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2022年8月の(音楽とかの)こと

お盆休みを目前にして新型コロナウイルスに感染。13連休。発熱して明らかに体調が悪かったのは一日くらいだったので、結果家の中にいてやりたかったことを、ここぞとばかりに遂行し続ける異常に充実した連休になった。(大掃除に近いものまでできてしまった!!)
体感あと2倍、つまり一ヶ月くらいはそのまま籠りきりでも、何の迷いもなく楽しく過ごせたような気がするなー。

中でも、最も時間を費やしたのは、yumboの映像作品『いくつもの宴 multiple banquets 1998─2021』についてで間違いないでしょう。昨年末リリースされてすぐに購入したものの、自宅にDVDをまともに再生できる環境がなく半年以上積んでしまっていたのですが(総再生時間6時間弱と知ってひるんでしまったのもある)、療養生活の序盤に急遽3,000円くらいの格安プレイヤーを購入して観始めたのでした。

この作品に向き合うことができただけで、充実した連休であったと心から言えると思っています。
6時間弱の収録時間を通常音声とメンバーコメンタリーの副音声1周ずつで2周、さらに以下の「詳細・補足編」を書くために曲単位で主音声 ⇔ 副音声を忙しく切り替えながらもう2周、その他少なくとも通常音声であと1周はしているので、非常に少なめに見積もって計5周30時間あまりを費やして、観続けるほどに感動は奥行きを増していき、その稀有な体験自体にまた新しく感動するというサイクルそのままに書き上げた2篇の文章。限りなく思い通りに書くことができて、自分自身ですごく気に入っています。

手前味噌も甚だしく、こんなことを思うのは初めてで少し驚いてもいますが、とにかくこの記事だけは永くWeb上に残り続けてほしいのです。
これから先の永い年月に、ポツポツと、しかし着実に現れ続けるであろうyumboの素晴らしい音楽と向き合うことになっていく人々の傍らに、この文章があることを願ってやみません。


澁谷さんからもこれ以上ないほどポジティブなリアクションを頂けて安心したと同時にとてもうれしかった。早く仙台の喫茶ホルンを訪ねて直接感謝の気持ちを伝えたいものです。さっそく今月どこかで帰省がてら立ち寄ろうかしら。8月に帰れなかったし。

記事を公開した翌日、映像作品のコメンタリーでその存在を知り欲しくてたまらなかった『yumbon』がデジタル版で再販!!しかもその第一報が澁谷さんから頂いたコメントになるとは。

2018年に結成20周年を記念して作成された60ページにも及ぶミニコミその名も『yumbon』。リレーQ&Aや個人企画で各メンバーの人柄が知れるのも大変に楽しいが (芦田さんQ → 高柳さんAとか最高!知りたかったことがたくさん書いてある)、個人的な極めつきは、yumboとしてステージに上がった全公演が記録されている「yumbo年表」、澁谷さんの解説が一曲ごとに詳細についた「yumbo(ほぼ)全楽曲リスト」、そしてこちらも澁谷さんの解説付きの「yumbo discography」の貴重資料3本立てでしょうかね。やはり。あらゆる活動の足跡を最初期から今に至るまでここまで詳細に記録し、しかも惜しげもなく公開してくれるアーティストが澁谷浩次の他に存在するだろうか!?これらと先の映像作品『いくつもの宴 multiple banquets 1998─2021』、そしてBandcampにアップされている大量の音源 (としばしば付属するPDF解説) を駆使していけば、かなり質の高いyumbo研究を続けられる気がしています。

そういえば、「yumbo年表」を順番に眺めていたら2006年10月に仙台でTsuki No Waと共演している事実が記されていて震えました。yumboとTsuki No Waの対バン、今現在世界で少なくとも5指には入るモチベーションで臨める自信があるな。

前述のBandcampにアップされている大量の音源といえば、yumboは4枚のオリジナルアルバムの曲順通りに、ライブ音源を選りすぐったアルバム単位のライブアンソロジーシリーズがあったり、他にも2018年のグッゲンハイム邸公演がほとんど丸々公開されていたりと、非常に充実しているのです。

ここら辺は以前から愛聴していたのだけれど、DVDで各年代の演奏のようすをつぶさに把握した後で改めて聴いてみると、一曲聴いたときの情報量・解像度が桁違いで、新鮮に感動しています。ここのところyumboのライブ音源を聴くのがもう楽しくて仕方ありません。
上記で今特に好きなのは例えば、2nd『明滅と反響』のライブアンソロジー『Demonstrated Flickers Echo』に収録されている「鉄棒」という曲の2018年渋谷7th FLOORでの演奏。ゲストの遠藤里美さん、てんこまつりさんの管がたまらない永久保存版のテイクとなっています。オリジナルは大野さんボーカルですが、このテイクの高柳さんボーカルがこれまた素晴らしいし、ベース、ドラムス、アコギ (順に澁谷さん、山路さん、皆木さんか?) 辺りの土台を固める演奏も小気味良くバランスが抜群でとても気持ちいい。「鉄棒」は同じく2018年のグッゲンハイム邸での音源にも入ってますが、断然7th FLOORでの演奏が好みですね。
一方『明滅と反響』の曲で言うと、「スズメバチ」もグッゲンハイム邸での音源に入っていますが、こちらはこの日の演奏がすごく気に入っています。当時は大野さんがキーボードで弾いていたフレーズ (DVDでも確認できる)を、そのまま管で置き換えるアレンジが聴きどころ。

