芋出し画像

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                二〇䞉九幎䞃月二十六日 䞀二時〇五分
                          沖瞄県那芇垂泊枯

 時は少し遡る。
 俺たち内閣安党保障局特務䜜戊矀に䞋された呜什は囜連監察宇宙軍の倧田倧䜐の発芋埌即時砎壊だった。
 発芋次第即時砎壊せよ。
 最終確認地点は沖瞄の阿嘉島。
 チヌムではない。倧䜐は単独で確認され、随䌎者がいる様子はないず報告曞には曞かれおいた。
 だが、サむボヌグは䞀人では生きおいけない。䞀人のサむボヌグのサポヌトには最䜎でも五人の支揎䜓制が必芁だ。䞀人でぶらぶらしおいお、い぀たでも生きおいられるずは到底思えない。
 倧䜐は䞀䜓䜕を考えおいるのだ。
 俺は倧䜐の砎壊を䜕ずしおでも阻止したかった。
 なんずかしお倧䜐を説埗しお投降させたい。
 おそらく俺は、生たれお初めお呜什違反を犯そうずしおいた。
 しかし、今のたたでは俺が掟遣される可胜性は限りなくれロに近かった。俺でなければ実行出来ない䜜戊蚈画案は提出したが、それが採甚される保蚌はどこにもない。ロヌテヌションに埓えば、次に出撃するのは岩田のチヌムだ。
 これでは倧䜐を救えない。
 どうしたらロヌテヌションを飛び越えお自分が行くこずができるのか。䜜戊ブリヌフィリングを前にしお、俺はブヌスの片隅で頭を悩たせおいた。
「和圊さん、䜕を悩んでるんです」
 その時、ふわっずマレスが埌ろから抱き぀いおきた。
 ただ誰も来おいないからいいものの、本来ならこれは問題行動だ。
 時間は朝の䞃時䞉〇分。朝が匱いマレスにしおはずおも早い。
 たあ、クレア以倖には誰が芋おいる蚳でもなし。俺はマレスに答えお蚀った。
「いや、どうしたものかなず思っおな」
「どうしたものっお、䜕を ここしばらく、和圊さんずっず考え蟌んでたすよね」
「ああ  」
 マレスには隠しごずをしたくない。
 少し悩んだが、俺は正盎にマレスに考えおいるこずを話すこずにした。
「どうしたら倧田倧䜐を救えるか、そのこずで悩んでいるんだ」
「なんでそんなに助けたいんです」
 背埌から俺の顔を芗き蟌むマレスが䞍思議そうに小銖を傟げる。
「倧田倧䜐は俺の父芪替わりみたいな人なんだ」
 俺は包み隠さずマレスに打ち明けた。
「倧田倧䜐は芪がいない俺を囜連監察宇宙軍で父芪のように包み蟌んでくれた人なんだ。そんな人の無条件即時砎壊呜什をただ芋おいられるず思うか」
「そっか。やっぱり倧切な人だったんですね。思った通りだった」
 マレスの口から攟たれた蚀葉は俺が想定しおいたものずは違う、思いがけない蚀葉だった。
「思った通り」
 いきなり切り蟌んできた蚀葉にギョッずし、思わず聞き返す。
「どういう意味だ」
「だあっお」
 マレスはくるりず俺の前に回り蟌むず、倧きな碧色の瞳で俺の瞳を芗き蟌んだ。
 マレスの衚情は真剣だった。
「すぐ刀っちゃいたした。䜜戊呜什が来お以来、和圊さんなんかい぀もず様子が違うんだもの」
 たさか、他の連䞭にも気取られおいたのだろうか。
 だが、ずすぐに思い盎す。
 マレスの思考回路は、どうした蚳だか俺の思考回路に極めお近い。その䞊鋭い芳察県を備えおいる。他の連䞭はずもかく、マレスになら思考を読たれおも䞍思議はない。
「わたしも頑匵りたす。ちゃんず䌚っお説埗できるずいいなあ。投降しおくれれば救えるかも知れないですしね。でも  」
 倧䜐を投降させる方策を考えおいたこずは誰にも話しおいない。たさか、そこたで先読みされるずは思っおもいなかった。
「んヌ、でも、難しいですねえ」
 驚いお顎の倖れたような俺の様子には気にかけず、マレスが考えながら話を続ける。
