“戦場カメラマン”渡部陽一&デーブ・スペクターが登壇!映画『戦場記者』公開直前イベント開催!「須賀川が必ず、紛争地の現場にいること、それが国際報道の一番の真骨頂」
未だ終焉をみせないロシアのウクライナ侵攻、そして北朝鮮の弾道ミサイル発射、台湾侵攻など、多くの人が世界戦争の危機を実感として捉えた激動と混沌の2022年。世界の紛争地を飛び回ってきた日本人記者の視点から“戦場の今”を映し出すドキュメンタリー映画、『戦場記者』が、12月16日(金)より公開となった。
本作の監督は、TBSテレビに在籍し、JNN中東支局長として現在ロンドンを拠点に、世界中を飛び回る特派員・須賀川拓。中東支局長というポジションながら、中東はもとより、ヨーロッパ、アフリカ、アジアと地球の約1/3という驚異的な広さのエリアをカバーしている。「戦争に白黒はない」と、常に反対側からの視線も忘れない須賀川。彼は時間の制限ゆえに戦争の現実をごく一部しか報じられないテレビ報道の枠を超え、YouTubeやSNSも駆使して戦地の肌感覚とニュースの向こうに広がる光景や真実を危険エリアから撮影クルーと共に日本の視聴者に届けてくる。スピード感溢れる怒涛のレポート、ホンモノの紛争地のヒリヒリした緊張感を伝える語り、筋書きのない意外性に満ちたYouTube配信は、従来のニュースファンだけでなく若い視聴層も取り込み、平均30万再生以上の人気コンテンツとなっている。須賀川が抜群の行動力と分析力でガザ、ウクライナ、アフガニスタンと、世界の戦地を徹底的に歩き、人々を見つめ、浮かび上がらせる戦地のリアルは、私たちに戦争の残酷な現実を突きつける。激動と混沌の時代に生きる私たちが今観るべきドキュメンタリー映画が誕生する。
世界の紛争地を飛び回ってきた日本人記者の視点から“戦場の今”を映し出すドキュメンタリー映画『戦場記者』の試写会が12月14日(水)、都内で開催された。上映後には、戦場カメラマンの渡部陽一、放送プロデューサーのデーブ・スペクターを迎えてのトークイベントが行われた。ロンドンにいる須賀川拓監督とも中継をつないでの熱いトークが展開し、会場は盛り上がりを見せた。
TBSテレビ特派員にして、YouTubeでも戦地での取材の模様をアップし、大きな話題を呼んでいる須賀川。ロンドンからオンラインでトークイベント出席となったが今回、こうして自身がカメラに収めた映像が映画として全国公開されることについて「正直、まだフワフワしています。僕ら取材者は、取材している人(取材対象者)が主役なので、私自身が主役のような形でフィーチャーされることに、いまだに違和感があります。結果として、自分が軸となることで、紛争地を紹介できるので良かったかなと思いますが、まだ実感がわかずにいます」と喜びと戸惑いを口にする。
渡部は、映画を観ての感想として「須賀川さんが必ず、紛争地の現場にいること、それが国際報道の一番の真骨頂だと思います。紛争地域や情勢が不安定な場所において、直接の戦闘にかち合ったり、前線にたどり着くってことが、取材の中で最も大きなウェイトがかかってくる大切な力であり、取材そのものの柱となります。必ず現場にいてカメラを回している――それまでの段取りや現地の人々とのつながり、特に取材チームを支える現地のコーディネーションの方々、通訳など、須賀川さんを支えるチームのみなさんの力が、映像の中に激しく表れているのを感じました」とまず何より、紛争地の最前線にたどり着き、そこでカメラを回せることのすごさ、チームの力の大きさについて言及する。
須賀川は渡部の言葉を受け「ありがたいです。チームの力というのは、本当にその通りで、僕一人では何もできません。言語も軍の動きもわからないし、安全管理上も一人では足りない。チームあってこその現場取材なので、そこを感じていただけて嬉しいです」とうなずく。
デーブは「(須賀川監督はロンドンではなく)実は赤坂にいるんじゃ?」「TBSのセブンイレブンで見かけた」「ロンドンにいるなら、ウエンツ瑛士に会ったことがあるか聞きたい」などとボケを散りばめて笑いを誘いつつも、映画そのものについては「テレビで放送されるのは3~5分だけど、今回の映画では、本来テレビでは見られない取材の前後が見られる。大手メディアだからできることがある。支局を置き、運営費を掛けて、現地採用の優れた人を集め、コーディネーターやフィクサーなど命がけの人も必要でそれは簡単ではない。テレビ局だからできるということが忘れられている。メディアはある程度、規模がないとできないということがわかりやすく描かれていて、今、見る価値、知る価値があると思う。紛争地の現地の方がiPhoneで撮って上げたり、ワンマン取材の方もいるけど、チェックやアレンジは簡単ではない。いまも、ある程度のレベルの取材力が必要で、それを実感しました」とテレビ局の記者である須賀川だからこそなしえた作品であり、大手メディアの存在意義を示している作品であると強調する。
