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素材選びについて気にかけてほしいこと

久しぶりの投稿です。
前回の記事から10ヶ月も経ってしまいました。

また少しずつ書く頻度を上げていきたいと思います。

…とは、言えません。笑
おそらく、次の投稿の始まりも「久しぶりの投稿です。」になると思います。

さて、私、おかげさまで建築家として独立して1年が経ちました。
こんな若造に仕事をくださった方々や仕事を引き受けてくれた方々には本当に感謝しております。
そんな方々の顔を浮かべてみると、皆、謙虚で器が大きく、行動力があり、そして、信念や自分自身の軸を持っている方ばかりのような気がしています。

なので、知らず知らずの内に私は救われていたんだなと思う瞬間が幾つも思い返されます。

そうして1年が過ぎていった中で、現場での打合せや施主様への提案場面などで、必ずと言っていいほどもどかしさを感じる場面があります。

それが、

….素材の選定場面です。

ここで言う素材は、建築に使用される素材のことで、屋根材や壁材、床材、タイルやガラス、家具や樋など、とにかく建築に使用されるもの全てです。

そんな素材を構成するものは何でしょうか?

「色」、「質感」でしょうか。

確かにこの2つでその素材(物質)は構成されていると思います。
ただ、この2つのみの基準で素材を選定してしまうと、
「サンプルを見た時は良かったのに、全然イメージと違う…」となり、失敗する可能性が高いです。

では、他に何を選定基準にしたら良いのか。


それは…


「光」と「時間」です。

少しカッコつけて言った感じなってしまいました。笑

簡単に言うと、

「とにかく使用する実際の場所で確かめてください」ということです。

世の中に良い建築が、素敵な場所が、一つでも増えることを願って、まずは、良くない例を挙げさせていただきます。

一つ目です。
(一つ目は光と時間の関係とは直結しませんが…)

職人との打合せで左官や塗装、特注タイルなどで色を決める際。
私がこのような質感でお願いしますと素材は違えど近い雰囲気のサンプルを持参する。
すると、「日塗工※の番号を教えてくれればそれで作りますよ。」と。
※日本塗料工業会が発行している「色相」・「明度」・「彩度」が記されている色見本帳のこと

色見本帳
画像元:(一社)日本塗料工業会HP

それを当たり前のように言われる時のもどかしさ…
私にとっては全くの別物感覚なのに、それが通例のようになっている業界。

醤油とみりんと砂糖を同じ割合で入れればどんな食材も同じ味になると言っているようなもの。
食材によって味は変わるのに…。

そこで、私は持参した近しいサンプルを指して
「では、この色は日塗工でいうと何番ですか?」と、尋ねる。
もちろん、私含めて誰も答えられない。

次に、メーカーや職人との打合せ場面。
外装に使用する材料の選定場面。
打合せをしている屋内では分からないので、良かれと思って自然光の当たる窓際で確認する。

これは同じ自然光が当たっていても、実際に外で使用する時と見え方が全く異なります。
試しに皆様も何かでやってみてください。

実際に私も打合せの際には、取り急ぎ窓際で確認しますが、最終決定する前には必ず現地で、できるだけ大きいサンプルを置いたり当てたりして確認します。
そして、その素材とぶつかり合う他の素材も周囲に置いて確認します。
これまた、色や質感の見え方が全く変わります。

ここで、「時間」です。
実際に現地にサンプルを当て込んだ際、色んな角度で見てみると思います。

その際に次のような場面を脳内再生し、ARのようにその場にイメージを造ります。

晴れの日
曇り


夕暮れ

朝日
春夏秋冬
人が多いとき
人がいないとき
1年後


5年後


10年後



30年後




100年後
などなど…

よく私が現場で立っていると、「無を眺めている」と冗談混じりに言われますが、上記のような場面を高速で行き来しているためです。

このようなイメージを造ることは同業者の設計士でもやらないことが多いので、とてももどかしいのですが、なおさらそれを一般の方々にお願いするのも押し付けがましい気もします。

ただ、これから家づくりやお店などの開業をする方たちにはもちろん、それらの建物は当事者ではない様々な人が目にするもので、街や都市、子供の心象風景まで形成していくもの。
少しでも満足する建築づくりや建築が増えていって欲しいと願い、次のことからイメージしてみてください。

夕暮れ&しとしと雨の場面(あるいは雨上がり)でイメージしてみてください。

建築に限らず、自然や都市など、この瞬間が一番素材の音色が響く時間です。

その瞬間にあなたの中で素材(最終的には全体の建物)が輝いて見えれば、それが正しい選択です。

最後に、ある本からこの言葉を引用させていただきます。

霧と夕暮れは、視覚イメージをあいまいにぼかすことで想像力を呼び起こす。(中略)ぼんやりとした眼差しは、物的イメージの表層の奥を見通し、焦点を無限に合わせる。

『建築と触覚―空間と五感をめぐる哲学』ユハニ・パッラスマー 著

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