゃないですか。

柿次郎:
けど本当、大人からしたら「そこまで大きいことなの?」って思うかもしれないですけど、確かに当事者として俺だけ、しかも7組でひとクラス40人とか・・・300人近くいた生徒の中で俺一人っていうね。

渡:
いやそれ強烈ですよね。

柿次郎:
そう。

渡:
別にコンビニ弁当食ってるからってすぐに命を落とす訳じゃないじゃないですか。海外の貧困みたいに命を落とすわけでもないし。「いいやんコンビニで。贅沢言うなよ」って言う人もいるかもしれないんですけどやっぱそういうのがしんどいんですよ。

本当にちっちゃいことなんですけどでも何かそういうちっちゃいことも含めて安心して暮らせる町にしたいし、ひとり親家庭になっても親御さんも子どもも安心して生きていけるような町にするっていうのが自分たちの一番最後おっきなゴールだっていうことを考えると、確かに学習機会はなんとか作れて。それでもまだまだ届いてない子どもたちいるんですけど。・・・っていうところはこう作り始められたんですけど、日常の中の困りごととかはやっぱりまだまだ全然理解もないし。

柿次郎:
個体差もありますしね。

渡:
・・・っていうので全然もっともっとやっていかないとなって。

柿次郎:
そっかまだ1割。

渡:


小さな困り事「運動会の衣装」

柿次郎:
人生懸けて。いや凄い。だからそういう存在を、僕も当時その気持ちで、こういう場所があればってすごく思うんすよ、大人になってから。その中でどんなとこに悩んでるのかとか、具体的なエピソードとかってありますかね。

渡:
お弁当の話で近いので行くと、例えばこの辺の高校って運動会、すごく気合が入ってるんですよ。運動会でやるダンスとかで着る衣装、手作りなんですよね。布が渡されるんです。要は「家で縫ってきてね」って。

まあ・・・子ども、自分が縫ったりとか親が縫ったりとか。やっぱさっきのお弁当と一緒で親御さんがそれをやるのが難しい子がいて。だから縫えないから運動会休むみたいな子もいたりとか。

柿次郎:
あー。手作業で何かをやるとか、まあ親のリソースを使う作業が発生したときに子どもが気使ったり、やってくれなかったり。それが嫌になってそもそもその会に行けないとか。

渡:
お弁当とか衣装とかって確かに親御さんに何か一手間お願いしないといけないのって分かりやすいと思うんですけど。でも受験とか進路を考えるとかでも何かやっぱそうなんですよね。保護者に相談をしたりとか親が何かしらアドバイスをしたりっていうのがやっぱ仕事で忙しかったりして、もうその時間的な余裕が取れない。

でも実際親御さんが子どもに対して「もうその時間を取ってあげることは出来ない」と。「その代わり私はお金を稼ぐからもう受験のことは自分で調べてね」って言ってるような家庭もあったりすると。

何がしかそういう保護者と子どもがある意味二人三脚でやっていくようなことって本当多いと思うんですけどそこが全部その子ども一人の馬力になってしまうというか。何もサポートを得なければそうなっちゃうっていう。

柿次郎:
それでもう先生もいっぱいいっぱいですもんね。

渡:
そうですね。そこまでこう一人ひとり丁寧にっていうのは難しいので学校の先生も。やりたいと思われてる先生はたくさんいらっしゃるだろうし、まあ実際その中でもやってくれてる先生方とも出会ってきてはいますけど。


小さな困り事をもっと見えるように

渡:
運動会の衣装の話は何かこの地域に裁縫ボランティアっていうボランティアさんがいるっていうのを箕面市の社会福祉協議会っていうとこの人に教えて
もらったんですよ。たまたまその子の話をしたときに。

今年そのボランティアの方々にお願いをしたら衣装を縫ってくださって。

何かこう確かにそういうまあ、教育制度がその・・・運動会の衣装は家で準備してくださいって言うのって、確かにこうなんていうか・・・困り事が浮かび上がってくる瞬間ではあるんですけど、でも何かそこをきっかけにその地域の人たちとの繋がりがこう・・・。

柿次郎:
蘇るとか。

渡:
蘇るとか繋げるというか・・・っていう意味では何かもっとそういう困り事を発信していくことって大事だなって。今回たまたまその地域の中で発信したときにこういうのあるよって教えてもらえたんで・・・っていうのを考えると何かそのいけてない仕組みっていうのも悪くは無いなって。そのおかげで結びなおせるものがあるんだったら。

柿次郎:
そっか。それをちゃんと意識的につなげるような人の役割がもっと増えれば良いわけですよね。

渡:

それから意識するようになりましたね。

柿次郎:
僕も結構何かこう、雑談が好きなんですよ。インタビューするときはたださっきのお弁当の話とか、縫うとか、その衣装を。で、結構そのある種、社会系のテレビとか媒体だとそんなに入らなかったりするんじゃないかなと。

渡:
いやそうだと思います。

柿次郎:
ですよね。やばい俺めっちゃ才能ありません?