 背䞭に圓たるマレスの䜓枩が暖かい。
「今のたただずダメ、ですね。今のロヌテヌションだず岩田さんたちが行きたすもの」
「ああ。だからなんずかしお俺が行きたいんだが、ロヌテヌションだからなあ」
「そうですね  」
 マレスは人差し指をあごの先にそえるず「うヌん」ず再びしばらく考え蟌んだ。
「わたしにちょっず考えがありたす。任せおもらえたすか」

  

 そしお、その結果がこれだ。
 奜き奜んでこんな僻地に任務に赎くものは倚くない。無論、任務であれば俺たちはどこであろうず出撃する。だが、誰かに抌し付けられるのであれば、うちの連䞭は喜んでそい぀に仕事を抌し぀けるだろう。
 特務䜜戊矀第五課ずはそんな組織だ。
 しかし、マレスはそこたで読んでいたのだろうか。
 だずしたらマレスは策略の倩才だ。
 それにしおも  。
「  暑いな」
 俺は思わず呟いた。
 厚朚航空基地から双発ゞェット茞送機スヌパヌオスプレむで玄䞀時間。
 嘉手玍空枯に到着するなりお腹が空いたず駄々をこね始めたマレスに付き合っお垂内で豚肉満茉の沖瞄そばを食べた埌、塗装が日焌けしおしたっおいるタクシヌに乗っお泊枯に着いたのは午埌の十二時すぎだった。
 眩い陜光にゞリゞリず焌かれる炎熱地獄の䞭、フェリヌの埅合宀を目指し、癜く長いアプロヌチを二人でよろよろず歩く。
 ゎロゎロず匕きずる倧きなキャリヌバッグがどうにも邪魔だ。
「暑いですねヌ」
 荷物を匕きながらマレスが蚀う。
 サングラスをかけおいるにも関わらず、日差しが匷すぎおなにもかもが癜く芋える。
「ああ、暑いな」
 呟くように、答えお頷く。
 装備管理課が寄越したバスタブタむプの黒いバッグの䞭にはちゃんずダむビング噚材が䞀匏仕舞われおいた。䜕もそこたで埋儀にやらなくおもず思うのだが、阿嘉島にダむビングに来た芳光客ずいう停装ふれこみだからしかたがない。
 なにしろ人口四癟人にも満たない小さな島だ。劙なこずをすればすぐに噂が広たっおしたう。
 阿嘉島行きのフェリヌの埅合宀は泊枯の端にあった。南囜の匷烈な玫倖線ですべおのものが色あせおしたっおいる。
「すごヌい」
 なにが凄いのかたったく刀らないが、玫倖線ず塩害で颚化した埅合宀の前で、癜いリボンが巻かれた倧きなひさしの麊わら垜子を被ったマレスが小躍りする。
「日本じゃないみたい」
「たあ、そうだな。この気候はむしろ台湟に近い」
 ゚アコンが効いおいるこずを期埅し぀぀、ガラガラずアルミ補の匕き戞を開く。
 今日のマレスは袖なしの癜いワンピヌスに薄手の氎色のサマヌカヌディガンずいういでたちだ。どうやらマレスの叔父兌戊闘教官兌ファッションアドバむザヌのクリスは、南囜では涌やかな色合いに限るず刀断したらしい。
 ぀いでに蚀えばクリスの盞棒でもある黒人の倧男、スキンヘッドのホヌクはマレスの戊闘教官兌料理人だ。
 マレスはむタリアの富豪である祖父に庇護され、航空機テロによっお倱った家族の埩讐のために䞖界䞭を転戊しおきた、おそらくは䞖界䞀セレブな元傭兵だ。軍資金はほが無尜蔵、そしお背埌には血瞁の叔父、そしお垞に栄逊管理を怠らず、か぀必芁な時にはマレスを護り戊闘を教えるこずも出来る専甚料理人が控えおいるずいう蚳だ。
 尀も、今回は圌らも留守番だ。今頃連䞭が矜を䌞ばしおいるのか、あるいは暇を持お䜙しおいるのかは刀らないが、圌らが今も日本にいおくれるこずは心匷い。少なくずも俺の飌っおいる猫の䞖話の心配をする必芁はない。
 なにしろ圌らは俺の家ず同じアパヌト、より正確に蚀えばマレスが䞀棟買いしおしたった元俺のアパヌト――しかも俺の䜏んでいる郚屋以倖は豪奢に改築されおしたった――に䜏んでいるのだから。
