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急げ!医療品の国産化

依然として感染者が報告される新型コロナウイルス。第2波への懸念もある中、解消されないのが医療物資の不足です。海外に頼らず国内生産を増やそうとモノづくりの現場が動き始めています。

■第2波迫る中、発熱外来をもつ街のクリニックの現状は?

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(多摩ファミリークリニック 大橋 博樹 院長)

川崎市の登戸にある多摩ファミリークリニックでは、新型コロナウイルスに感染している疑いのある患者を診察するために発熱外来を設け、対応しています。現場の医師を悩ませるのは・・・医療品の不足です。特に、在宅医療に関して不安を抱えているといいます。

大橋院長:
一番特殊なのは、やはりN95マスク になります。やはりその飛沫が、エアロゾルが発生するという手技、例えば在宅医療でどうしてもお家で PCR の検体を取らなきゃいけないとか、後は喀痰を吸引したりとかですね、そういうようにエアロゾルが発生すると想定される場合は必ずこの N 95マスクが必要になります。

これに関しては、やはりフェイスシールドとかと違ってですね、代替品というのがなかなか存在しないんですね。ですからこの N 95マスクに関しては、今現場でも私たちこのクリニックでも第2波が万が一やってきたときには、かなり在庫は厳しくなるといった状況です。

外来の場合は、1日これを使って1人1人患者さんを見ていくということが出来るんですけれども、もし第2波でご家庭の、在宅の患者さん、在宅医療を受けていらっしゃる患者さんが本当にこのコロナの疑いが出てきたといった場合に、1件1件私達も回らなければいけない。そうすると、1件1件取り替えなきゃいけないわけですよね。お家に行って、脱いで、移動してまた新しいのを着て、脱いでとありますので、外来よりかもはるかに多くの物品が必要です。

そうすると第2波で在宅の患者さんが、果たして本当にコロナの患者さんがいっぱい発生した場合に、私たちがこれを全部ですね、用意しきれるかと言うとかなり今の段階で自信を持って「大丈夫」と言えるような状況ではないのかもしれない。どうしてもその間に車でもって移動とかありますので、外来であればある程度それを着てですね、ある程度の患者さんをこなすんですけれども、やはり在宅になると、1回1回脱いで、移動してまた新しいのを着てとなりますので、消費の桁がですねやっぱり変わってくるんじゃないかなという風に思います。

サージカルマスクについてはかなり余裕が出てきたという、いろんなところから提供していただいたり、だいぶサージカルマスクに関しては供給が出てきた。フェイスシールドに関してはいろんな企業さんが手作りで新しいもの作ってくれて、送ってくれるので、今供給が出てきた。
ただやはりこういう特殊な(N95)マスクに関しては全くもってやっぱり新しくというのはないので、ここに関してはまだ在庫がなかなか今発注をかけても来ない。

この後もっともっと患者さんが第2波で来ちゃうような、在宅でも必要だよって言われちゃうと、もうそこには相当数貯めておかないと難しいなあと。
1番避けなきゃいけないのは「そういうのがないから行けません」とかですね、「こういうのがないから僕ら見れないので救急車を呼んで大学病院に運んでください」なんていうことはやっぱりなかなか言いたくないし、やっちゃいけないと思うので、そのためにも僕らは今ここで残しとかなきゃいけない、蓄えとかなきゃいけない物品っていうのなんじゃないかなと思います。

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N95マスクや不織布ガウンは今も十分に確保できていないうえ、感染の第2波への懸念も強まるなか、さらに大橋院長を悩ませるのはこれからやってくる「暑さ」です。

大橋院長:
不織布のガウン、こういうガウンだと通気性が保たれるのでこれからの季節いいんですけど、不織布のガウンは少なくって。ビニールのガウンだと比較的手に入りやすいんですけど、ビニールのガウンはかなり蒸れてですね、私たちも特に在宅で暑い環境の中でやるので在宅医療でビニールのガウンを着てやるっていうのはかなり私自身もきついかなというところ。この不織布のガウン、しかも重要なのはここ(袖口)がゴムになっていて、ちゃんと私たちを守れるといったものに関してはなかなかやっぱりまだ手に入りづらいっていうのが現状かもしれないです。
一部のクリニックさんとかではまだレインコート着て行ってるとか、ゴミ袋着てやっているっていうところもまだまだあるかと思うんですが、これからの梅雨の季節暑い季節にそれを着てどこまで耐えられるかっていうのはなかなか難しいかなという風に思います。


