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日本の給料が上がらないのではなく、都会の給料が上がらないんだよ、という話

 日本だけが給料が上がらない!?

 最近、日本は物価も給与も安くなったとよく聞くようになった。正確に言うと他国と比較して相対的に安くなっている。シリコンバレーではもはや年収1,000万円は低所得層である、とか、お隣韓国に平均給与で抜かれたというニュースも記憶に新しい。ちなみに額面は超微増だが社会保険料や消費税が上がっているので、可処分所得は減少傾向にある。

主要国の平均賃金(年収)の推移(OECD調べ)
※画像は朝日新聞デジタルより

ただ、日本といえども広い。都道府県ごとで産業構造も違うので日本を一括りで考えると正確な現状が浮き出てこない。社会は~~とか、教育は~~など、主語が大きくなればなるほど、論点がバラけて消化不良の議論になることはテレビの討論番組を見てても感じる方も多いだろう。
 事実、日本の給与は全国一律均等に給与が上がらないわけではなく、上がっている地域もあれば、上がってない地域もあるのだ。そこで47都道府県それぞれの状況を可視化し、給与が上がる条件は何なのかをちょっと俯瞰して仮説立てて見ようと思う。

下の図は縦に「一人当たり所得の変化率(2011年→2020年)」、横軸に「人口増加率(2011→2020年)」を置いている。全体の相関係数は0.49とそこそこ強い相関関係がある、と言える。

内閣府経済社会総合研究所のデータから筆者作成

給料が上がらないのは都市部の話

これを見ると人口増加率が高い都道府県ほど所得が上がりにくく、人口増加率は低い(=人口減少が激しい)都道府県ほど所得が上がる傾向が見える。地価も上がり、日本経済を牽引していると思われがちな東京都は47都道府県中40位だし、かつて経済の中心だった大阪も45位という散々な結果である。一人当たり所得の増加率(2011年→2020年)が10%未満なのは神奈川県、三重県、大阪府、福井県、福岡県、千葉県、滋賀県、大分県、東京都、埼玉県となっており、関東の1都3県すべてがランクし、さらに大阪府や福岡県など人口が多く各ブロックの中心都市が入っている。そしてこれらの都道府県には日本の人口の約45%の人口が居住している。

このグラフを見て分かることは、日本全体が等しく給料が上がっていないのではなく、首都圏を中心とした大都市圏が給料が上がっていないということだ。大都市に住む多くの人の給料が上がっていないので、日本全体が上がっていないと思いこんでしまいがちだが、実際は地方はそれなりに所得は上がっている。イメージでは人口が減り過疎になると経済が回らなくなり給与も減るし、逆に人口が増えているエリアであればそれだけ経済が活性化し給与も上がるような気がする。なぜそれとはまったく逆のことが起こっているのか。
原因と思われる要因はいくつもありそれらが複合的に絡み合ってこれらの結果につながっているので、断言はできないがそれと思しきものをいくつか列挙してみたい。

都市部よりも地方のほうが給料が上がっている原因

仮説① 若い人が進学や就職で地方都市から大都市に転出していくので、給料を上げなければ人材を確保できなくなっている。逆に大都市圏には若い人材が流入し、また人口が大きいので採用が容易であり、経営陣に給与を上げるインセンティブが発生しない。
仮説② 地方は最低賃金ギリギリの給与しか出していない事業者が多く、最低賃金のアップに合わせて上昇せざるをえない状況に追い込まれている
仮説③ 地方は働いている人がすでに多いため、働いてなかった人に働いてもらうことで労働力を確保する余地が少ない。よって給与をあげることで労働力を確保しようとしている。
上記のような要因がパッとは思いつくが、他にも仮説は上げられるはずだ。もしほかにも要因の仮説を思いつく方はぜひSNSでコメントしていただきたい。