渡:
本当僕そうだと思います。みんながいっちょ噛みしやすいのは今みたいなちっちゃい話だと思う。それぐらいなら出来そうみたいな。

柿次郎:
何かそういうちっちゃい困りごとを色んな人たちでNPOに対してひとつの場所に集約して。何かこう困りごとを可視化するっていうような動きってむちゃくちゃ面白い気がしました。

何かお弁当買えないだけで不登校になりがちみたいな。社会問題あるあるでそれをクリックするとそれに紐付いた活動をしている人たちがいてとか。お弁当のことだと何かこういう風にしたほうがいいよ、みたいな事例がちょっとずつ何か見れるみたいなものを。何かそういうちっちゃいことを本当に置き去りにしちゃう。たぶんみなさん・・・渡さんこうやって紐解いたら出てきたけどけれども、日々の仕事、目の前の人がいてそういう課題がある種当たり前になると思うんすよ。けどみんながちょっとあのとき困ったなっていう課題、困り事っていう後ろのほうに置き去りにしたものをもう一回拾い上げてく作業ってみんなしづらいんですよね。

渡:
確かに。

柿次郎:
忘れちゃう。喉元通り過ぎたらなんとやらみたいな。

渡:
なんとやらですね。

柿次郎:
でそれをすごい集積するのって何かいい気がしますね。

渡:
そうですね。

柿次郎:
何かそういうのやってください。

渡:
ちょっとそれやってみます。子どもたちとも何かこう今までの中で実は人に言えなかったけど、こういうこと嫌だった困ったみたいなの無かったかみたいな。僕らがカミングアウトするのも含めてちょっとやってみます。

柿次郎:
それも僕がもうめっちゃ支援します。一人親のお子さんとして。

渡:
リツイートとかたくさんお願いします。

柿次郎:
頑張ってします。それいいと思う。

渡:
へーそれやろう。


Doooに出てほしい人

柿次郎:
Doooに出てほしい、それは会ったことある人でもない人でも。ある種、こういう番組の良さっていつかなにか引っ張られる、良い意味で取り上げられるスポットが当たるってことってこの番組ひとつで大きなことにはならないかもしれない。でもきっかけ作りにはなる・・・興味を持って調べたら出てくるので、こういう人もっと光あたればみたいな。

渡:
えー。ちょっとオーディエンスに助け求めてもいいですか?

柿次郎:
大丈夫です!

渡:
誰かいません!?

ヘルプ)

渡:
山科醍醐の村井さん?そのあたり。

柿次郎:
出ました!ヘルプを出して出ましたね。

渡:
はい、ありがとうございます。

柿次郎:
村井さん?

渡:
お仕事でお世話になっている。そういう子どもたちの居場所を地域の中で作られている村井さんって方。

柿次郎:
すごいってとこってどういうとこですか?真似できないってことなのか。

渡:
地域に根付いてずっと。例えば、京都で村井さんやってこられて僕らはこうやって10年前から始めてやってくるなかで、地域との繋がりを作っていくってすごい難しいなって。でも逆にそこがないと本当に最後作りたいもの作れないなぁっと思っているんですけど。そこはそれをずっと時間をかけてやって来ておられるっていうある意味やりたいことの理想の形のひとつというか。


これからやっていきたいこと

柿次郎:
色々お話は聞いてきたんですけど今後の活動のビジョンとかやろうとしていることとかあれば。

渡:

柿次郎:
こういう場所自体を。

渡:
まだまだ全然この箕面の拠点一つとってもこの箕面市に一箇所しかなくて一人親の世帯だけで言ったら1000世帯ぐらいあるのかな。全然この1教室ではカバーできないので。そういうのを子どもたちに届けていけるように教室は増やしていきたいなぁっていうのは思っています。・・・というのと、最近結構小学生の親御さんとか学校の先生からよく問い合わせをいただくんですけど。僕たち基本的に中高までしか10年間やってこなかったんですけど、ここにきて小学生も見てほしいって声もいただくようになってきたので新しく小学生から見れるようなコースを作ろうかなっていう。

柿次郎:
より大変になる?

渡:
より大変になるんでしょうね、多分。

柿次郎:
でもまぁDoooするしかないと!?

渡:
Doooするしかない!ありがとうございます。

柿次郎:
ありがとうございます。お疲れ様です!


【前編はこちら】