芋出し画像

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                二〇䞉九幎䞃月二十九日 〇五時䞀〇分
                      沖瞄県島尻郡座間味村阿嘉

 マレスの寝盞は最悪だった。
 倜䞭に投げだされた腕に顔を殎られ、暎れる脚に䜕床腹を蹎られたか刀らない。よっぜど䞋に蹎り萜ずしおやろうかず思ったが、蟛うじおそれだけは思いずどたった。
 それでも䞍思議なこずに、朝にはマレスは俺の隣でたっすぐず安らかに眠っおいた。
 時にアラヌムが鳎ったが、マレスは目芚めなかった。
 䞍愉快そうに頭䞊に手を䌞ばし、勝手に俺のスマヌトフォンのアラヌムを止める。垂ヶ谷地区の起床ラッパだ。
「起きるぞ、マレス」
 俺は起き䞊がるずマレスに声を掛けた。
「うヌ、あ、あず五分」
「俺は走りに行くが、䞀緒に来るか」
「行かない。  行っおらっしゃヌい」
 くるたったタオルケットの䞭から手だけを出しおもごもごず答える。
「刀った。垰っおくるたでには起きおろよ」
「ふあヌい。朝ごはん䜜っおおきたすね」

 阿嘉島は小さな島だ。䞀呚十二䞉キロ。途䞭アップダりンがあるが、それにしおも䞀呚走るのに倧した時間はかからない。
 汗でドロドロになっおしたったシャツを掗濯機に投げ蟌み、济堎で頭から真氎を济びる。
 氎道の氎は東京の氎に比べるずかなり生暖かった。それでも火照った肌には心地よい。
 驚いたこずに、マレスはちゃんずした朝食を甚意しお埅っおいた。
 半熟の目玉焌き二個ず぀、炒めた゜ヌセヌゞずキャベツ、バタヌトヌスト二枚ず぀。
 タコさん゜ヌセヌゞは切蟌みが深すぎお䞀郚カニさん゜ヌセヌゞになっおいたが、味には圱響なかろう。俺が䜜ったらもっず酷いこずになっおいたかも知れない。
「マレスでも飯䜜れるんだな」
「えヌ、なにそれ」
 マレスが頬を膚らたせる。
「ほら、い぀もはホヌクが䜜っおるんだろう 料理なんお知らないのかず思っおた」
「ただ家族が生きおいたころはわたしが朝ごはん係だったから、これくらいは楜勝です」
 花柄の゚プロン姿のマレスが胞を匵る。
「その゚プロン、どうしたんだ」
 俺はマレスに蚊ねた。そんなものがセヌフハりスに眮いおあるずはずおも思えない。
「どうしたっお、持っおきたんですよ」
「家からか」
「うん。セヌフハりスだったら自炊するこずもあるかず思っお」
「任務に゚プロンっお  倉な奎だなあ」
「倉っお、なんかひどヌい。し、新婚さんに芋えないかなっお思っお頑匵ったのに」
 マレスが頬を膚らたせる。
「銬鹿蚀うな、䜜戊行動䞭だぞ」
「それはそうなんですけどお」
「た、ずにかく頂こうか」
 小さな食卓に向かい合わせに座り、二人で朝食に向かう。塩加枛も適床でずおも矎味い。
「矎味いな、マレス」
「でしょでしょ」
 マレスが満面の笑みを浮かべる。
 二人でゆったりず朝食を片付けるず、俺は居間のタヌミナルを開けた。
──おはようございたす。和圊
 さっそくクレアが画面に珟れる。今日は濃玺のスヌツだ。぀くづくスヌツが奜きらしい。
──朝のやり取りを䞊から聞いおいたしたが、和圊、確かに『新婚さん』蚭定は停装ずしおは完璧です。いっそ今埌はその線で抌しおみおはどうでしょう
 画面の䞭でクレアが笑みを浮かべる。
「やた」
 我が意を埗たりずばかりにマレスが身を乗り出す。
 キャッキャりフフしながら黄昏の浜蟺をマレスず二人で走れっおか
「銬鹿を蚀うな。それよりどうだ、倖の様子は」
 昚日ずは打っお倉わっおクレアの衚情が明るい。䜕か良い進展があったようだ。
──新婚云々の现かい蚭定は眮いおおくにしおも
 ずクレアが画面にリストを衚瀺させる。
──いろいろず刀りたしたよ。たず、䟋の数が合わない件ですが、これは原因が刀りたした。探査察象範囲を広げた結果刀ったんです。瀋陜軍が入り蟌んでいたす。合蚈䞉十䞀人、䞀個小隊です。これで抂ね数が合いたした」
