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日本でも・・・聖職者による子どもへの性虐待

60歳過ぎても残る心の傷、カメラの前で語った被害者

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11月23日から26日にかけて、教皇として38年ぶりに来日し、熱烈な歓迎を受けた、ローマ教皇フランシスコ。来日中は広島や長崎を訪れ「核兵器の無い世界」を訴えましたが、カトリック教会では聖職者による児童への性的虐待が世界中で深刻な問題となっていて、日本でも被害が起きていたことはあまり知られていません。

今回の来日を機に、国内で神父から性的な虐待を受けていたという被害者がカメラの前で初めて、自らの苦しい体験を打ち明けてくれました。


「おおよそほとんどのことはされた」

都内に住む、クリスチャンの竹中勝美さん、63歳。

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両親が離婚し、母が入院していた竹中さんは、中学卒業までの9年間をカトリック系の児童養護施設で過ごしました。性的な虐待を受けていたのは小学4年生のころ。

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ドイツから来日していた神父から、度々部屋に呼び出されては、その性器を掴まされるなどの虐待を受けていたのだといいます。

竹中さんにとって神父は“親代わり”のような存在。拒むこともできず、行為は半年以上も続きました。

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その後、神父が別の施設に移ったことで被害はなくなりましたが、家族にも虐待の事実を隠し続けるなど、長らく苦しい想いを秘め続けていたのだといいます。子供の身体を洗っているときに突然、記憶がフラッシュバックして、自殺を考えることもあるほどでした。

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米紙の調査報道が背中を押す

そんな竹中さんが声を上げようと思っていたきっかけは2002年にアメリカで始まった「ボストン・グローブ紙」による調査報道でした。同紙の報道で地元ボストンの神父が30年以上に渡り、130人以上の子供を性的に虐待していたことが判明。さらに、カトリック教会が長年把握していたにも関わらず、その事実を隠し続けていたことも明らかとなりました。

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その後、教会に対して激しい非難が巻き起こるなど、大きな社会問題となっています。一連の報道は、アカデミー賞にも輝いた「スポットライト」という映画にもなりました。

それまでカトリック教会の性的虐待は“タブー”とされ、被害を訴える人はほとんどいませんでした。しかし、このニュースを知った竹中さんは「国内でもほかに被害を受けた人がいるかもしれない。自分が声をあげるしかない」と勇気づけられたのだといいます。

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その後も、報道に後押しされる形で、世界中で第三者委員会が立ちあげられ、ポーランドやアイルイルランド、オーストラリアなどでも被害の実態が明るみになりました。昨年ドイツで報告された調査では、1946年から2014年までの間に少なくとも1670人の聖職者が3677人の未成年者に対して性的な虐待を行っていたことが判明。告発を受けた神父が、裁判で有罪判決を受ける事例も相次いでいます。

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そんな状況の中、2013年に就任したフランシスコ教皇は、性的虐待を行う神父を「悪魔の手先」と激しく非難するなど、この問題に厳しい姿勢で取り組んできました。今年に入り、世界中のカトリック教会に対して、教会内で把握した性的虐待の通報を義務付けたり、事実の隠ぺいを禁止する教令を発表。そのうえで全ての加害者に対し、法的措置を行うことを約束しています。


カトリック司教協議会が謝罪、国内の実態調査は

この流れを受けて今年4月、カトリック司教協議会も竹中さんに直接謝罪し、国内で被害の実態調査を行うことを約束しました。

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しかし、その調査結果は半年以上経った今も明らかにはされていません。

JNNが入手した日本カトリック司教協議会の内部資料によると、協議会は2002年、2012年、2019年と過去三回に渡り国内の実態把握のためにアンケート調査を行っていました。

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そのうち、2019年4月から行われていた内部調査では国内でのべ21件の性的虐待が報告されていましたが、協議会は「調査はまだ途中」として公表はせず、来日していた教皇にも報告しませんでした。

また、元裁判官などのメンバーで構成している海外の第三者委員会の調査に比べ、内部のアンケート調査だけでは、どこまで実態の解明に迫れるのか疑問です。

聖職者の虐待

竹中さんも被害を訴えるために、11月25日、東京で行われたミサに参加しましたが、教皇との対面は叶いませんでした。それでも、竹中さんは被害の全容を明らかにするため、今後も声を上げ続けると取材の最後に話してくれました。


「声を上げにくい・・・」だからこそ光をあてたい

私がこの取材を始めたきっかけは今年7月、厚生労働省の担当記者となり、劣悪な保護環境が問題となっていた都内の「一時保護所」における虐待問題を取り上げたことでした。

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虐待などの理由で児童相談所に保護された子どもたちが最初に身を寄せる「一時保護所」については、今年東京都の第三者委員会の調査によって、一部の施設で私語禁止や激しい叱責などの過剰な指導が行われていたことが判明。「施設でも虐待が続いているようだった」と語る経験者の体験を聞いているうちに、ほかにも知られていない虐待問題があるのではないかと思うようになりました。

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竹中さんとお会いしたのは、ちょうど「一時保護所」での問題についての放送を終えた後、児童養護施設の出身者を中心に取材を続けていた時でした。そこで耳にしたのは、生々しい性的虐待の実態。お話を伺ったときは、国内でもこのような虐待が行われていたことに驚きが隠せませんでした。しかし「同じような体験を一人で抱え込み、苦しんでいる人がいるのかもしれない。これ以上被害者を増やしてはいけない」そのような想いで今回の取材を始めました。

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聖職者による性的な虐待は、閉鎖的で表に出にくいものの一つです。被害者の多くが男性のため、声を上げにくいという理由もあるのかもしれません。実際、竹中さんが被害を訴えるまでは、国内に被害があるのかも分からない状況でした。

閉塞的で抗えない主従関係があるという構図は、ほかの組織や施設にもあてはまります。児童養護施設内の性的虐待も同じで、「身よりのない子どもが施設という限られた空間に入ったときに起きるもの」と考えると、私たちが知り得ているのは、ほんの一握りのことなのかもしれません。

まだまだ声を上げられない被害者がいるのではないか。知られざる被害を無くすためにも、声なき声を届け続けたいと考えています。


【今後も取材を続けていきたいと思います。ご意見や情報をこちらまでお寄せ下さい。(TBS報道局社会部 中谷亮太:shakaibu@tbs.co.jp)】