この「置き換え」というパースペクティブもyumboを聴いていく上で一つの拠り所になりそうに思っていて、これからより意識していきたいのだ。大野さん、高柳さんに加えて澁谷さんと歴代で総勢3人存在した(している)ボーカリストの誰がリードを取るか、つまり声を置き換えることで曲の表情がまるで変わってくる様子もyumboの音源をライブ音源を聴いているとよく実感するし、そういえば、みなさんはつい最近Bandcampでデジタル配信されたpocopen (SAKANA)と澁谷浩次による共演シングル『鬼火/たのもしい王子』は聴きましたか!?

今年初めにWWWで行われた公演でお互いの曲を一曲ずつフィーチャーしてセッションした (最高だった!) 2曲のまさかのスタジオ録音盤。

澁谷さん(yumbo)側からは代表曲の「鬼火」がフィーチャーされているのだけれど、普段聴き慣れたイントロのホルンのフレーズが、不意にピアノで鳴らされてハッとしてしまった。あまりに美しい置き換え。
(作曲時とか澁谷さんソロでは当たり前にピアノだから、そもそもピアノ→ホルンの置き換えというべきな気もするし、もっと性格の異なる楽器同士の置き換えに着目したほうがいいのかもしれないが)

アウトロの同じフレーズは聴き慣れた夏海さんのホルンで締めるのも、波多野敦子さんによるストリングスアレンジも、そして何よりpocopenさんの力強い歌唱も完璧な音源。必聴です。

あと波多野敦子さんと言えば、先のライブアンソロジーシリーズ『yumbo plays onibi』に入っている2013年 神保町視聴室での「人々の傘」の演奏も必聴ですね。DVD中「人々の傘」の演奏は火星の庭の一回だけでちょっと不完全燃焼だったんですが、こっちにとんでもない演奏が入っていることを忘れていました。yumbo全ライブ音源でトップクラスに好きです。盛り上がりのピークとなる最終盤に急に入ってくるたぶんテニスコーツ植野さんのアルトサックスだと思うんだけれど、その切れ味抜群の音色に毎回泣きそうになります。


『yumbon』、『鬼火/たのもしい王子』と記事を公開してから続く、yumbo関連のうれしいお知らせは止まることを知らず、何やらすごいフェスティバルの開催までアナウンスされていた。

夢のようなイベント!!楽しみ!! (このラインナップのイベントが水戸で開催されるとどういう雰囲気になるのか含め。)



yumboの映像作品に次いで、自宅にいながら大変に熱狂したものといえば『ドキュメント72時間』の歴代ベスト10スペシャルである。NHK総合でレギュラー放送が開始されて10年、これまで放送した320以上の回から、視聴者投票で選ばれた歴代ベスト10を一挙に放送しながら、合間に関係する取材、スタジオ企画を挟んでいくという番組構成。これが本当に素晴らしく、文字通り熱狂してしまった。

視聴者投票のトップ10はおおむね納得。(鴨川デルタが11位で惜しくも圏外、ストリートピアノ系が一つもランクインしないという少しの波乱はあったが。)
特に一位の「秋田・真冬の自販機の前で」、二位の「大病院の小さなコンビニ」は結果を見る前からもう分かりきっていた。両回改めて見返してみても気持ちのいいほどに圧倒的だ。

この二作中でそれぞれ発される言葉に『ドキュメント72時間』という番組のテーゼを託してみてもいいのではないか。

ひとりなんだけど、ひとりじゃないような気がする

ドキュメント72時間「秋田・真冬の自販機の前で」

(なぜ医師になったのかと問われて)
難しい…忙しくて、考えなくなった…難しいですね…

ドキュメント72時間「大病院の小さなコンビニ」

「難しいですね…」の後の言葉がついには出てこなかった研修医。彼が何も語らなかったわけでなく、むしろそのシークエンス中の彼が多弁すぎるほどであったことを、画面を見ていた私たちは知っている。


ときにランキングが公開される前に、私もマイベスト10を選んでいましたので、ここに公開します。

  1. 北の大地の学生寮 (2015)

  2. 工場閉鎖の街で (2013)

  3. 日本ダービー大行列 (2018)

  4. 福岡・中洲 真夜中の保育園 (2016)

  5. 新宿・音楽スタジオ ぼくらがバンドを組む理由 (2019)