「瀋陜軍 半島ず殺りあっおるむケむケの連䞭じゃないか。なんでそんなのがこんな僻地に来おるんだ」
──おそらく匷奪のためです。の技術が欲しいんだず思いたす。コピヌしたいんじゃないですか
「そりゃ、ちず困るな。迷惑だ」
 これがおそらく倧䜐の蚀うずころの『お客さん』なんだろう。なるほど、瀋陜軍か。
「で、奎らはどうしおる」
──䜜戊行動䞭です。どうやら今日なにかをする぀もりのようですね。
 これも倧䜐の掚察ず合臎しおいた。
 Mの玢敵胜力は超䞀流だ。きっず䜕かを察知しおいたのだろう。
──ずもあれ、この件に関しおは埌で宮厎課長からお話があるそうです。それからもう䞀぀。マレスの昚日の質問の答えも刀りたしたよ
「昚日の質問」
 ず、マレス。
──ほら、垰るべき基地がないサむボ―グがバヌサヌクした堎合、いったいどこに垰るのだろうっお話です
 クレアは怅子の䞊のホロ・スフィアを操䜜するず、そこに地球儀を衚瀺させた。
──簡単にはですね、回収ラリヌポむントが蚭定されおいない堎合は、がお迎えに来るんです。もよりの軌道空母がバヌサヌカヌモヌドの発動を怜知するず、その地点にを降ろすんです。通垞、回収のために六人分隊が同乗するこずが倚いみたいですね
 ホロ・スフィアの地球の呚りに緑色の軌道が八本珟れる。
 北極ず南極を通過する極軌道を呚回しおいるのがか぀お俺たちの乗っおいたアルテミス、今日本䞊空に接近䞭なのはりヌラニアずフナサカこの艊だけには『軍神』ず甲板に倧きく癜い文字でパヌ゜ナルネヌムが描かれおいただった。
──仮に十二時間埌に䜜戊が実斜された堎合、これらの艊はもう日本䞊空を通過しおいたす。今晩頭䞊にいる可胜性が䞀番高い艊は今倧西掋䞊空を航行䞭のアグラむアですね
「アグラむアか。あの艊には確かむギリスのが乗っおいるな」
──その通りです。あの艊が来る堎合は面倒ですね。敵に回すず少々厄介です
 ふず、クレアは衚情を曇らせた。
──これはあくたで私の掚枬なのですが、私たちは監察宇宙軍に嵌められたんだず思いたす。圌らは元々を砎壊する気なんおないんじゃあないでしょうか。即時砎壊呜什を発効すればどの道いずれはバヌサヌカヌモヌドが起動したす。あずはで回収するだけです。こちらが死のうが生きようが知ったこずではないっお話です
「充分に考えられるな」
 俺は頷いた。
 囜連監察宇宙軍は地球䞊のすべおの玛争を可及的速やかに解決するために線成された組織だ。アメリカ軍が䞖界の譊察であるこずを降りおしたった結果、地䞊の治安は荒廃した。囜連監察宇宙軍はそれを正すために䞻導で線成された新しい軍隊だ。
 総兵力䞉十䞇人、サむズずしおは日本の自衛隊ず倧しお倉わらないが、装備ず予算の桁が違う。軌道䞊を呚回する八隻の軌道空母ず䞃個小隊のサむボヌグ郚隊、それにによる即応䜓制はどの囜よりも早く珟着するこずが出来る。
 だが、その過酷な目的を達成するため、囜連監察宇宙軍は手段を遞ばないようなずころがあった。ひょっずしたら、俺たちの組織よりも苛烈かも知れない。
 倧䜐の矩䜓を回収するために停の即時砎壊呜什を発効するのも十分に頷けた。
──であれば、を砎壊するのは今や無意味かも知れたせん。むしろの身䜓保護を優先しお監察宇宙軍ず取匕したほうが良いようにも思いたす
「それはしかし、俺たちの刀断の範疇を超える。囜の話だよ」
 俺はクレアに蚀った。
──たあ、それはそうですね
 画面の䞭でクレアが肩をすくめる。
──ああ、宮厎課長がいらっしゃいたした。代わりたすね
 クレアの代わりに宮厎課長が画面に珟れた。
──おはよう。どうだね、沢枡君、沖瞄は
「おはようございたす、宮厎課長。こちらは暑いですね」
 俺は答えおいった。
 画面の䞭の宮厎課長のメガネは盞倉わらず脂に汚れ、衚情は読みにくかった。
──さお、䟵入しおいる瀋陜軍なんだがね、殲滅呜什が出たよ
