カメムシのカメ子 第38話 侵略者~  一つ目ベータ。。。2/8

元々一つ目は丸男達が通う中学校の裏側にある公園で発見された。
そこは公園と言っても滑り台やブランコ等の遊具は無く整備されたグランドがあるだけで休日になると少年野球のチームやサッカーチームが交代で借り試合や練習をする場所だった。
平日は近所の小中学生のいくつかのグループがそこにやって来て思い思いにキャッチボールやドリブルの練習をしたり、時にはグループ同士の話し合いがつくと簡単な試合をしたりしていた。なのでここには母親に連れられて来る様な小さな子供の出入りはほとんど無く、やって来る子供達の年齢層は割と高かった。
そしてそのグランドの奥は背の小さい小学生ならすっぽりと隠れてしまう程の高さの草が茂る林になっており、この林の中にボールが入ると探すのに手間がかかるというのがここで遊ぶ子供達の共通認識だった。
なので林の中にボールが入らない様、林に向かって投げたり蹴ったりしない等それぞれがそれぞれのルールを決め十分に注意を払いながら遊ぶのが常でありよほどのことがない限りその林の中に入っていく様なことはなかった。
しかし誰も中に入ろうとしないという事は逆に何かを隠したり、自分達が隠れたりするには都合の良い場所で、カメ子と小学生の士郎はその林の中を秘密の場所と名付け二人で捨て犬コロを飼っていた。
その後コロは丸男の家で飼われる様になったが、草木が生い茂るこの場所はカメムシであるカメ子とカーメルにとってとても癒される場所でコロを家で飼うことになった後も時々は癒しを求めにやって来ていた。
一つ目はその場所に不気味に輝く銀色のカプセルに乗って現れたのだった。
その銀色のカプセルは当初、未確認飛行物体と呼ばれ大きなニュースになり、警察の他、報道関係者も多く集まりグランド付近ではテレビの取材なども行われ一時は大騒ぎになった。
付近の全ての学校ではグランドには近づかない様に子供たちに伝えていたが、テレビの取材が来ていることを面白がる子供達の中にはわざとグランド付近を歩き取材を受けるという事もあった。
モロミも一度でいいからテレビの取材をを受けてみたいとあの手この手で丸男と吾一に一緒に行こうと誘ったが、テレビ取材になんの興味もない二人から良い返事をもらえず諦めていた。
その時カメ子とカーメルからグランドには規制されてない場所があり、そのカプセルがある場所まで簡単に行けるという事を聞いたモロミはテレビの取材よりそのカプセルそのものに興味を持つようになり、皆でカプセルを見に行こうと興味本位でやってきた事が事の始まりだった。


警察が初めに秘密の場所で確認したカプセルは五つだったが、いつの間にか三つのカプセルがなくなり、カメ子達が見に来た時に残っていたのは二つだけだった。
その内の一つから出てきた一つ目と対決することになったカメ子。
そこではコロの死という悲しい出来事を経験する事になってしまったが、その場での対決ではカメ子がなんとか一つ目を倒す事ができた。
カメ子に倒された一つ目の遺体は調査をする為にまだ開いていないカプセルと共に研究所へ運び込まれ調査の対象として扱われる事となった。
その後調査に協力するため研究所にやって来たカメ子は遺体となった一つ目と対面する事になったが、死んだと思われていた一つ目はカメ子の姿を確認すると最後の力を振り絞りカメ子達を襲ってきた。
しかし、カーメルの機転もありここでも無事一つ目を倒す事が出来た。
そしてここで一つ目は完全に息絶えることになった。
この事があり研究所では一緒に運び入れたカプセルの事よりも一つ目の遺体の方の調査を優先した。
しかしそのカプセルにも同じ様に一つ目が乗っており、ここにきて突然姿を現したのだった。


「ジーク様が、ジーク様がこんなお姿になってしまった・・・」
「その人ジークって言うの?」

一つ目の亡骸の前で呆然と立ちすくむもう一人の一つ目。
カメ子がその背中に向かって声を掛けるとその一つ目は飛び上がらんばかりに驚いた。

「お、お前達は・・・」
「あたしはカメ子、カメムシのカメ子」
「そしてあたしはカーメル。あなたは?」
「お、おいらはベータ。ジーク様と一緒にやって来たんだ」
「あなた名前はベータっていうの?  で、その台の上で皮のようになってるのがジークっていうの?」