須賀川はデーブの言葉に深くうなずき「会社のコネクションやネットワーク、資金もそう。逆に、(資金力のある)テレビ局や大手メディアはこれまでもっと現場に行くべきだったし、これからは行くべき。安全はお金で買える部分もある。余裕を持ってお金が出せるのが大手メディアであり、あるリソースは使っていかないと、伝えられることも伝えられなくなる。個人でも発信はできるけど、何が本当でどれがフェイクかわからない。アフガニスタンでも時期が違う映像が流れたり、イエメンのことがシリアでのこととして流れていたりする。見ている視聴者はよほどの知見がないと真偽を判断できない。(大手メディアに属する)僕たちの役割はまだちゃんと残されてる。だからこそ、謙虚に続けていかないと」と真摯に語った。
一方、デーブは、記者がメディアと契約して現場に赴くアメリカと異なり、日本の記者は会社に属する“サラリーマン”であることも多く「コンプライアンスもあって、どうしても、危なくなると引き上げてしまうイメージがある。雇う側の気持ちもあるし、(現場の)残してほしいというジレンマもあると思う」と指摘。
これに須賀川は「会社の判断はわからないけど、今回の映画の一連の紛争地取材が良い例になればと思います。語弊を恐れずに言えば、ある程度、安全はお金で買うことできるんです。防弾車両を用意したり、長距離移動の際に車列を組んだりすればいい。そうするとドライバーも複数必要だし、防弾車両も1日で数千ドルかかるけど、でもそのお金を使うことによって、ちゃんと現場で起きてる実態を伝えることできるとわかれば、今後もっと『現場に行こう!』という風潮になると思う」と応じる。
この“危機管理”の重要性については、取材経験の長い渡部も「紛争地の前線で、いかに自分で危機管理を足下に引き寄せるか? 現地で生まれ育ったガイドさん、通訳やドライバー、数字や理論だけでなく、その国で生まれ育った方だからこそ感じ取れる危険や情勢の変化、そうした現地の人とのチームが組み立てられることができれば、安全な選択肢を引き寄せることができます。絶大な信頼関係のある、地域を知り尽くした方とのつながりを持っておくことも大切な危機管理の入口です」と強調する。
またデーブは、取材をし、視聴者にニュースを届けることはできても、その場で直接、現地の人々に助けの手を差し伸べることができない取材者の葛藤についても言及。「須賀川さんは『視聴者以外にNGOやNPO、政府関係者も見るから』と言ってました。具体的にご自分のレポートがどういう影響をもたらすことを期待していますか?」と須賀川監督に質問。
須賀川は「視聴者に届けるのは大前提だけど、そこで終わっては絶対にダメだと思っています。支援につながったり、(ニュースを通じて)議論が巻き起こって、結果的にそれがそこに住んでいる人にとって良い方向につながればいいというのが僕の明確な最終ゴール。将来的に紛争がひとつでも少なくなり、難民になる人がひとりでも減ればいいなと思っています。視聴者の“先”を常に見ています」と自身の思いを口にした。
さらにデーブは、須賀川の取材姿勢として「感心したこと」として、タリバンやガザ地区の責任者など、様々な立場の人々にも取材を申し込んでいる点について言及。「須賀川さんの気持ちや感情はもちろん入るんだけど、いろいろな関係者の意見を冷静に聞いているところはさすが!」と称賛を送る。
須賀川はこの点について「言葉の選び方はすごく意識しています。アメリカのニュースではウクライナの戦争の話でも、“敵味方”という言い方をするけど、それはダメ。日本だからこそ報じられる立場があると思うので。“公平公正”なんて詭弁であって、本当はないと思っているけれど、そうであるなら、できるだけ多角的に報じたい」と自らのスタンスを明かす。
