見出し画像

人手不足時代は終わり「人手不在時代」が始まる 

地方の中小企業の社長や人事担当者との話でほぼ必ず上がる話題が「人手不足で大変」というものだ。最近はハローワークはもちろん、マイナビやリクナビのような求人ナビに掲載しても応募が来ないという話をよく聞く。

地方の企業にとって求職者数よりも求人数のほうが多い時代は無く、募集をかければ人が集まるという時代が続いていたため、人手不足時代に対応しようと思っても打ち手が分からない、見当もつかないという企業は多い。(その結果、社長の思いつきでInstagramやTikTokを始める企業がでてくるがすぐに更新されなくなる)

人手不足社会、すなわち労働市場において求人過多になる原因とこれからの展望について7項目でまとめて見た。

①    付加価値額が微増するのに激減する生産年齢人口

まずは人手不足状況が起こる全体の構造の話から。ほとんどの地域において域内GDPは地元民向けの産業が半分以上を占めており、人口の増減が直接域内GDPに影響を与える。人口が増えればGDPも増加しやすいし、人口が減ればGDPも減少しやすい。地方は人口減少が進んでいるが、GDPは増加している地域は実は多い。人口ピラミッドが三角形の時代は定年退職は少ないが就職する若者は多いため“仕事が無い“状況になるが、逆三角形になると定年退職は多いけど新卒就職は少なく”働き手がいない“という状況になる。

②    上がり続ける有効求人倍率

以下は宮崎県の求人と求職者のバランスをグラフにしたものだ。

厚生労働省「職業安定業務統計」から引用

たった9年間で有効求人倍率は0.64倍から1.21倍と約2倍に急上昇している。このグラフを見ると2012年はまだ求人数と求職数は全体的にはバランスしていたが、2021年はもう求人数が求職者数を圧倒してしまっている。特に生産工程(工場のライン工等)はこの9年で求人と求職のバランスが崩れ、求人数を満たすことができなくなっている。①で説明したように人口ピラミッドが逆三角形になると人手不足になりやすい。

③    出生数の急減

2022年の出生数が80万人を割ったが、2023年の上半期速報値も37万1,052人と前年同期化3.7%となっており、減少には歯止めがかからない。更に注目したいのは婚姻件数も前年同期比で7.8%となっており、来年以降も出生数の減少トレンドは変わらないことがほぼ確定している。宮崎県でも10代は直近10年で10%減、0-9歳は15%減となっておりこのトレンドは数十年は続くだろう。

厚生労働省 人口動態統計速報より引用

④    国は生産性の低い会社は救済しない方針へ

ここ数年、最低賃金は毎年3%以上も上がっており、岸田首相は2030年中盤には1500円を目指すと掲げている。つまり今後も最低賃金は同じトレンドで上げ続けるよ、ということである。失われた30年で日本の経済成長は世界で一人負けという状況になり、おとなり韓国にも抜かれた。ちなみに1990年の韓国の最低賃金は70円⁉︎くらいだったので、10倍もの差を30年で抜かれたことになる。政府の有識者会議でも非成長産業から成長産業に人材を移管させることが国全体の経済成長につながるという方針が示され、有効求人倍率が1を大きく超え続ける限り「生産性の低い中小企業は廃業やむなし」というスタンスは継続されるだろう。


⑤  働けるけど働いてない人はいなくなった

生産年齢人口は減少していたが、就業者人口は増加トレンドしていた。これは従来は働いてなかった人たちが働き出したということだ。具体的に言うと女性と高齢者が労働市場に参入してきていた。しかし、今後は女性もシニアがこれ以上増えることは期待できない。女性の年齢別就業率を見れば一目瞭然だが、昔はM字カーブと言われていたが最近はL字カーブと言われ、働ける人はだいたい働いてしまっている。シニアに関しては今後増えないというより、むしろ減少するだろう。それは日本のメインボリュームである団塊の世代が軒並み75歳を超え定年後の再雇用も難しくなってきている。数年後は団塊ジュニア世代が待ち構えていることがせめてもの救いだが、団塊の世代ほどの人口はいないため雇用数は限られている。ちなみに宮崎県では生産年齢人口の減少はもちろん働く人も減少トレンドに入っており2015年から2020年にかけて0.9%減少している。


宮崎県 就業状態等基本集計結果の概要より引用

⑥    外国人労働者も厳しい状況に

政府の方針では技能実習制度は廃止の方向だ。国際社会からも批判を浴びており今の制度をそのまま継続することは難しいだろう。特定技能に移行すると原則日本人と同じ条件での雇用となるため、「途上国への技術移転や教育」を隠れ蓑に最低賃金以下で雇うことはできなくなる。さらに制度改定以前にそもそも日本が選ばれなくなくなっている。先日東南アジアの外国人労働者のエージェントと話すことがあったが、日本を希望する外国人は減っていると言っていた。そもそも日本語という日本でしか使えない難解な言語もハードルになるし、日本での勤務の様子がSNSなどで広がり、いい印象を持たれていないということである。地方の農家での就業実態がニュースとなったのも記憶に新しいし、実際日本を希望するフィリピンの看護師が17人とこれまで100人以上いたのが激減している。制度的にもマーケット的にも外国人に頼ることはできなくなるだろう。

⑦    採用手法の多様化

新卒採用も中途採用も以前はマイナビやリクナビなどの求人ナビに出稿すれば応募が来る時代が長かった。しかし現在は新卒中途問わず就活ツールが多様化している。新卒は求人ナビ以外にインターンシップ、ONE CAREER、OfferBox、キャリタス就活、オープンワーク、キミスカなどのサービスが出現し、なんと新卒特化のエージェントもある。中途もエージェントやスカウティングサービスなど多様化している。これらのサービスを使うためには採用担当が工数を割く必要がある。ただでさえ採用担当が兼務のケースが多い中小企業にとってはかなりつらい。もうお金では解決できない状況となっており、他社と同じことをやっていては採用できなくなっている。


人手不足の時代は終わり、人手不在の時代へ

ということで、「人手不足」という時代はそろそろ終わり、いよいよ「人手不在」の時代が到来する。「最近応募が少なくて困ってるんだよねー」などと言っていた時代が懐かしく感じるときがくるだろう。さらに大手企業も公務員も採用数を減らさないため、中小企業、とりわけ地方の中小企業はかなり厳しい状況となるだろう。それでも採用したいなら待遇やキャリアプランなど若者に選ばれるための不断の努力が必要だし、割り切って採用できない前提で回るシステムを作ることもアリだ。少なくとも「最近の若者はマナーがなってない」とか「電話に出ない」とか飲み屋で愚痴っても若者が「そうですね、マナーを改めて電話にでます!」と変わることは無いので、採用をやるのか諦めるのか、ビジネスモデル自体から見直していく必要があるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?