死神と病人
君は誰?
俺は死神、お前がもうすぐ死にそうだから近くにきたんだ
なんで僕が死にそうだと?
………。強いていうなら病院の屋上の柵を登ろうとしたからだね…。
確かに。それはそうだね。
俺を見ても怖がらないのかい?
怖くないよ。君より怖いものが目の前にあるから。
もしかして死ぬことかい?
うん。
おかしいヤツだな。俺が来たって事は死が近いってことなんだぜ?
うん。だって近いだけでしょ?僕が本当に怖いと思ってるものは、もっと、何て言うんだろう、死ぬ間際じゃないと分からない恐怖を超えた怖さかな。
死刑囚も執行されるまでは檻の中で普通に過ごすけど、処刑台に登って縄が首に触れた瞬間、涙を流しながら反省するらしいよ。
自分は人を殺したのにかい?
うん。面白いよね。それぐらい死ぬ間際、死ぬ寸前、死ぬギリギリの状況には何か特別な恐怖を感じてしまうんだよ。そして、それが僕にも怖いのさ。だから僕は柵の向こう側へ行くことができなかった。そのせいで変な死神も寄って来るし。
………。
君は何しに来たの?死ぬ僕を見に来たのかい?
そうだな、死にそうな奴がいたもんだから見届けてやろうと思ったんだ。俺は死ぬ奴を見るのが好きだからな。アッと驚く死に方とか見るのが1番好きだ。まさに死神って感じだろ?
文字通りだね。とても面白いよ。
ただ、、、
ただ?
お前を見ていると少しだけ生きててほしいと感じる。
……優しいんだね。それは何故?
俺のため…かな?
何だよそれ。まさか寂しいの?話し相手が欲しいとか?
違うよ。なあ、もう少し話を聞かせてくれないか?何故自殺しようと思った?
それはね…。ここって病院だろ?僕はとある病気なんだ、入院したのは最近だけどね。つい1年前までは学校にも通っていたよ。でも僕はクラスでいじめられた。そこからおかしくなっちゃったんだ。学校にも通えず、心から腐って遂には体まで…。
僕はこんな世界から早くお別れしたいのさ。
そうか。不思議なもんだな。ここは俺が普段いる世界と比べて格段に良い世界だと思う。だって何でもできるぞ?
何でもできるからこそだよ。1人ではその膨大な「自由」という選択肢に立ち向かえないんだ。だからみんなは集団を作りたがるし、群れたがるんだよ。そして、ハズレ者を叩き、集団でいる事の安心感を演出することで、より強固なものになるんだ。
そのハズレ者がお前か。
そういうこと。あーあ、もっと色々やりたかったなぁ。
やればいいじゃないか。自由だぞ?
そうだね。それもいいかも。
何がしたい?
絵を描きたいな、僕は絵を描くのが好きなんだ。
絵には「僕」を無限に詰め込むことができる。
じゃあ病室に戻って絵でも描くか?
何言ってんの。僕は死ぬために屋上にきたんだよ?
……まあ、何かもう死ぬ気分じゃなくなった。
変な話だけど、死神に生きる希望を教えてもらった気がする。
そうか。よかったな。
死ぬ瞬間が見れなくて残念かい?
いや、全く。ただ飛び降りられるだけじゃつまらないからな。
わかったよ。今日はありがとう。たぶん僕は君と話せたから前向きになれた。家族や周りの人ではダメだっただろうね。
もう少し頑張って生きてみるよ。
そうか。俺もお前の未来を期待してやる。
じゃあね。
じゃあな。
ーーーーーーー
1時間後、彼は死んだ。
症状が急激に悪化したのだ。
ーーーーーーー
奴は1時間後に病気が悪化して死ぬ運命だった。
あのまま自殺するのか、希望を抱いた瞬間運命に殺されるのか。
どちらが幸せだったのだろう。
俺は後者の方が辛いと思う。ただ自殺されるだけでは面白くないからな。
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