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イスラエルの夏の飲み物
どういう理由か判らなかったのだが、イスラエルの夏にはどうにもミントの思い出がある。
ずーっとそれが引っかかっていたのだが、最近理由がわかった。
それは、飲み物。
イスラエルの夏の飲み物と言えば『レモナーナ』に止めを刺す。
『ナーナ』というのはヘブライ語でミントのこと(だと、思う)、レモナーナ(レモナーダとも聞こえる)は大量のミントを加えた少し甘いレモネードだ。
死ぬほど暑いイスラエルの夏の最中に飲むには最高だ。とても爽やかで、とても美味しい。
ところでこれはお店によって作り方が違う。
一般的にはミントジュレップやモヒートのように、グラスにミントの葉っぱと砂糖を入れ、棒でよくすりつぶしてからレモンジュースを加える。
ただし、ミントの葉っぱの量はモヒートの二倍から四倍はある。レモンジュースもあまり水で割っていなくて、かなり濃厚だ。
作りとしてはこっちの方が丁寧で、出来上がりも綺麗だ。黄色い液体に細かいミントの葉っぱが漂う姿はなかなかに涼やかだ。
一方、大規模なお店(ビーチにあるようなバーとか)だとこれがもっと大雑把になって、皮をむいて種を取ったレモンと大量のミントの葉っぱ、砂糖シロップを全部ミキサーに入れ、少し水を加えてガーッとやってしまう。
こっちはなんだかすっぱい青汁のようなものができるのだが、ちゃんとミントが強く香ってやっぱり美味しい。
ちなみに、コーシャーがあるにも関わらず、イスラエルの人はお酒が好きだ。
本当かどうかはわからないが、ガリルという名前のイスラエルのアサルト・ライフルには備品としてビールの栓抜きまでが付いているという。
そういうわけで、レモナーナも当然アルコール入りバージョンが存在する。
ただし、加えるお酒にはちゃんと決まりがあって、何を入れてもいいというわけではない。
基本的にはリコリス(甘草)ベースの日本人が苦手なタイプのお酒。具体的にはペルノーとか、あるいはアブサンとかのタイプのお酒だ。
これをフロートスタイル(上にアルコールを浮かせる)で供する。混ぜるのはお客さん次第。混ぜないで飲みながら混ざっていくのを楽しむ人もいれば、よく混ぜてから飲む人もいる。
イスラエルで飲む場合にはこのお酒はアラックに決まっている。中近東を中心に作られているお酒だが、イスラエルでも人気が高い。
余談だが、リコリスベースのお酒には面白い特徴があって、水と混ざると白濁する。
なので、アブサンの正しい飲み方は水とアブサンを半々に水で割って飲むというものなのだが、これは本当に余談。ただ知っていると少しバーで威張れるかも知れない。
白濁するのはアルコール入りのレモナーナも同様で、アラックが入った状態でよく混ぜるとレモン色のカルピスみたいな色になる。そこにミントの葉っぱが漂う姿は風情があると思うか気味が悪いと思うかは人それぞれだろう。
僕はその日の夜、友達とバーに飲みに出た。
日中は暑かったが、地中海を渡ってくる夜風は涼しくて気持ちが良い。
例によってイスラエルのバーテンダーはハンサムだ。だが、今日のバーテンダーはフレンドリーで怖い感じはしなかった。
「何をお出しいたしましょうか?」
「レモナーナ、アラック浮かせて」
「お客様、失礼ですが、どちらから?」
「東京だけど?」
「それは通でいらっしゃる。思いっきりサービスさせていただきます」
サービス?
カクテルにサービスもクソもないだろう。
「サービスって何だろう?」
隣の友達(誰だったか忘れた。僕は薄情だ。赤ワインを飲んでいたことだけは覚えているので、きっとホモのアサフだった気がする)に尋ねる。
「さあ? 見てみよう」
見ていると、バーテンダーは大量のミントの葉っぱを砂糖と一緒に小さな野球のバットのような棒を使ってグラスの中で押しつぶしていた。モヒートと同じ方法だ。
これは期待できる。仕事が丁寧だ。
やがて満足できるだけの量が出来たのか、バーテンダーは氷を加えたグラスの上からボトルに入ったレモンジュースを加えた。だが、やや、量が少ない。
これをまたえらく丁寧な手つきでバーテンダースプーンを使ってよく混ぜる。
上にはまだ2センチから、3センチくらいの隙間がある。
バーテンダーはグラスをくるくるするのをやめると、バックバーからアラックのボトルを取り出した。
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