ベータと名乗った一つ目は頷くことでカーメルに答えを返すと震える声で逆にカーメルに聞いた。

「お、お、おいらの事も、こ、殺すのか?」
「殺すのかって、殺されそうになったのはこっちよ。あたし達は自分を守る為に ”力” を出しただけ、そうしたらそのジークっていうのが突然苦しみだしてそんな姿になったんじゃない。 あなた自分達のした事がわかってないの?」

カメ子はカーメルが一つ目を前にして段々と興奮してきているのがわかった。
それはカメ子自身も再び一つ目を前にした事で気持ちが高ぶるのを感じていたからだった。
しかしそれは不思議と以前味わった死の恐怖とは違うものだった。
ただこの気持ちの高ぶりのまま闇雲に攻撃するよりここに来るまでに決めていた方法で一つ目を追い詰めようと思った。
カメ子とカーメルは最初の一つ目を倒した時と同じ様に今回現れた一つ目を挟み撃ちにして前後から攻めていこうと決めていたのだった。
カメ子が目で合図を送るとカーメルはベータの後方へ回る。
そして自分は一つ目ベータを正面から見据え、その動きを制するように両方の手の平を向けた。
前後で挟まれたベータはこれから二人が何をしようとしてるか察し完全に身動きができなくなった。
すると懇願するように言った。

「やめて、殺さないで、お願いだからおいらを殺さないで」
「あなたが何もしないならあたし達は何もしないわ」
「ほ、本当に?」
「本当よ」
「ちょっと何言ってんのカメ子。このベータっていうのも一つ目の仲間よ。コロを殺して、あたし達も殺そうとしたあの一つ目の仲間なのよ」
「コロって、あの小さな生き物の事? あの事なら謝るよ。ごめんよ。本当にごめんよ。で、でもあの時はおいらも怖くて出ていかれなかったんだ」

そのやり取りを見ていた東岸がカーメルに待ったをかけた。

「ねぇカーメルちゃん。この一つ目やっぱり様子が変だよ。一度話をきいてあげたらどうかな。 我々も聞きたいことが沢山あるし」

カーメルは東岸にまで言われると苦々しい思いを顔に滲ませながらも動きを制するように出していた両手を下げた。
そして尋問するかのようにベータに問いかけた。

「あなたも怖かったってどういう事? あなた達は同じ一つ目同士仲間じゃない。ふざけないでよ」

カメ子とは違い、きついもの言いのカーメルに脅えるベータは少しの間様子を見ていたが、攻撃される事がないと分かるとゆっくりと話し始めた。

「おいらは沢山の仲間とジーク様、そしてドール様と一緒にこの星を侵略する為にやって来たんだ。だけどおいら本当は殺しあいなんてしたくないんだ。でも言う事を聞かなければ逆においらが殺されちまう。 おいらそれがおっかなくて・・・」
「ドール? 誰それ?」
「ドール様はおいら達の統率者だ。ジーク様はその次の位のお方だ。でも力はジーク様の方が上だってみんな言ってる」
「トウソツシャ?」

初めて聞いた言葉に首をかしげるカメ子に東岸は一番偉い人の事だよと統率者の意味を簡単に説明した。
説明したあと東岸はベータの話したことを頭の中で整理すると一度口にしてみた。
口にすると言ってもぼそぼそと呟くのではなく、誰かと会話でもするかのようにはっきりした言葉で言った。
東岸が口にした事を聞いたその場の全員は驚きで唖然とし声を出すものはいなかったた。

「このジークがそのドールっていう一番偉い奴より力が上って事はカメちゃんとカーメルちゃんは一番強いヤツを倒したって事か?」
「そうだよ。だからドール様も簡単には手が出せないみたいなんだ」

ベータの返答でその理解に間違いがない事がわかり東岸は今後の戦略の大きな手応えを感じたが、やはりカメ子とカーメルが倒したジークの話は想定外の驚きだった。

「なんて事だ。確かにカメちゃんとカーメルちゃんがいるから襲ってこないっていうのは考えていたけど、まさか相手の一番強いヤツを倒していたなんて」

その後ベータはカメ子やカーメルだけでなく東岸達からも様々な質問をされる事となったが、序列の高い者と行動を共にしていたとはいえ一兵卒であるベータの知っていることは限られていた。
しかしベータは脅えながらも自分のわかる範囲の事は丁寧に答えていった。



#創作大賞2023

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