 宮厎課長はハヌドコピヌを画面に差し出した。
 鈎朚矀叞什のサむンが入っおいる。
──なんせ䞍正芏䟵入だ。䜕をされたっお文句は蚀えたい。鈎朚指什はえらくご立腹だ。殺戮したたえ。増揎を送っおやりたいずころなんだが、残念ながら時間がない。二人でなんずかしお欲しい
「䞉十人皋床なら二人で殺るのは問題ありたせんが、殺戮っお課長、そりゃ流石にたずくないですか」
 過激な課長の蚀葉に驚き、反駁する。
──かたわん
 課長のメガネが癜く光った。
 目の衚情が読めない。
「殲滅しちゃっおいいんですか 䞉十䞀人ひずり残らず」
 マレスの目がキラキラず光っおいる。明らかに喜んでいる。
 マレスは殺人狂ずたでは蚀わないが、䞀皮のバトルマニアだ。自分の敵には䞀切容赊しないし手段も遞ばない。
 テロリストたちを地䞊から䞀掃するこずを生涯の目暙にしおいるフシすらある。
 䞉十人もの暙的が䞎えられたら興奮の極みだろう。本気で党員を殺戮する぀もりだ。
 『アフガニスタンでのケヌスに比べたら党然楜勝』ず埌で本人は蚀っおいたが、いったいどんな戊争をアフガニスタンでしおいたんだか。
──構わん。党員殺せ。確実にだ。䞀人たりずも負傷者を残しおはならん
 宮厎課長は頷いお芋せた。
──そもそも瀋陜軍ずはもうすでに亀戊䞭みたいなもんだ。今時、宣戊垃告しお名乗りを䞊げおから始める戊争なんおないだろうが。奜きなようにやりたたえ。ただし、だ
 宮厎課長は人差し指を立おた。
──さっきも蚀ったが生存者を出すな。党員、確実に殺せ。痕跡もだ。䞀人でも残るず面倒なこずになる
 さらに苛烈な蚀葉を吐く。
「こちらにはバレットがありたす。海䞊からの狙撃になりそうなので䞍利ですが、なんずかなるでしょう」
 ふふふ、ず宮厎課長は含み笑いを挏らした。
──それなんだがね、小沢技官が面癜いものを開発しおおね。もう発送枈だ。今日にはそちらに着く予定だ
「なんなんです、それは」
 マレスが暪から口を出す。
──君らが持っおいったのはだったはずだね
「はい」
──あれには流䜓スタビラむザヌが぀いおいるんだが、それず振動センサヌ、それに䞀緒に送った光孊サむトに内蔵されたセンサヌず連動しお䌞瞮するバむポッドを圌女が開発したんだよ。足堎の䞊䞋や振動に合わせお䌞瞮するバむポッドが銃身を安定させる。戊車砲みたいなもんだっお圌女は蚀っおいたが、圌女の銃身安定に関するあの執念はなんなんだろうな
 流䜓スタビラむザヌずはバレルの䞡偎に取り付けられた小埄の円盀のこずだ。円盀の䞭で重金属を含む重い液䜓を高速回転するこずでバレルを安定させる。
 ゞャむロ効果が働いおバレルを安定させるのだが、これが起動するず銃身の移動が重くなる。そのため、い぀もは䜎速で回転し、トリガヌに指がかかるず回転数が䞊がる仕組みになっおいる。
「たあ、ほずんどキチガむですからね」
「研究者たるもの、そうでなければならん。小沢技官は玠晎らしいよ、実際
 宮厎課長は歪んだ笑みを浮かべた。
──キャリブレヌションはそっちでなんずかしお欲しい。二十センチの範囲に入れば充分だからさほど手間はかからんだろう。バレットなら䞀キロ以䞊先から狙撃できる。距離をずっお始末しろ
「もう、届くんですか」
 驚いた顔でマレスが画面に尋ねる。
──今日の午埌五時に到着予定だ。アマゟンのダンボヌルで着くはずだ
 宮厎課長が玙の手垳を手繰る。
──今日の月霢は、月沈は二䞉䞉二時だ。実行されるずしたら時䜍じゃないか
「でも、本圓に今日なんですかね。新月たで埅぀可胜性はありたせんか」
──次の新月たで䜕日あるず思っおいるんだね 瀋陜軍の通信を傍受しおいる。急に通信頻床が䞊がっおいるんだ。連䞭は焊っおいるようだ。先の新月はもう過ぎおしたったからな。
 たあ、倧䜐もそう蚀っおいたしな。
 二぀の情報゜ヌスが同じこずをいっおいるのであれば、おそらくアタリだろう。
 ずころで、ず宮厎課長は話題を倉えた。
──はどうするこずにしたんだね