  6. 命を運ぶ 大病院の引っ越し (2018)

  7. “広島太郎”を探して (2013)

  8. 赤羽・おでん屋エレジー (2015)

  9. 基地の町 大人のロックフェス (2017)

  10. 長崎・五島列島 さよならフェリー (2019)

うどん自販機等の定番どころをあえて外したつもりで組んでみたら、私が上位に選んだ「北の大地の学生寮」、「日本ダービー大行列」は8位と5位でしっかりランクインしていた。

マイ歴代ベストの「北の大地の学生寮」、大学時代に私が実際に体験したよい思い出も、そうでないものも全部つられて蘇ってしまうような映像の力が圧倒的なのです。ときに大学を留年する人というのは何か共通した雰囲気を持ち合わせているような気がしていて、今回放送見返した時に、まだその雰囲気を察知する嗅覚が錆び付いていないようでちょっと安心しました。

ときに2位に選んだ「工場閉鎖の街で」という回は知名度が恐ろしく低いと思いますので、ぜひ紹介しておきたいところです。

岐阜県の大手メーカーの工場が33年の歴史を閉じた。最盛期には4000人の従業員を抱え、ゲーム機などの商品を送り出してきたが、グローバル化の中で役割を終えた。かつての熱気を惜しむ熟練技術者、明日からの仕事を探す派遣社員。大工場の終了は地域の雰囲気も一変させる。最後の日々、人々は何を思い、どんな一歩を踏み出すのか。

https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2015065014SA000/

人々がオフビートに悲哀を表出するようすが胸に迫る特別な回なのです。
としまえんや名古屋の老舗デパートなど、ドキュメント72時間で度々放送されるもっと娯楽性の高いスポットの「最期」とは一味違う。それらと比較した時もっともっと職場というニュアンスが色濃く、しかも会社自体がなくなるわけではなく自分たちの町の工場だけがなくなるという複雑な状況が作用して、工場に最後まで勤めた当事者たちもエモーショナルな感情を明らかに表出しあぐねている。そんな慎重にオブラートに包まれた悲哀を、カメラは一つ一つ用心深く積み上げていく。



ここからはサラッと。療養中はNetflixで『私の解放日誌』も見進めた。ナチュラルな明暗を生かした撮影が素晴らしく、脚本もいい。あと数話残っているのですが、楽しみです。

ナチュラルな明暗を生かした撮影と言えば、その最高峰である『ベター・コール・ソウル』は、体調が万全の万全になってから満を辞してラストの数話を見届けて無事に完結。最終章であるシーズン6に突入してから、とっくに上限を振り切れているはずのクリエイティビティがまさかのもう2段階ほど上がっていたからには、1エピソードごとゆっくりと反芻して名残惜しむ時間を設けて楽しみました。もうこんなテレビシーズには出会えないんじゃないか。改めてヴィンス・ギリガン他全スタッフ、ボブ・オデンカーク、レイ・シーホーン他全キャストに最大限の敬意を。

ときにジミーとキムのラストのショットを踏まえて、あなたはその二人の初めての2ショットの美しさを覚えていますか。


『ゲーム・オブ・スローンズ』の前日譚『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』もゆっくりと観始めている。

エピソード1にしてキングズランディング、ドラゴンライド、レッドキープ、鉄の玉座、馬上槍試合、小評議会、娼館と全てが最高クオリティの様式美が展開されていて、その世界に一気に引き戻される感覚に大変興奮したと同時に、受け取る情報量のあまりの膨大さに1エピソード見終える頃にはへとへとになってしまった。なんなら数回休憩も挟みました。明らかにウォーミングアップが済んでいないので、これからも無理せずゆっくり観ていこうと思う。


ところで10年代のテレビシリーズのマスターピースとして、充実のスピンオフシリーズまで展開された『ブレイキング・バッド』、『ゲーム・オブ・スローンズ』と比べて、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』はあまりに過小評価され過ぎではないかというのはこれからも声高に主張していきたいところです。

スピンオフやるとしたら、フリーダ、ジョン・ベネット、リンダ・ファーガソン、あたりでどうでしょう??やっぱりちょっとインパクトに欠けるか…


ROTH BART BARONの日比谷野音公演はオンラインで視聴した。「BEAR NIGHT 3」を冠した通り、一世一代の集大成的なステージというよりは、ただただ大きな自主企画という雰囲気でそれはそれでよかったな。アンコールの「小さな巨人」、野音で実際に聴いたらさぞかし気持ち良かったろう。11月にリリースされるアルバム『HOWL』は、5月の全曲新曲ライブを体験した限り、絶対に好きなアルバムになるという確信に近い予感がある。『けものたちの名前』以来とでもいうべきか、自分の中でそんな位置づけになるんじゃないかな。


そこまで量は多くないけれど、色々と聴き進めているもの。来月はここら辺の中からしっかり書きたいなー。


どうぞお気軽にコメント等くださいね。