■日本の医療品の海外依存 異業種が生産を開始

新型コロナで、まず一番初めに無くなったのが、私たちも身に付けるマスク。国内で流通するマスクは、約70%を中国に依存していたため品不足が深刻となりました。実は、日本はマスクだけでなく、様々な医療品を中国などの海外生産に依存。新型コロナの重症者に使われる、人工呼吸器は、部品などの海外依存度が高く、約90%は海外で生産されています。今回、感染拡大で現地での生産や輸入が遅れたため供給が滞ってしまったのです。

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こうした事態に航空大手のANAグループでは客室乗務員などが医療用ガウンの製作を開始。トヨタや日産、マツダなど自動車メーカー各社は医療用のフェイスシールドを作りはじめましたが、それでもモノによっては供給が十分とは言えないのが現状です。

■医療品のサプライチェーンを構築した会社

そこで、まず初めに動き出したのが、中小企業の技術データベースを運用する会社「リンカーズ」です。自社のデータベースの強みを生かし、月に100万枚規模の医療用ガウンを供給できるサプライチェーンを構築しました。

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(リンカーズ 前田 佳宏 社長)

前田社長:
医療用ガウン、我々が今回行ったアイソレーションガウンに関しては100%中国からの輸入だったんですね。やはり近々に医療現場にガウンを提供しないといけないということで BCPの観点からある程度の数量を国内で調達する必要がありました。

3月末ぐらいにちょうど、経産省から依頼が来て、国内の医療用ガウンのサプライチェーンを構築してほしいという依頼をもとに動き出しました。そこで、日本国内の不織布メーカーから不織布を調達して、それを日本国内の縫製メーカーに支給して縫製メーカーが医療用ガウンに仕立て上げて、それを厚生労働省の倉庫に納入して、厚生労働省から日本各地の病院に供給してくと、そういったプロジェクトになります。

3月の頭ぐらいから、マスクとか人工呼吸器とかまさに今回手掛けたガウンも含めて経産省・厚労省が急ピッチで動き出したというふうに思っております。4月あたまぐらいに具体的に、GOがかかりまして4月の10日前後ぐらいから我々は動き始めましたね。我々はこれまで構築したプラットフォームをうまく利用することによって、1週間以内に100社以上の縫製メーカーの候補企業を集めることができました。

実際、全体では約190社集まりまして、その中で最終的には5月の納入に関しては約30社ですね、縫製をやっていただいております。ただ6月以降さらに数量が増える可能性がありますので、いま参加いただく縫製メーカーの数はさらに増えていくと思っていて、5月は、100万着を納入するという予定を組んでおります。

やはり100%中国生産だったということで、日本の縫製メーカーとしては医療用ガウンでも初めてです。なので、生産性っていうのを見積もれないので、いくらの生産コストでできるのか、っていうのがわからない。そういった意味で、各縫製メーカーから出てくる見積っていうのがバラバラだったんですね。そこをいくらにするかっていうところの調整ですね、そこは結構大変でしたね。

新型コロナ感染の「第2波」への懸念や有事の際に備えて、国内で生産する体制や備蓄が重要だと訴えます。

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前田社長:
まさに我々、中小と大手企業の間、あるいは中小とまさに政府の間に立って、うまく取りまとめを行っています。そういった意味で我々がそこをリードすることによってうまく中小企業をまとめて、1つのソリューションとして、大手だったり政府に提供できていると思っています。

日本国内の工場の空き状況だとかを網羅的に1日、2日っていう短い期間で見つけ出すっていうことがなかなか難しいと思います。我々の場合はこれまでの数年間で培ったネットワーク等、各中小企業との信頼関係があるので、非常に短時間でその状況、情報を取得できます。最終的に、短期間で「できる会社」を集めることができるので、我々の果たす役割は非常に大きいなと思っています。

今回の医療用ガウンのみならず複数の企業を集めて、最終的に大きな生産が必要なプロダクトに関しては、今後もそういった需要って増えていくかなと思っていますね。国内でまさにこれ一時的に一気に医療品が不足していると思うんですね。医療用ガウンもマスクも含めて海外調達がメインだったんです。コロナ禍によって、物流がかなり麻痺していますので、オンタイムに入手できない。価格は安いけどなかなかオンタイムに入手できないと。そういった意味で非常に短い利用タイムで日本国内から製品を獲得するっていうことが非常にこれは今回、必要だったのかなと思っております。

今回のコロナに関しても、第2波が来る可能性は十分ありますし、新たなパンデミックっていうのが1年後2年後または数年後に起こる可能性もあると思うんですよ。そこに備えてですね、やっぱり日本国内で作る体制を構築しておく、もう一つが備蓄しておく必要があるかなと思います。