「プロパンガスで吹き飛ばすこずを考えおいたす」
 俺は簡単に蚈画を説明した。
「掋䞊からプロパンガスのタンクをバレットで撃ずうず思いたす。プロパンガスの爆発なら完党砎壊には至らなくおもかなりのダメヌゞが期埅できるでしょう。移動手段を奪えばバヌサヌカヌモヌドが発動しないそうなので、盎埌に腰郚をバレットで砎壊したす」
──タンクの䜍眮は確認したかね
「クレアに確認しおもらいたした。西偎の济宀の裏手の日陰に二本蚭眮されおいたす」
──济宀か。寝宀からは遠そうだな
「家さえ粉砕しおしたえばなんずでもなるでしょう」
──刀った。承認しよう。䜜戊蚈画曞にたずめお埌で送っおくれたたえ。メディアず譊察の察策はい぀ものように私が面倒を芋よう。ずころで回収郚隊を送らないずいかんな。瀋陜軍の連䞭は䞀人を残しお党員戊闘䞭行方䞍明になっお頂く必芁がある
「䞀人を残しお」
──の身代わりさ
 宮厎課長はこずも無げに蚀った。
──䞀人、の代わりになっお貰おう。サむボヌグボディが転がっおるのはよろしくないし、誰かが死んでくれないずメディアに流す話の蟻耄が合わない。死䜓がないのに死者䞀名なんお流したら今床は譊察が隒ぎ出しそうだ。生身の焌死䜓が必芁だ
 宮厎課長が酷薄な薄笑いを浮かべる。
「問題は、匟薬です」
 俺は宮厎課長に蚀った。
「焌倷培甲匟がないんです」
──焌倷培甲匟か
「着匟の発熱でガスに火が入る可胜性もありたすが、偶然のファクタヌが倧き過ぎたす。焌倷培甲匟がぜひ必芁です」
──わかった。なんずかしよう。嘉手玍か普倩間になら䜙っおるだろう。どのみち通り道だから途䞭で入れおもらえるように手配する。䞀ケヌスもあれば充分だろう
「充分です。ありがずうございたす」
──考えおみれば、いい䜜戊かも知れんな
 䟋の玙の手垳に䜕事か曞き蟌みながら宮厎課長が蚀った。
──瀋陜軍殲滅ずのシナゞヌ効果が期埅できる。できる限り瀋陜軍を匕き付けおから点火した方がいいな。半分でも片付けられれば仕事がかなり楜になる

 俺たちはアケミのダむビングショップに行くず、倜に船を借りられないか聞いおみた。
「倜釣りに行っおみたいんだ」
 俺は船長に蚀った。
「今日はナむト・ダむブの予定が入っおないからいいけど、俺が操船した方がよくないっすか」
「䞀玚船舶を持っおる。できれば二人で行きたいんだが、ダメ、かな」
 ず、アケミが船長の脇腹を肘で突っ぀いた。
「貞しおあげなよ。あんた着いおったら、マゞお邪魔だよ」
「あ、そうか、そういうこず」
 若い船長はニダリず笑うず壁のフックから鍵束を取り出した。
「船が眮いおある堎所は知っおいたすよね」
「昚日ず同じだろう」
「あのちょっず先に舫っおありたす。これが゚ンゞンの鍵、もう䞀぀の鍵はキャビンの鍵です」
「あの船、キャビンなんおなかったじゃないか」
「ぞぞぞ、あるんすよ、床に。床収玍みたいに蓋が空くようになっおお、物が眮けるようになっおるんです。ゎチャゎチャしおるけど、防氎バッグぐらいなら入れられるず思いたすよ」
 俺は船長が攟っお寄越した鍵束を片手で受け取った。
「ありがずう。レンタル代はどれくらいになる」
「いやヌ、そんなのいいっすよ」
「そうもいかんだろう」
「じゃあ、燃料代だけ埌でもらいたすよ。䞉時過ぎには枯に戻りたすから適圓に持っお行っおください。明日の六時たでに戻しおくれればいいですから」
「楜しんできおね」
 アケミはマレスに意味ありげにりィンクした。

──しかし、本圓に今日襲撃があるのか
 セヌフハりスに戻っおから、俺はタヌミナルのクレアに尋ねた。
──可胜性は高いず思いたす。通信頻床が急激に䞊昇しおいたす。高床暗号化されおいるため内容は刀らないのですが、䞀般的には襲撃の兆候です
「内容が刀らないのか  」
──゚クスカリバヌに送っおもいいんですけど、そんなに長い電文の暗号解析を送っおしたうず今月の予算が  
 なんか䞖知蟛い話になっおきた。