福井県、三重県に共通する産業構造

 福井県と三重県は人口減少と所得が伸びないのダブルパンチを食らっている。両県は度々裕福な自治体と紹介されており、実際「全国消費実態調査」では三重県の世帯の可処分所得は全国2位、福井県は5位となっている。家賃などの固定費が安く共働き世帯が多いため世帯の可処分所得は全国的に見ても高くなっているがなぜ給与が上がらないのだろうか。
仮説① 産業構造的には製造業の下請け、孫請けの構造になっており、売価が上がらず、売上総利益(=粗利)が上がらず給与に転嫁することができていない。
仮説② 高校生の地元就職率が高く、安定して採用ができているため給与を上げるインセンティブが経営陣に発生していない。
こんなところだろか。こちらも複数の要素が絡み合い、上記の結果となっているため、一つの理由を特定することはできないだろう。他にも仮説は多数存在する。

愛知県、沖縄県に共通する産業構造

 愛知県と沖縄県は人口は増えているにも関わらず、所得が10%以上伸びている都道府県である。両者に共通しているのは圧倒的な外需産業がある、ということだろう。
愛知県はもちろん自動車産業である。自動車は国内だけではなく多くが海外に輸出されており、巨大な外需獲得産業となっている。トヨタ以外にも外需産業の本社が多数立地しており、利益も安定しているため、給与に反映させることができるている。下請け、孫請け構造となっている福井県や三重県とは違い、外需産業の親企業が立地していることがポイントだ。ちなみに東京も多くの本社の所在地となっているが、その多くは日本国内をマーケットとしたドメスティック企業であり、外需の割合は大きくない。
 沖縄県はインバウンドという急成長の外需産業がある。2011年~2020年はまさにインバウンドが伸びていた時期で、宿泊業以外にも多くの事業者に観光消費が波及していった。また沖縄県の産業構造で無視できないのは「公務」「土木建築」である。いわゆる国からの補助金や公共事業を指し、こちらもインバウンド同様、いやそれ以上に沖縄経済の大事な外需獲得産業となっている。

総括

これらを見てきて分かることは以下の4点だ。
① 全体の傾向としては人口減少している地域ほど給料が上がっており、人口が増えてる地域ほど給与が上がっていない。
② 多くの人が住んでいる都市部ほど給料が上がっていないため日本は給料が上がっていない、と思い込みがちだが実際は都道府県によって大きな差がある。
③ 外需産業があっても下請け、孫請け構造になると売上を伸ばしにくく、粗利が取れない。よって給料に反映することができず給料が上がらない。
④ ③とは反対に外需産業の本社機能をもっている地域は人口増加と給料増加の両方を達成することができている。

上記を踏まえたうえで、日本全体の給料を上げるためには外需産業の本社機能を持つこと。そういう事業体を地域から育てて行くこと、育っていく環境づくりが大事である。しかし自動車産業が強い愛知県は今後も安心かと問われれば答えは微妙である。ガソリン車からEV化は世界全体の潮流で、そうなると日本の強みである自動車産業のサプライチェーンは崩壊する。産業構造の変化に対応できなければ、夕張などの炭鉱町やデトロイトのような結果に至る。また沖縄県の公共事業は基地依存の両面性をはらんでおり、危惧される台湾有事が現実になった場合は完全にストップするだろう。幸運に有事に至らなくても緊張感が高まるに連れて沖縄県の観光需要は急減していくだろう。よって常に世界に売っていける産業を作り続けないといけないし、過去の日本はそれができていた。←マクロ視点(国家や都道府県目線)

給料を上げたいのであれば、人が集まる都会よりも地方のほうが可能性がある。需要は微減するけど、労働力が急減する地方は一人当たりの付加価値額が上がるし、それだけ所得にも反映される。←ミクロ視点(個人の目線)

最後に

地方創生とか地域活性化とか声高に叫ぶ都会の企業も多いが、地方を創生してる暇があれば外国に売っていける商品・サービスを開発し外需産業を担ってほしい。それが地方ならず日本創生に直結する。間違っても地方創生を叫びながら地方自治体の予算に群がるようなマネだけは控えてほしいところである。なんとなく描いていたイメージとは真逆の結果かもしれないが、データは嘘をつかないので、ぜひキャリアとか人生選択の参考にいただけると夜な夜なデータ分析に明け暮れる私が報われる。

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