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読書記録【ファスト教養(レジー著)】

こんにちは。本日は「ファスト教養」という本の読書記録です。
(毎度のことですがネタバレも少々あるのでご注意ください。)


近頃書店へ足を運ぶたびに「教養としての〇〇」といった本や、「〇〇は教養として身につける必要がある」という論旨の帯を頻繁に見かけるようになりました。

なんとなく今が教養ブームなのかなという雑感のもと、この本の帯に書いてある、「不安を餌にあなたに迫る教養は霊感商法の壺と同じである。」
というパワーワードに惹かれてこの本を手に取りました。

自分自身、今の教養ブームに対して、「教養とはなんなのか」ということに関してはもやついた状態だったので、現状の批評から「教養」というものを眺めてみよう。そう思い、この本を読んでみました。

①ファスト教養とは

「ファスト教養」とは如何なるものなのか?
それは「お金を稼ぐ」「成長したい」「周りと差をつけて出し抜きたい」
このような考えの下部組織になってしまっている教養、またそのようなニーズに応えるざっくりとした大まかな教養
ということです。

いわゆる「古き良き教養」というのは本来、ビジネスや個人の成長などとは無縁のものであるはずです。

しかし、昨今の流動的かつ不安定な社会において、「ビジネスマンとして周りに差をつけるためには教養が大事」という言説が普及したことによって、教養という言葉が「ビジネスマンとしての成長」や「お金を稼ぐために必要なツール」という概念に強く結びつきすぎている。
そんな状況で不安を煽るような形で迫ってくる教養を「ファスト教養」と呼ぶのです。

私自身、そのような不安を煽られていくつもビジネス啓発書を手に取って来た経験があり、身につまされる話が本書にはたくさん書いてあります。

本書では、このような「ファスト教養」が流布した背景を、社会的情勢の変化(自己責任社会の到来)とホリエモンなどの印象的なインフルエンサーの登場を絡めて細かく分析しています。

参考文献やデータも徹底的に活用し、「教養」という言葉の含む意味合いの変化、
またそれが社会の状況とどのように関与しているのかを分析しており、
かなり読み応えのあるものになっていると思います。


②カルチャーを蝕むファスト教養

上記のような「ファスト教養」に染まりすぎると自然とこのような考えに帰結するのではないでしょうか?

「金を産まない知識は無駄」
「1つの分野の知識を何時間もかけるのはコスパが悪い」

このような考えが勢いを強めすぎた結果として、カルチャーが表舞台から姿を消すのではないかという警鐘を筆者は鳴らしています。

本来1つの分野に関する知識は短時間で手に入れられるものではないことは明白です。しかし「コスパ」のいい、「短時間で見られる」教養風なコンテンツが増えたことで本来の文化が持つ深みが蔑ろにされてしまう、ということです。

本書では「花束みたいな恋をした」の麦を例にとり、
いかに現代でそのようなことが起きているのかということを豊かに論じて言います。

実際自分も何かを始める時、YouTubeなどの簡単な導入の部分で判断してしまうことが増えています。文化と相対する時の心持ちには気をつけないといけないなぁと思います。

それぐらい「ファスト教養」的な思想は現在の社会で隆盛を極めているということなんですね。


③今の時代の教養との向き合い方とは

それでは現代において「教養」とどのように向き合うべきなのでしょうか?
古き良き教養を崇拝し、それに回帰するのは変化の早い社会では現実的ではないですよね。

本書は非常に中立的な回答を示してくれています。
一言で言うと「枠組みから自由になる」「枠組みの中で使える知識の習得から逃げない」とのことです。この両輪を回すことが大事だと筆者は述べています。

ここで言う知識とはなんなのかということや、どのように枠組みから外れた知識や教養を得て行けばいいのかということは本書でとても詳しく解説してくれています。中途半端に語るより、ぜひ読んでいただきたい部分だと思っています。


④まとめ

今の時代で隆盛を極める「ファスト教養」に批判的な意見を述べつつ、
かといって完全否定はしないで、どうするべきかを述べている非常に中立的な本だと思います。

細かな分析を通して「教養」の意味合いを追っていくところなどは、非常に分析豊かで面白いところです。

ぜひ本書を読んで今の教養時代を一考するのはどうでしょう?
世の中の見方がきっと変わる1冊だと思います。

ちょっと説教くさくなってしまいましたが、良い本なのでぜひお読みいただければと思います。


ではまた。

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