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2024年1月の(音楽とかの)こと

11月、12月のことを書かないうちに1月まで終わってしまった。
11月から山形県の鶴岡にいる。半年間の短期駐在というやつである。期間限定という暗示をかけて、自分からしたら鬼のように働いている。日本海特有の冬の雨風雪の中を10分歩いて会社に行って、目を回して働いて、レコードも何も無い家に帰って、週末に作り置いた食事をそそくさと食べて、マンスリー賃貸の光熱費が会社持ちなのをいいことに毎日浴槽にたっぷり湯をはって冷え切った体を暖めて寝る毎日である。この期間オンラインで買ったレコードは関東の家に積まれていくばかりだ。

唯一に近い良いことといったら、本来の住まいと違って歩いて簡単に飲みに行けることくらいである。それなりに歴史のある鶴岡の街にはよきバーや居酒屋が点在している。

『YUKIGUNI – Cafe & the Bar』はスタンダードカクテルとして知られる「雪国」の考案者であるレジェンド井山氏のもとで働いたマスターが、その後を継ぐような形で去年オープンしたバーである。

井山氏が90歳を超えてもカウンターに立っていた酒田のバー『ケルン』は、現在移転のため一時休業中であるという。『ケルン』行ってみたかったなー残念だなーと思っていたところに、『YUKIGUNI』の存在を知ったのは11月下旬の土曜日のことだった。

路地に煌々と灯る看板。おそるおそる扉を開けると、7席ほどのカウンター。

映画『YUKIGUNI』のポスターもドンと存在感を放っていた。1杯目はウイスキーとした。ストレートでとバックバーを見渡しながらオーダーすると出してきてもらったのは、近隣の遊佐蒸留所によるシングルモルトのサードエディション品であった。

両隣のカラオケスナックから漏れ聞こえてくる気持ちよさそうな歌声を聴きながら頂く。軽やかできれいな味であったような気がする。ボトル1万5000円くらいだと聞き、現在のジャパニーズウイスキーバブルに思いを馳せた。(価格は量が作れないから仕方がないと思うが、これがバンバン売れていくのがすごい。)

2杯目に満を辞して、「雪国 井山計一オリジナルレシピ」をオーダーする。

オリジナルレシピの他、スタンダードレシピもメニューに存在するのだけれど、オリジナルの方は販売終了となったサントリーウォッカ「100プルーフ」の在庫が続く限りの提供とのこと。歴史である。

シロップ的なクラシック ライムジュースがぼんやりと甘く優しい。こういうぼんやりとした暖かな味わいのカクテルに「雪国」という名前がついているのはやはり美しいことだと思った。
最近ではライムジュースもフレッシュのものを用いてキリっとした味わいに仕立てる向きもあるようだが、フレッシュのライムジュースは濁りが出てしまうため、このクリアグリーンを保つことはできないのだという。

マスターや居合わせた他のお客さんと少し話したりしながらもう一杯飲んで店を出た。冷たい雨が降っていた。

もう一軒、よりオーセンティックなバーで飲んだバーボンBOOKER'Sがバーボンのよさを凝縮したような味わいで素晴らしかった。カスクストレングス 60度超えのアルコールが口の中で即座に気化、駆け巡るように対流していく。「これは、欲しい。」と思い、アマゾンのページを開いてみるとすでに終売していて、ボトル2万円ほどのちょっとしたプレミアがついていた。
「果たして、これはいくら取られるのだろう。」とおずおずと尋ねてみると独自の安定的な入手ルートがあること、そもそもバーボン自体が滅多にオーダーされないため、このボトル一本でしばらくやりくりできること、を教えてもらった。スコッチおよび、ジャパニーズウイスキーバブルさまさまである。

果たして合計3杯のお会計はなんと¥3,600であった。破格!!