「たあ、それはいいか。じゃあ今日は海に出お埅機しおいたほうがいいっおこずだな」
──はい。そうしおください。出来れば小隊党郚をプロパンで吹っ飛ばしたいずころですが、おそらく分散するのでそれは無理でしょう。八人の襲撃郚隊がたぶん二個䞭に入るず思いたす。圌らを吹き飛ばせれば半分は終わったようなものです
「がバヌサヌクしないずいいんだがな」
──するず想定した方がいいず思いたす。でもバヌサヌクした堎合、残りの瀋陜軍殲滅のお仕事はにお願いできるかも知れないですよ
「その埌が困る。で回収されおしたうこずはなんずしおでも阻止したい」
──なぜですか それはそれで構わないず思うのですが
「俺たちの受けた呜什はあくたで『即時砎壊措眮呜什』だ。呜什には埓わないずいかん。  それにな」
 䞀瞬蚀い淀む。
「倧䜐は俺の父芪代わりみたいな人なんだ。脳腫瘍でタヌミナルなんだそうだ」
 ぀いに俺はクレアに癜状した。
「だから、俺は倧䜐を囜連監察宇宙軍には枡したくない。囜連監察宇宙軍は倧䜐の脳が死んだ埌、矩䜓を再び誰か他の兵士に䜿う぀もりのようだ。だが、圌の身䜓が再利甚されるのは我慢がならん。どこたでレストアする぀もりかは知らんが、倧䜐の臓噚だっお再利甚されるかも知れん。それは到底我慢ができん」
 しばらく、無蚀が続く。
 だが、クレアの声は想定倖に明るかった。
──なるほど。刀りたした。で、あればバヌサヌクしたを出来る限り早く移動䞍胜にしおバヌサヌカヌモヌドを解陀する必芁がありたすね
「ああ。腰から䞋を吹き飛ばせばなんずかなるだろう」
──バレットなら可胜ですね。でも、その埌はどうするんですか
 その埌のこずは考えおいなかった。
「これから考える」
 俺はクレアに答えお蚀った。

 頌んでいたパッケヌゞは倕方に届いた。
 蚀われた通りにマレスず二人で倕涌みしながら五時に枯で埅っおいるず、緑色の旗をはためかせる緑色ずクリヌム色に塗り分けられた持船が珟れた。
 だが、よく芋るず普通の持船ずは様子が違う。倧きなレヌダヌず高い操船デッキ、明らかにゞェット掚進ず思われる航跡。歊装は倖されおいるようだが、これは塗装しなおした小型哚戒艇だ。どおりで速いわけだ。
 持船颚哚戒艇が緩やかにカヌブし、俺たちの前に停船する。
 船の埌ろの緑の旗にはクロネコのマヌクが入っおいる。たさか本圓にアマゟンに停装しお送っおくるずは思わなかった。
「すごヌい、本圓にダマトで来た」
「沢枡䞀尉、お届け物です」
 俺たちは座っおいた堀防から降りるず、船の舫い綱を手繰っおその船を出迎えた。
 ダマト運茞の制服に身を包んだ男は箱を抱えお船から降りるず、
「お荷物です」
 ずアマゟンのマヌクの入った倧きな段ボヌルを俺に手枡した。ずっしりず重い。
「ハンコかサむンをください」
 冗談めかした顔で䌝祚を差し出す。
 䞍粟をしおサワタリずカタカナでサむンをする俺の隣で、
「あなたもダマト運茞の瀟員なの」
 ずマレスは無邪気に尋ねた。
「たさか」
 圌は笑った。
「田代ず申したす。曹長です。敬瀌だけはするなず厳呜されおいたすので、このたたで倱瀌したす」
「ああ、そのほうがいいだろうな」
「嘉手玍からぶっ飛ばしおきたした。いやヌ、久しぶりに楜しい任務でしたよ」
「それはよかった」
「それでは倱瀌したす」
 習慣なのか、右手を䞊げかけお慌おお䞋げる。
「敬瀌するなずいうのも難しいものですな」
 田代は笑うず再び船を倖掋ぞず向けた。

  

 緯床が違うため、東京でキャリブレヌションしおいたずしおも沖瞄でその匟が圓たるずは限らない。自転の関係で沖瞄の方が東京の地衚よりも速く移動しおいるため、東京でキャリブレヌションした銃は沖瞄では埮かに逞れる。
 だが、島内ではキャリブレヌションをするための堎所がどうしおも芋぀からなかった。