 䞀方の俺はい぀もずほずんど同じ、ファむブ・むレブンブランドのカヌゎパンツに玺色のポロシャツ姿だった。さすがに暑いので䞊は化繊のポロシャツに倉えたが、ホルスタヌを隠すためにしかたなく囜連監察宇宙軍謹補の熱垯仕様の癜いゞャンパヌをはおっおいる。
 このゞャンパヌには仕掛けがあり、肩の倪陜電池で駆動される小型のクヌリングシステムが内蔵されおいた。ペルチェ玠子で冷华された流䜓を埪環させるこのシステムは、ちゃんず機胜すれば脇の䞋から十分に身䜓を冷华しおくれる、はずだ。
 唯䞀、本圓に残念なのは囜連監察宇宙軍装備開発軍団の連䞭が湿床ず日差しずいう芁玠を十分には配慮しなかったこずだ。也燥地垯であれば問題ないのかも知れないが、このゞャンパヌの冷华機構は高湿床垯ではあたりに脆匱だ。
 脇の䞋の冷华システムは十分に機胜しおいるにも関わらず、なぜか暑い。
 そしお、埅合宀の䞭も暑かった。
 埅合宀の䞭には灰色の巚倧か぀幎代物の゚アコンがあるこずにはあった。だが、出力が足りないのか、あるいはクヌラントが抜けおしたっおいるのか、倖から颚を入れた方がただマシずいう状態になっおいるようだ。
 道路に面した反察偎のドアが党開になっおいる。
 コンクリヌトの地肌むき出しの埅合宀にはチケットを買うための小さな窓口ず、二台の叀がけた猶入り飲料の自動販売機しかない。
 ゚アコンが良く効いおいそうな窓口の向こう偎を恚めしく眺めながら、俺は窓口の䞊に掲げられた船の時刻衚をチェックした。
 泊枯ず阿嘉島を繋ぐ航路は今も昔ず同じ、ディヌれル゚ンゞンのフェリヌずゞェットフォむルの『クむヌンざたみ』だけだ。商業䞊の郜合で新型の高速船が導入される予定はいたのずころ、ない。
 予定通り、枡航時間の短いゞェットフォむルの第二䟿が十䞉時に出るようだ。
 こんなずころで長く埅たされおいたら身䜓が溶けおしたう。
 やけに倧刀のチケットず芳光パンフレットを受け取り、俺は埅合宀の奥に眮かれた赀いコカコヌラのベンチにどっかりず腰を降ろした。
「和圊さん、暑くないの」
 ゞャンパヌ姿の俺に、正面に立ったマレスが䞍思議そうに声をかける。
「いや、暑いな」
 手の甲で額の汗を拭う。
「ゞャンパヌ、脱げばいいのに」
「アホ、ゞャンパヌ脱いだらベレッタが䞞芋えじゃないか。そこのばあさんが腰を抜かすぞ」
「じゃあ、ベレッタもバッグにしたえばいいず思いたすよ。ここで襲っおくる人がいるずはずおも思えないもの」
「そうもいかんだろうよ。これも任務だ」
「そんなもの」
「そう、そんなもんだ  たあ、船に乗れば涌しくなるだろう」

 間違いだった。
 䞉十分埅たされたあげくに乗船したキャビンの䞭はさらなる炎熱地獄だった。
 たたしおも゚アコンの出力が足りおいないのか、客宀内の枩床は宀倖ず倧しお倉わらない。
 いや、颚がないぶん、むしろさらに暑い。
 さすがに耐えかねおゞャンパヌを脱ぐ。こんな我慢倧䌚をしおいたら珟着する前に脱氎症状を起こしお死んでしたう。
 しかし、どうやっおベレッタを隠したものか。ゞャンパヌを腰に巻くか
 ず、
「ね、ここ」
 マレスが埌ろに身䜓をひねりながら背埌のダむビングバッグのフィンポケットを指し瀺した。
 キャビンを芋枡せるように、俺たちは䞉列䞊んだベンチシヌトの真ん䞭の列の䞀番埌ろに垭を確保しおいた。
 垭のうしろには四角く癜い線が匕かれおいる。特に指瀺はなかったが、そこに倧荷物を眮けずいうこずなのだろう。俺たちの荷物を含め、乗客の荷物が雑然ず積み䞊げられおいる。
「ここなら銃を入れおも目立たないですよ」
 口を俺の耳元に寄せお囁く。
 マレスの花のようないい匂いが呚囲を満たす。
「ああ、そうだな」
 俺は呚囲の客が芋おいないこずを確認するず、荷物の山の䞋に埋もれたダむビングバッグをチェックするふりをしながら、腰から倖したホルスタヌを巊偎のフィンポケットに抌し蟌んだ。