そして鶴岡の冬と言えば鱈。とにかくタラなのだ。調理法として代表選手は寒鱈汁という身、アラ、肝、そして白子まで丸々煮た味噌汁的な料理なのだが、これが野趣あふれていて、至極魅惑的である。

食べているとこれはなんだかとてもプリミティブな料理なのではないかという気がしてくる。世界中の漁港で、同じように丸の白身魚を大鍋で煮て、地場の塩味調味料を加えて、漁師たちが食べているに違いない。

日本海の鱈の味は、身も、肝も、白子も、たらこも実にキレイである。スーパーで適当に買ってきた切り身に粉を少し振ってこんがり焼くのもいい。


そんな鶴岡であるが、数多のカバーが存在する「雪の降る町を」発想の地であるという。「雪の降る町を」といえば、もちろんWorld Standard、アルバム『SILENCIO』である。12月にリリースされたLP盤ではオリジナル盤から曲順が変更され、「雪の降る町を」はB面のラストトラックに堂々と鎮座している。今手元にないので詳細は分かりませんが、ライナーでは鈴木惣一朗から『SILENCIO』における重要性が言及されていたはずである。

駅を出て目の前の石碑に気づいたのはつい最近のことである。


年始には三浦哲哉『自炊者になるための26週』を読んだ。

対象に専門性を有していないところが基本的によい方に出ていておもしろかった。
最初にとる出汁が昆布と煮干しなのが実質的。一番楽に汎用性の高い出汁がひけるので私のファーストチョイスも同じである。
一方で「買い物」についての章は一つの理想として興味深かったがひどく非現実的。食材ごとの魅力的な個人店に、デイリーで脚を運べる地域に住んでいる人間が、現代の日本に何人いるだろうか。


本文中や巻末のブックガイドにリファレンスとして挙げられている作品も非常に広くフラットな視点で選出されているのが伝わるラインアップであった。中でも稲田俊輔『ミニマル料理』、酒徒『あたらしい家中華』といったニュースタンダードになり得る最新作がこのタイム感で選出されているのが良いではないか。"料理研究家" 的な肩書を背負った著者ではこうはいかないのではないかな。
わたしであればここに、玉村豊男『料理の四面体』、吉田裕子『京都 吉田屋料理店』あたりを追加しておきたい。


さらにさかのぼって12月。yumboとくるりそれぞれのワンマンライブがそれぞれに素晴らしかった。

『鬼火』のLPレコードのリリースを記念したワンマンではあったが、この日は不思議と『鬼火』に収録されていなかったり、『鬼火』以降の曲に心を掴まれることが多かった。「幻のできごと」「統一」「夜への歩み」「温かい都」と続いた前半の終盤ブロックの素晴らしさ。中でも「温かい都」の演奏には今のyumboのタイム感の魅力が存分に出ていたように思う。この曲が軸になるようなアルバムを作ってほしいなと勝手ながら楽しみにしています。

休憩を挟んで「歌の終わり」「わたしの3分前」「cake」、そして「センチメンタル・ジャーニー」、と書き出してみると本当に好きな曲だらけのここら辺のブロックまでが、『鬼火』に収録されていなかったり、『鬼火』以降の曲、に該当するでしょうか。

「cake」はまさか聴けると思っていなかったから本当にびっくりした。この辺りでアンサンブルが本格的にほぐれてきたような感覚もあり、より没入して演奏を楽しめた。

そして、「センチメンタル・ジャーニー」である。こんなにもいい曲だっただろうか。山路さんのドラムの素晴らしさ。そして先に挙げた『鬼火』以降の曲の多くに共通するところだが、弦楽器がアンサンブルを支える温かい曲が多いのが今の私の気分にぴったりなのである。例えばBrian Bladeの『Mama Rosa』的といいますか。


くるりの『感覚は道標』ツアー東京公演については、思わず年間ベスト中にかなり書いてしまったので、基本的にそちらでどうぞ。

わたしは生涯で一番ライブを観ているのがくるりのような気がするのですが、この日の全曲がこれまで観た中で一番よかったと、誇張なく思っているのです。生きているとこんな風に不意に驚くことがあるものですね。

最近の小話。

角銅真実の新作『Contact』が素晴らしい。行くところまで行ってしまっている。2年前のFRUEで聴いて一番気に入った「人攫いの曲」の音源に当時どれだけ探してもたどり着けず、ずっともどかしい思いをしていたのですが、それもそのはず、アルバム『Contact』のラストトラックにそのままの曲名「人攫い」として堂々と収録されているではないか!!新曲だったのかい!!
アルバムver.の跳ねるような不思議なアレンジもこれはこれでいいものですが、個人的にはFRUEの時の起伏の小さい流れるような演奏の方が好みです。

無印のカカオトリュフシリーズがとてつもなく美味しい。オレンジピール、塩キャラメルをウイスキーのつまみとするのを基本としてますが、最近両フレーバーを見かけることが減ってきているような気がする。

そして、aikoと中村一義を繰り返し聴いている。

どうぞお気軽にコメント等くださいね。