■「医療用ガウン」をつくりはじめた小さな工場

では、実際にこのサプライチェーンに参加し、動き始めた中小のモノづくりの現場はどう感じたのか。今回参加した工場の1つである、群馬県の「大友」は、企業向けのユニフォームやエプロンなどを縫製しています。

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(有限会社 大友 大野 光範 代表取締役)

大野代表:
今回このガウンに関しては、実際動き出しは・・・4月の半ばには連絡を受けてまして、どういった段取りで動くかっていうのはもう4月の半ばぐらいには準備を始めていました。実際、不織布自体の生産が追いつかないっていう、現状問題がありましたので、不織布をいつうちの工場に入れていただけるかでスケジュールが決まるっていう状態ではいました。実際弊社も初めてやる素材なのでそれに対しての準備っていうのはありましたので、そこに関しては想像予想で動きましたから試行錯誤がかなり前から、半月ぐらいかけて準備をかけていきました。

弊社の場合は縫製業っていうジャンルになりますけど、縫製業っていうジャンルはどんどん衰退しているのが現状です。そしてほとんど、今医療品っていうのは海外で作って国内で販売するっていう流れですけど、こういった場合は今回のコロナの場合だと医療品っていうのはすぐ海外に問題が起きるのと止まってしまいますので、やっぱり国産で生産するっていうのは必要じゃないのかなって常日頃考えています。何かあった時は、全部海外生産っていうのは対応できないので、国産工場の必要性をいつかどこかでこういった時にアピールできたらいいなって考えて今まで仕事やってきました。そこで、今回役に立ったっていうのがあります。

弊社のウリは東京に近いところで、クイックで納品ができるのを売りにしていますので、極力こういう有事の際とかいろんな緊急事態でも対応していけるような体制は常に考えています。

経験にもよると思うんですけど、やっぱりどこまで出された内容に対応できるかっていうのは、どんな内容でも極力対応していけるようなことを大前提でやっていますので、できれば極力国産化を目指してもらえるような工場っていうのを目指してます。

中小企業にとって「交通整理」してくれる存在が迅速なモノづくりにつながるといいます。

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取りまとめをしてくれるというか、交通整理をしてくれる企業さんというのはすごく今回ありがたいなって感じました。しかも早く早く情報だけは頂けたっていうのは、準備をする側としてはすごく役に立ったなっていうのは思っています。

方向性をはっきりと提示してくれて目標しっかり提示してくれるって言うのは、こういう歯車の一部としての会社としてはすごく動きやすいと思いました。


■大手企業も国内に生産設備を導入

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生活用品大手のアイリスオーヤマは、マスクを国内で生産するため、宮城県の角田市にある工場を約30億円かけて整備しました。4分の3にあたる22億円余りは国の補助金でまかなう計画です。これで、不織布のマスクを月に最大1億5000万枚生産することが可能になります。
これまで中国工場でマスクを生産していましたが、政府から国内生産の要請を受け、角田工場での生産を決めたということで、中国で不織布の価格が高騰していることから、角田工場に不織布を作る機械も導入する計画だといいます。

「第2波」への警戒が強まる中、国産化の重要性はさらに増しています。


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小森谷 槙 記者

1996年生まれ、神奈川県湯河原町出身。学生時代は大学で化学工学を専攻。今でも科学全般が好きで、最新技術や科学、ITなどをこれからも取材していけたらと思っています。

【編集後記】

今回、新型コロナウイルスの感染拡大で、最前線で戦う医療従事者を守るための医療品が満足に手に入らない状況が続きました。
少しずつ感染者の数は減りつつありますが、「第2波」が来てしまったらどうするのか?今回の新型コロナだけでなく、将来また新たなウイルスが発生したら?国と国が衝突し、突然輸入がストップしてしまったら?新型コロナは海外にものづくり依存する危うさを浮き彫りにしました。
日本は食料品やプラスチック製品、電子機器の精密部品など数多くの品を海外に依存しています。新型コロナが中国で猛威をふるった2月から3月から
トイレなどをはじめとした建築資材や中国野菜など様々な製品の輸入が遅延。衛生資材だけでなく、身の回りの品々にも海外依存からくる影響がでたのです。
ただ、幸いなことに日本には質の高いモノづくりができる工場や企業がたくさんあります。もともと強みを持っているのです。今回取材した工場も確かなモノづくりの技術があり、たとえ使い捨てであっても、しっかり縫えているか、異物の混入がないか縫製から検品にいたるまで何度もチェックをしていました。
いざというときに生産する体制を作っておくこと、物資は備蓄しておくことなど、
人の命にかかわる製品は、備えが何より重要なのではないかと感じました。