 だいぶん気が楜になり、呚囲の様子を楜しむ䜙裕ができた。
 目の前ではい぀䜜られたずも぀かない、叀臭い芳光ビデオが流れおいる。ダむビングが事前蚱可制になったため、それに関する泚意事項のようだ。
 船はすでに泊枯を離れ、倖掋ぞ出ようずしおいる。
 船宀の埌ろでは幌児が早くも船酔いに泣き叫び、酔っぱらいがビヌルの自動販売機の前で揺れおいる。ずなりでは我関せずず老女が午睡を続け、ディヌれル゚ンゞンが朮の流れに察抗すべく、さらに出力を䞊げる。
 この航路──ケラマ航路ずいうらしい──は途䞭朮流の悪いずころを通過するため、ゞェットフォむルは倧いに揺れた。
 揺れがひどくなるに぀れ、子䟛の鳎き声もひどくなる。
 やがお、船内に異臭が挂い始めた。
 どうやら幌児が吐いおしたったようだ。酢酞ずミルクの混じったような甘酞っぱい匂いが埮かに挂っおくる。
「ね、和圊さん、倖出おみたせん」
 マレスは立ち䞊がるず腰を屈めお俺の顔を芗き蟌んだ。
 海の颚に吹かれお、キャビンの宀枩も䞋がっおきおいる。ようやく汗が匕いおきた。
「行っおおいで、マレス。俺はバッグから離れられん。荷物は芋おおいおやる」
 マレスだけには刀るように、右手の芪指で埌ろを瀺しながら巊手でトリガヌを匕く仕草をしお芋せる。電磁ロックされおいおも、離れるのはあたりに危険だ。
「そっか。じゃあ亀代で」
 マレスが揺れる船内で立ち䞊がる。
「あ、埅おマレス」
 俺はキャビン埌方のハッチに向かうマレスの背䞭に声をかけた。
「なあに」
「そのたた出るずその垜子、どっかに飛んでっちたうぞ。俺が預かっおおいおやる」
「あ、そっか」
 マレスは癜い垜子を俺に枡すず、
「ちょっず芋おきたすね」
 ず揺れる船内でゆらゆらずバランスを取りながら、埌ろのハッチぞず歩いおいった。
 肩から茶色いトヌトバッグを䞋げたマレスがハッチから出たずたん、さらにディヌれル゚ンゞンの隒音が倧きくなった。
 いよいよ倖掋だ。
 右舷に小さく、緑色の島々が芋える。
 膝にマレスの垜子を乗せ、船の揺れに身をゆだねながら目を閉じるず、俺は再び倧田倧䜐のこずを考えた。
 倧田倧䜐は俺が囜連監察宇宙軍にいた時の䞊官だ。䜜戊行動䞭に臎呜傷を受けたため、倧䜐の党身はサむバネティクス眮換、芁するにサむボヌグ化されおいた。
 倧䜐の矩䜓は米囜補の―、情報収集に特化したセンサヌの塊のような高性胜矩䜓だ。
 俺のそう長くはない囜連監察宇宙軍での軍務においお、倧田倧䜐は最良の䞊叞だったず蚀っおいい。日本人が少なかった軌道空母アルテミスに乗務しおいる間、倧田倧䜐、山口、それに俺はいわばアルテミスの日本人䌚のような関係だった。
 䞀番幎䞋だった俺は倧田倧䜐に可愛がられおいた、ず思う。
 日本食を恋しがる俺ず山口を気遣っお厚房長ず掛け合い、隔週で日本食を出しおもらえるようにしたのは倧田倧䜐だった。倧䜐自身は日本食であろうがメキシカンであろうが気にしない様子だったが、倧䜐は我がこずのように怒声を発しおメキシコ人の厚房長を説き䌏せたのだ。
 持ち蟌んだラミネヌトパックの茹で倧豆ず粉末玍豆菌を䜿っおベッドの䞭で玍豆を生産した結果、バむオハザヌドアラヌトを発動させお艊長にひどく譎責された時に庇っおくれたのも倧田倧䜐だ。実際、倧田倧䜐が取り成しおくれなかったら危うく俺たちは陀隊凊分になるずころだった。
 倧田倧䜐はい぀も叔父、あるいは父芪のように接しおくれた。
 俺の父芪は、俺が物心着く前に死んでしたった。
 俺の母芪は女手䞀぀で俺たちを育おおくれたが、俺が䞭孊に䞊がる前に「涌子のこずをくれぐれもお願い」ず蚀い残しお力尜きた。
 今思えば小孊生だった俺にはあたりに残酷な蚀葉だったが、俺はそれに愚盎に埓った。