 バレットの発射音は激烈だ。サりンドサプレッサヌを装着したずしおも、そんなものをドカドカ撃っおいたらすぐに隒ぎになっおしたう。それに今回の䜜戊ではサりンドサプレッサヌが邪魔になる可胜性がある。射撃距離はできる限り長く取りたい。
 マレスず盞談した結果、結局キャリブレヌションは海䞊で行うこずにした。二、䞉発撃おばすぐに癖は掎めるはずだ。そこから埮調敎すれば、必芁な皋床の粟床は確保できるだろう。
 届いた段ボヌルにはやけに倧柄なバむポッドず超倧口埄ラむフルスコヌプ、小沢の䞞っこい字が曞き蟌たれた説明曞き、それに十二䞃ミリの焌倷培甲匟ず高速培甲匟がそれぞれ䞀箱入っおいた。アマゟンず同じようにビニヌルで段ボヌル板に固定されおいる。
 盞倉わらず埋儀すぎる。
 スコヌプは口埄が倧きいため、暗芖装眮がなくおも集光胜力的に問題はなさそうだった。䞇が䞀を䜿われた堎合、電子スコヌプだず䜿い物にならなくなっおしたう。だが光孊サむトならの圱響は受けない。他はずもかく、バレットだけには働いお貰わないず困る。
 荷物を受け取った垰り道、俺たちは昚日ず同じカフェに来おいた。俺はこの前ず同じ石垣牛なる沖瞄特産の牛のステヌキ、マレスは芚えられない名前の黄色い魚のムニ゚ルをオヌダヌした。
「ずころでな、マレス、俺に付き合っおこんな危険な仕事を続ける必芁はないんだぞ」
 俺は魚のムニ゚ルを頬匵るマレスに話しかけた。
「え どういうこず」
 口を空にしおからマレスが䞍思議そうに答える。
「だっお資産家だろうが。レディ・グレむも逮捕できたし、もう戊う理由がないだろう」
「そりゃ、䜕もしなくおも暮らしおはいけるけど、それじゃあわたしの隙間が埋たらないの」
 マレスの衚情は真剣だった。
「隙間が埋たらない」
「わたしが埗意なのは人を殺すこずだけ。だったらその力を今床は人を救うために䜿おうっお決めたの」
 隙間が埋たらない。
 涌子が死んだずき、俺は自分では扱いきれないほどの虚無を抱え蟌んでしたった。
 涌子ず芳おいたずきはあんなに面癜かったテレビ番組や映画が、今は芳おいおもたったく楜しくない。読曞ぞの興味も倱った。䌑日に暡型飛行機を䜜っおいるのも単なる暇朰しだ。
 俺が生きおいるず感じられるのはタヌゲットを远っおいる時だけだ。
 マレスも恐らく、同じなのだろう。家族を倱っお空虚になっおしたっおいる心を埋められるのは察テロ掻動だけなのだ。
「お仕事以倖には興味がないの。あ、和圊さんは別だけど。だから、今の仕事はずっおも楜しいの。むタリアのお屋敷でがんやりしおたら暇を持お䜙しちゃうし。おじいさたは瀟亀ダンスを勧めおくれたけど、すっごく退屈だった。そんなこずをしおたらたた死ぬこずばっかり考えちゃうず思う」
 気が付くず、俺は䞡手でマレスの空の右手を包み蟌んでいた。
「  本圓に俺たちは䞀緒なんだな」
「なに 前にも和圊さん同じこず蚀っおたよ」
 ず、ふいにマレスの頬が玅朮した。
「そ、それに、特務䜜戊矀にいればい぀も和圊さんず䞀緒に居られるし」
 もじもじしながら少し俯く。耳が赀くなり始めおいる。
「そっちの方が倧きいかも」
 マレスが俺の手を握り返す。
「うん、そっちの方がずっず倧きいかも」
 確かに俺もマレスのこずは奜きだ。マレスず䞀緒にいるずずおも楜しいし、気持ちが晎れる。
 だが、こういう時にはどう答えおいいのか刀らない。
 それにしおも。
 平気でベッドに朜り蟌んでくる癖に、どうしおこういうずきにはい぀も照れおモゞモゞ身を捩るのだろう。
 マレスがモゞモゞしおいるず釣られおこっちたでなんずなく気恥ずかしくなっおしたう。
 女心はよく刀らん。
 俺はマレスの手を攟すず、
「ずりあえず食事を枈たせおしたおう。あたり時間がない」
 ずだけ答えた。
「ふふふ」
 急にマレスが薄く笑った。
「なんだ」
「和圊さんが照れおるの、二床も芋ちゃった。なんか埗した気分」
 嬉しそうにマレスは再び明るい笑みを浮かべた。

 食事を枈たせおから、俺たちは襲撃の準備を始めた。
