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歴史的。トランスジェンダー選手が五輪出場

新型コロナウイルスの影響で1年延期の末に開催されている東京オリンピックですが、実はオリンピック・パラリンピック史上初めて、トランスジェンダーの選手が出場する大会なのです。
今回トランスジェンダーとして出場したのは、女子サッカーカナダ代表DFクイン選手(25)と重量挙げ女子87キロ超級のニュージーランド代表ローレル・ハバード選手(43)です。IOCは2004年以降、トランスジェンダーの参加を一定条件の下で認めていますが、この東京大会まで出場者はいませんでした。
東京オリンピックは「多様性と調和」を理念に挙げています。LGBTQを公表している出場者は168人にのぼります(outsports.com調べ)。リオ五輪ではその1/3、ロンドン五輪では1/7程度の23人しかいませんでした。

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🇨🇦クイン選手


7月21日に行われた日本代表との試合に出場したクイン選手は去年9月、自らがノンバイナリー(男性か女性かなどの枠に当てはめない)であることを公表しました。ファーストネームである「レベッカ」という名を捨て、苗字のみの「クイン」(Quinn)と名乗っています。
試合の翌日、自身のインスタグラムでこう記しました。

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オリンピアンとして競うこと。それをどう感じているかわからない。
スタメン表やアクレジ(許可証)に「クイン」と書かれているのを見るのは誇りに思う。
世界の価値観のせいで、私より前に、偽りのない自分自身として出場できなかったオリンピアンがいたことを知り悲しい。
私は法律、ルール、構造、考え方における変化はいいことだと感じている。
だいたいの場合、現実はそううまくはいかない。スポーツをすることを禁じられているトランスジェンダーの女の子、オリンピックという夢に向かっているのに差別や偏見に直面しているトランスジェンダーの女性がいる。
その戦いはまだまだ続く。すべての人たちが(平等に)ここに来られたとき、祝えることになる。

ただ、東京五輪の公式ページには、8/2現在、クイン選手について、名前は「レベッカ・クイン」、性別は「女性」と記されています。


🇳🇿ローレル・ハバード選手

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議論を呼んだのはローレル・ハバード選手。

かつては男子選手として活動し300kg近くを持ち上げていましたが、「自分に合わない世界に自分を合わせなくてはというプレッシャーに耐えられなくなった」と23歳で引退しました。ハバード選手は2013年に性別適合手術を経て、2017年女子重量挙げに転向しました。

IOCは2015年、男性から女性になった選手について、筋肉量を増強するとされる男性ホルモンの一種「テストステロン」の値が最低12ヶ月間、一定以下なら、女子競技に参加を認めるガイドラインを策定しました。

とはいえ、もともと男性選手だったハバード選手の女子競技への参加は「不公平だ」といった声が相次ぎました。

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(女子重量挙げ87キロ超級の出場者。左から3番目がハバード選手)

ハバード選手はSNSもやらず、6月に東京五輪出場を決めてからもメディアの取材に応じてはいません。
そんなハバード選手を見ようと8月2日夜、女子重量挙げ87キロ超級の会場にはいつもの3倍のメディアが集まりました。
ハバード選手はまた、最年長での出場者でした。

結果は「記録なし」。

120キロの1回目を失敗すると、2回目は125キロに。頭の上まで持ち上げて成功したかのように見えましたが、肘が伸び切っていないと判定されました。

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そして3回目の試技も失敗しました。
それでも笑顔を見せたハバード選手。
報道陣の質問には答えませんでしたが、開催国である日本とIOCに感謝の意を示したうえで次のようなコメントを発表しました。

私は自分の五輪出場を取り巻く論争に気付いていなかったわけではありません。だからこそ、特にIOCに感謝します。オリンピックの原則に従い、スポーツはすべての人々のためのものであり、だれもが参加できるものであるという理念を確立したと思います。


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(3回目を失敗した直後のハバード選手。手でハートを作って見せた)

クイン選手やハバード選手はトランスジェンダー選手として初めてオリンピック出場を果たしました。
特に性転換をしての参加で、これまでたくさんの批判や中傷を浴びながらも、自らは多くを語らず、今回ここ東京で戦い切ったハバード選手が最後に見せた笑顔が、すべてを物語っている気がしました。

アメリカなどでは中高の陸上競技への性別を変更した選手の出場をめぐり、訴訟も起きています。

多様性と公平性。
だれもが受け入れられ、だれもが自分に正直に参加できるスポーツの実現に向け、今後も課題は残ります。

(報道局デジタル編集部 遠藤弥生)


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