そして「ガザ地区の話であれば、ハマスとイスラエル軍、どちらの話も聞いたけど、どちらもあまり答えてはくれないので、そういうときは汚いやり方だけど、イスラエル軍には『ハマスはもう答えてくれているよ。このままだとハマスの意見しか流れなくなるけど良いんですか?』と言うし、逆も然り。そこはシビアに攻めていかないと、アポは取れないです」と取材現場の厳しさの一端をうかがわせた。
また、トークの中ではウクライナ戦争の現状についても話題に。渡部はウクライナで起きている戦争について「いままでの戦争とは違った、完全な侵略戦争。100年前の第1次世界大戦、第2次世界大戦の侵略戦争の残虐さがウクライナ全域で現実に確認されています。戦争犯罪、大量虐殺(ジェノサイド)が、今私たちが生きている2022年12月に起きているという現実――いままでの戦争と違う残虐性が際立っていると感じる」と指摘。
その言葉を受け須賀川は「一方で難しく感じる部分もあって、日本にもクルドやシリアの難民がたくさん来ていますが、彼らに対する眼差しと、ウクライナからの難民への眼差しが全然違います。それはイギリスでもそうで、ウクライナ難民への優遇措置はよいことだと思います。現在進行形で難民になっている人を助けることは悪いことじゃない。だからこそ、これをきっかけに、シリア、イエメン、イラクなど、いろんなところからの難民への見方も変わってくるといいなと思ってます」と訴えた。
須賀川は改めて「いまの若い世代は、なかなかテレビを見ることがないと言われますが、この映画やYouTubeなど、いろいろな媒体を通じて見て、興味持ってもらえたら。そういう人が増えて、なんらかの支援につながったり、議論につながったらいいし、感じ方はそれぞれですが、日本の若者、視聴者をかき回したいという思いがあります」と本作をアピールし、トークは幕を閉じた。
TBS DOCS解説「テレビも、SNSも超えて、映画で伝えたいことがある」
劇場公開や映画祭での上映などドキュメンタリー映画を発表し続けているTBSの新ブランドで、“DOCS” とはDOCUMENTARY FILMS の略称。2021 年よりドキュメンタリー作品だけの映画祭、「TBSドキュメンタリー映画祭」を開催、全22本を上映。第2回となる今年3月開催の「TBSドキュメンタリー映画祭 2022」では、クライマー・山野井泰史の壮絶な人生に迫った『人生クライマー ~山野井泰史と垂直の世界~』や、30歳を目前に控えたアイドルグループ・ももいろクローバーZを追った『ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~』、社会に衝撃を与えた暴走事故を3年にわたり追い続けた『池袋母子死亡事故「約束」から3年』など、幅広いテーマを扱ったドキュメンタリー全 11 本を発表。
須賀川拓(監督)
1983年3月21日生まれ、東京都出身、オーストラリア育ち。2006年TBS入社、スポーツ局配属。2010年10月報道局社会部原発担当、警視庁担当、『Nスタ』を経て、現職(TBS中東支局長)。担当した主な作品は、レバノンの麻薬王を追った『大麻と金と宗教』、封鎖のガザで生きる起業家に 密着した『天井の無い監獄に灯りを』。その他にも、レバノンの大爆発後メディア初となる爆発中心部取材や、タリバン幹部への直撃インタビュー、アフガニスタンでタリバンのパトロールへの密着等。最近は、テレビでは伝えきれない紛争地の生の空気や、戦争で生活を破壊され、あえぐ一般市民の声をTBS公式YouTubeで積極的に生配信している。2022年、国際報道で優れた業績を上げたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。
撮影:寺島尚彦、宮田雄斗、渡辺琢也、市川正峻
協力ディレクター:小松原茂幸
編集:牧之瀬勇人、泉妻康周
MA:深澤慎也
選曲・サウンドデザイン:御園雅也
企画・エグゼクティブプロデューサー:大久保竜
チーフプロデューサー:松原由昌
プロデューサー:津村有紀
TBS DOCS事務局:富岡裕一
協力プロデューサー:石山成人、塩沢葉子
製作:TBSテレビ
配給:KADOKAWA
宣伝:KICCORIT
2022年/日本/102分/5.1ch/16:9
©TBSテレビ
公式サイト:senjokisha.jp/
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