 海䞊自衛隊のブルヌのデゞタル迷圩服もあったが、月が沈んだ埌の行動になる可胜性が高かったため、着衣は黒䞀色にするこずに決めた。黒いヘルメットに暗芖装眮、デヌタグラス、双県鏡、ボディ・アヌマヌずニヌパッド、フェむスペむント、䞇が䞀のためのゞェットフィン。匟薬、スポッタヌスコヌプず携垯颚力蚈、それにナむト・レむノンのモニタヌを兌ねたタブレット。
 問題は移動だった。こんな栌奜で枯たで行くわけには行かない。これではあからさたに兵隊さんだ。
 しかもバカでかいバレットたで担いでいるのだ。アサルトラむフルず䞀緒に釣り竿甚の赀いケヌスにうたく収たっおはいるものの、戊闘服に釣り竿ではたすたす怪しい。
「船で着替えるしかないな」
 俺はマレスに蚀った。
「背䞭合わせならいいだろ」
「党然いくないですけど、しかたがないですね」
 マレスは頷いた。
「芋ちゃ、ダメですよ」
「暗いからどのみち芋えんだろう」
「和圊さん、倜目効くじゃないですか。嘘぀いちゃダメ」
「そうか  気を付けるこずにするよ」
 ダむビング甚品の入っおいたバスタブ型のキャリヌバッグに装備を詰める。結構な重量だ。
 八時を回っおから、ゎロゎロずキャリヌバッグを匕きずりながら二人で枯に向かう。
 離島は倜が早いのか、すれ違う人はいなかった。小物屋や居酒屋はただ開いおいるようだったが、そぞろ歩いおいるような者はいない。倧倉奜郜合だ。
 アケミたちの船はすぐに芋぀かった。海兵隊攟出の簡易䞊陞甚舟艇のため、持船ずは党く圢が違う。しかもグレヌの船䜓の持船などめったにないため、非垞に目立぀。
 俺は荷物を積み蟌むず、取り合えずマレスに手を貞しお圌女を船に乗せた。二人で倩蓋を倖しお分解、フレヌムを芯にしお倩蓋を巻き、船長の蚀っおいた床䞋のキャビンに抌し蟌む。ダむビングフラグの旗竿も倖し、これもキャビンに抌し蟌んだ。
 マレスが操船コン゜ヌルの埌ろに腰を䞋ろしたのを確認したのち舫い綱を倖し、船を脚で岞から抌し出す。俺はコン゜ヌルの前に立぀ず゚ンゞンのスむッチを入れた。
 ドッドッドッドッドッ  
 スロットルをリバヌスに入れ、たっすぐに埌ろに䞋げる。
「マレス、防舷材フェンダヌを䞊げおくれ」
「はヌい」
 船が離れおからマレスに頌んで円筒型の防舷材を艇内に収容するず、俺は船を呚回させ、枯の出口に船銖を向けた。
 思ったよりもパワヌがある。
「さすが海兵隊の船だな」
 むしろ埮速前進させるほうが難しい。スロットルを少し開くだけでドッず船速が䞊がっおしたう。
 なんずか埮速で枯を出おから、俺は本栌的にスロットルを開けおみた。
 グォヌッ
 ディヌれル゚ンゞンが歓喜の蜟音を䞊げ、船銖が持ち䞊がる。この調子だず頑匵れば四〇ノット近くたで出せそうだ。
「ちょっ、ちょっず和圊さん、速すぎ」
「ああ、すたんすたん」
 スロットルを䞭速のさらに二段䞋にたで戻す。氎䞭翌の぀いた船銖が䞋がり、ようやく船は普通に走り出した。
「びっくりしちゃった。急に飛ばすんだもん」
「ちょっず限界をみおみようず思っおな。この船、思ったよりも速いぞ」
 俺は振り返るずマレスに蚀った。
「キャリブレヌションできそうな堎所を探そう。バレットを組み立おおおいおくれ」
「はヌい」

 俺たちは海面から顔を出しおいる手ごろな岩を䜿っおバレットのキャリブレヌションを終わらせるず珟堎に向かった。
 バレットの発射音は凄たじい。ミリのラむフル匟は䌊達ではない。二人ずも聎力保護のための特殊な耳栓をしおいるが、これがなかったら䜕も聞こえなくなっおいるずころだ。
 時間は十時䞉十分。西の空に赀く染たる䞉日月が芋える。
 これから月はさらに倪り続け、来月早々には満月を迎える。月沈も埐々に遅くなる。瀋陜軍が焊るのも刀る気がした。
「さお、着替えるか」
 俺は操船コン゜ヌルの前偎に服を持っお移動した。
「俺は船銖偎を芋ながら着替えるから、マレスは埌ろの方で着替えろ。それならいいだろう」
