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過酷な「格差」を実感する季節

【ホット検索ワードから見る中国 vol.8】

中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。

今回のホット検索ワード・・・

「中国人の冬」

(新浪看点「侣行记艺」より)


中国は毎年11月15日を境に、「持つ者」と「持たざる者」の過酷な格差社会へと変わります。この格差とは貧富の差ではありません、「セントラルヒーティング(集中暖房)」を持つ者と持たざる者の差です。

中国では、政府が主導するセントラルヒーティングを採用しています。簡単に言えば、国がまとめて暖房を設置、運用しているのです。毎年11月15日になると、この暖房が稼働し始めます。(地域によっては早めに開始することもあります)

しかし、この暖房は中国全土に設置されているわけではありません。下の地図の青い線「秦淮線(淮河と秦岭を結ぶライン)」より南には設置されていません。

(新浪看点「前后惧怕词」より)


暖房の設置されている地域は、いくら外が寒くても、家に帰れば暖まることができます。しかし、持たざる者はそうは行きません。私が住む南京市はちょうど境界線上に位置していますが、暖房は設置されていません。つまり、暖房の無い地域で一番北にあるのが、南京なのです。南京は盆地のため、寒さが厳しいことでも知られています。しかし、暖房が無いので、家に帰っても寒さと闘わなければいけないのです…

さて、そんな暖房事情も含め、今回は中国の冬の生活を紹介したいと思います。


中国毎年恒例の「抗冷南北戦争」

 

さきほど述べた通り、中国は暖房のある地域とない地域に分けられます。中国では暖房のある地域を「北方」、ない地域を「南方」と呼んでいます。冬になると中国では、毎年必ずある論争が起こります。それは、「北方人と南方人、どちらが寒さに強いか論争」です。

中国北方の寒さとは、まさに「物理的な寒さ」そのものです。毎日-30度を下回るような極寒地域もあります。あまりに寒いため、配達中に宅配物が凍ってしまうというのも日常茶飯事のようです。化粧水、目薬、フェイスパック、コンタクト…と液体のものは軒並み凍ってしまいます。

(新浪看点より)


そんな地域では、冬になるとこんなお店をよく見かけます。

(贵阳FM104より)


アイスの路上販売です。冷凍庫はありません。段ボールに入れて置いておいても溶けることがないのです。外で売られているアイスを買って、暖房のある温かい家でアイスを食べるというのが、中国北方の人たちの冬の楽しみなのです。

(中华网より)


さて、一方南方の寒さは「魔法の寒さ」と言われています。温度は北方よりもはるかに高いはずなのに、なぜか寒くて寒くて仕方がない。それが中国南方の寒さなのです。その原因は湿度の高さにあると言われています。北方は温度は低いものの、乾燥しているため、さほど寒く感じませんが、南方は湿度が高いため、体感温度が気温よりも低くなります。

その上、室内には暖房が備わっていないので(もちろん自分で暖房器具を設置する人もいますが)外にいても、中にいても温度がほとんど変わりません。なので、コートを着たまま部屋で過ごすことも珍しくありません。

南方の冬で一番恐ろしいのは、湿度が高いせいでコートや布団までが湿気を帯びてしまうことです。寝るときに布団にもぐると、濡れた布団をかけているような感覚になります。私が南京に来て初めて最も深い絶望を味わったのは、この布団の感覚を知った時でした。一番の味方が敵に寝返ってしまった…そんな気持ちになりました。

ただ、悲しいことにこの「南方」の寒さはなかなかデータで表すことができないのも事実。南方の冬を味わったことない北方の人は皆「そんな大げさな、北より南が寒いわけがない」と相手にしてくれないのです。

しかし、氷点下30度の地域から来た北方の人でも、一度南方の冬を味わうと100人中100人が「南の方が寒い」と口をそろえて言います。まさに「魔法の寒さ」です。


冬の風物詩「布団を着たバイク」

中国では電動バイクが広く普及しています。免許も必要なく、小回りもきくので渋滞の影響を受けにくく、とても便利なのです。出前の配達員、サラリーマン、子どもを学校に送るおじいちゃんおばあちゃん…とたくさんの人が愛用しています。

この電動バイクにも冬の装いがあります。それがこちらです。

(視覚中国より)

風よけにもなる上、ハンドル部分も覆われているので手がかじかむこともありません。ものによっては、首元まで覆ってくれるので、冬でもあまり寒さを感じずに乗ることができます。まさに電動バイクの布団です。

初めて見たときは、見た目のインパクト(と模様のダサさ)に驚きましたが、今では私の冬の生活に欠かせないものとなっています。これが無いと寒くて電動バイクになんて乗れません。


欠かせない中国冬グルメ

中国と言えば「火鍋」を思い浮かべる人が多いと思います。イメージの通り、中国では寒くなるとたくさんの人が火鍋を食べます。

(大公网より)

とはいえ、実際は冬でなくても、中国の人はことあるごとに火鍋を食べます。「テストが終わったから、火鍋行こう」、「お客さんが来たから、火鍋食べよう」、「熱いから、火鍋食べて汗流そう」…等、何かにつけて火鍋を食べています。

冬になると中国では、街のあちこちから焼き栗のいい匂いがしてきます。ただ袋に入れて売ってるのではなく、下の写真にあるようにその場で炒めて売っています。

(宁波科普より)


屋台のおじさんに「500gください」「10元分ちょうだい」「3袋買います」等、自分の欲しい量を伝えると、その分を袋に入れて売ってくれます。冬の寒い日に食べる焼き立ての甘栗は格別です。

焼き栗だけでなく、焼き芋・焼きとうもろこしを売る屋台もよく見かけます。ほっくほくに焼けた芋を見ると、思わず足を止めてしまいます。

(搜狐より)

たまに、芋を焼く炉で暖を取り、自分で売っている焼き芋をかじりながら商売をしている焼き芋売りのおじさんを見かけます。その姿を見ると「自分で食べてしまうくらい美味しいのかな」と、買いたくなってしまいます。もしかすると彼の戦略かもしれません…


健康に欠かせないのは身体の“除湿”?

日本では、冬になると乾燥対策が必要になります。加湿器などを使って部屋の湿度を保っている人も多いのではないでしょうか。しかし、中国では加湿よりも「除湿」に力を入れています。しかも、空気の除湿ではありません。中国人が気にしているのは、体の除湿です。

中国医学には、「身体が湿気る」という概念があります。体の中が湿気っていると、様々な不調が生じたり、暑さや寒さの影響を受けやすくなったりすると言われています。そのため、中国の人は体の湿気をとる食べ物を食べたり、足湯をしたり、ヨモギのお灸を据えるなどして、冬の湿気と闘っているのです。

(传艾微课365博客より)

体の湿気を取るために、中国人にとって絶対欠かせないのは「水をたくさん飲む」ことです。体を冷やすことを嫌う彼らは夏は常温の水を、寒くなってくると、魔法瓶に熱湯を入れて持ち歩き、こまめに飲んで水分補給をします。

(京华时报より)

何も入れずに飲む人もいれば、自分の好きなお茶の葉を入れたり、体を温めるためにクコの実や生姜を入れたり、と楽しみ方は様々です。

人々が持ち歩く水筒が普通のボトルから魔法瓶に変わり始めると、「もうすぐ冬だな」と感じられます。これも中国ならではの光景かもしれません。

冬の寒さに耐えかねている人は、是非中国式健康法を試してみてはいかがでしょうか?

(記事作成:竹内亮 石川優珠)