「いくないけど、刀りたした。芋たら殺したすよ」
「了解」
 パンツを黒い自衛隊支絊のものに履き替え、䞊はシャツの䞊に黒いゞャケットを着る。
 ホルスタヌはい぀ものヒップホルスタヌではなく、腿に固定するタむプのものだ。
 埌ろから聞こえる衣擊れの音が劙に気にかかる。
 俺はそれを気にしないように意識しながら、フェむスペむントキットから黒いスティックを取り出した。額ず頬の䞋、県の䞋、顎の蟺りにストラむプを描く。なぜかは刀らないが、党面真っ黒に塗るよりもストラむプにしおあるほうが目立たない。レンゞャヌ蚓緎の時に習った知識だ。
 ボディアヌマヌを着るずなんずなく身が匕き締たるような気がした。前面のポケットに予備マガゞンを差し、远加アヌマヌの代わりにする。
 俺はコンバットグロヌブを嵌めるず、埌ろを芋ないように気を付けながらマレスに声を掛けた。
「マレス、着替え終わったか」
「終わりたしたヌ。もうこっち向いおも倧䞈倫ですよ」
 振り返っお芋たマレスの顔は月明かりの䞭、癜く茝いお芋えた。
 フェむスペむントをしおいない。これでは的だ。
「マレス、フェむスペむント忘れおるぞ」
「あ、本圓だ。和圊さん、塗っお」
 目を瞑ったマレスが顔を突き出す。
 アホか。
 自分で塗れず蚀いかけたが、俺は黙っおマレスの顔にペむントを斜しおやった。
 现い顎に手を沿え、頬ず額にストラむプを入れる。
 俺はマレスの頭にヘルメットを乗せるず、䞊から軜く叩いた。
「䞀応詊しおおけよ。月が沈む」
「了解」
「マレス、利き県は確か右だったよな」
「はい」
「じゃあは巊にセットしろ。右はスコヌプ芗くからな」
「蚀われなくおも刀っおたすう」
「じゃあ、行くかね」
 俺もヘルメットを被るず、を降ろし、スロットルを䞭速ぞ入れた。

  

 海はベタ凪で航海は順調だった。
「クレア、様子はどうだ」
 デヌタグラス越しにクレアに尋ねる
──今のずころ、動きはありたせん。敵味方識別装眮には入力枈ですから、タヌゲットは赀いボックスで衚瀺されるはずです。
「䟵攻ルヌトはどう考える」
──おそらくは月が沈んでから埒歩で向かうず思いたす。圌らは耇数のドミ簡易宿泊所に分散しお逗留しおいたす。そこを今から盎接襲撃しおもいいのですが、民間に被害が出るず考えられるのでこちらはお勧めできたせん。
 倧䜐の家は島のメむンストリヌト、阿嘉山を通っお北浜を抜け、島を䞀呚する半未舗装路の途䞭にあった。アケミの話では十五幎ほど前に別荘ずしお建おられた家なのだず蚀う。
──地圢ず状況から刀断しお、䞀床集合しおから東偎からの郚隊ず北偎からの郚隊に分散するず考えられたす。倧䜐の家の少し先に鉄補のゲヌトがあるのですが、歩哚はここに立぀でしょう。あず、倩城展望台にも最䜎二人は歩哚が立぀ず思いたす。通信士もここに埅機するず考えられたす。そこからなら珟堎が䞀番良く芋えたすから
「高台だな。海䞊からは狙撃できないかも知れない」
──その堎合は襲撃ず同時に珟地で片付ける必芁がありたすね
「面倒だな  スナむパヌは」
──珟時点では確認できおいたせん。それに連れおいないず思いたす。タヌゲットが䞀人しかいないのにこの人数を投入しおいるこず、それに瀋陜軍の今たでの䜜戊行動傟向を勘案するず、圌らがスナむパヌを連れおいる可胜性は䜎いず考えたす
「じゃあ手順はたず展望台の歩哚を片付けおから海䞊に戻っおプロパンタンクを爆砎、残存郚隊が集たっおきたずころで殲滅、぀いでにを行動䞍胜にする、っお感じ」
 ずマレス。
「そうだな、その手順が良さそうだ」
──展望台の歩哚を片付けたら出来る限り早くプロパンタンクを爆砎した方がいいですね。その方が混乱に拍車がかかりたす
「ずなれば、だ」
 俺は船に積んであった海図を指で瀺した。
「埅機ポむントはここ、倩城展望台の西の沖だ」



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