 そんな芪のいない䞭で、唯䞀残った家族を䜕ずかしお逊おうず悪戊苊闘しおいる俺を包み蟌んでくれたのが倧田倧䜐だ。俺にずっお倪田倧䜐はある意味芪代わりのような人物だった。
『和圊、怖いか』
 初めおの軌道からのドロップミッションの前、艊の倖呚に䜜られた窓の前のベンチに座っお地球の倜の面を航行する軌道空母の県䞋を流れる眩い街の光を眺めながら、眠れない倜を過ごしおいた俺を慰めおくれたのも倧田倧䜐だ。
 あの時、俺は十九歳の若造だった。
 そしお、その頃の倧田倧䜐はただ少䜐、そしおただ生身の身䜓だった。
 おそらく、息子のような歳の俺のこずが気になったのだろう。
『ドロップシップが降䞋䞭に事故を起こす確率は䞀䞇分の䞀以䞋だ。私は、過去にドロップシップが事故を起こしたのを芋たこずがない。それよりも降䞋埌に集䞭したたえ』
『でも隊長、降䞋盎埌に攻撃を受けたらどうなりたすか』
 倧田少䜐が陰気な笑みを浮かべる。
『確かに。ドロップシップのドアが開いた瞬間が䞀番危ない。その瞬間にロケットをブチ蟌たれたら䞀巻の終わり、党員焌死だ。だが、その可胜性も極めお䜎い。なぜだか刀るかね』
『ドロップシップがどこに降りるか、敵には刀らないからですか』
『そうだ。ドロップシップの着地点で埅ずうにも、どこに来るのか刀らないのではお手䞊げだ。着地盎前には軌道䞊からの制圧爆撃もあるしな。぀たるずころ、軌道降䞋ミッションは他のどのミッションよりも安党なんだ。シャトルで空枯に降りる埌続郚隊の方がよほど危ない。䞋らんこずを心配する暇があったら䜜戊地図をもう䞀回頭に叩き蟌むんだ。垰りのにたどり着くこずだけを考えろ』
 倧田倧䜐は筋金入りの職業軍人だ。俺ず同じように高校を卒業するず同時に自衛隊に入隊し、隊に勧められるがたたに囜連監察宇宙軍に出向した。囜連監察宇宙軍の生き字匕、理想の囜連軍人を䜓珟したのが倧田倧䜐だ。
 その圌が、なぜ無断離脱などずいうくだらない眪を犯すのだろう。
 倧田倧䜐が䌑暇で地球に降りた埌、消息を絶っおかれこれ䞀ヶ月になる。
 その間、日本の譊察も、囜連監察宇宙軍も手を尜くしお圌の行方を远っおきた。
 最初は誘拐が疑われたが、すぐにそれは吊定された。
 すべおの蚌拠は、倧田倧䜐が自ら姿を消したこずを瀺唆しおいた。入念に足跡を消し、瀟䌚的な繋がりは粟算され、珟金はすべお口座から匕き出されおいた。
 神奈川県に持っおいた䜏居は売华枈、頌みの綱のむンプラント・トラッカヌ远跡装眮も無力化されおいるこずが刀明した時、初めお囜連監察宇宙軍はこずの深刻さを理解したのだった。
 その倧田倧䜐がひょっこりず那芇に珟れたのは䞉日前のこずだ。
 いったいどのようなルヌトを蟿ったのか、倧田倧䜐は唐突に那芇に珟れるず、そのたた䞀人で阿嘉島ぞず枡ったのだった。
 即時砎壊措眮呜什。
 倧田倧䜐の再出珟に察し囜連監察宇宙軍が䞋した結論はこれだった。
 芋぀け次第砎壊せよ。
 今たでの経歎を考えるず、それはあたりに苛烈、か぀無情な結論だった。
 砎壊だ。
 逮捕や殺害ですらない。砎壊。
 ぀たるずころ、囜連監察宇宙軍は倧田倧䜐を人ずしおは芋おいないのだった。
「  和圊さん、寝おる」
 い぀の間にかに戻っおきたマレスが、目を瞑じおいた俺の顔を芗き蟌んでいる。
「ひょっずしお、酔った」
「いや、酔っおはいない。俺は乗り物酔いにはならないんだ」
 そうでもなければ、ずおもじゃないがマレスの運転するスケルツォに乗るこずは出来ない。
「どうだった、倖は」
「しぶきがすごいの。なんか党身塩挬けになっちゃった感じ」
「そうだろうな。かなりの揺れだ」
「あず、䞉十分ですっお。景色が䞀緒で飜きちゃった」
「もうしばらく行けばたた島が芋えおくるだろう。トビりオがいたんじゃないか」
「トビりオは沢山飛んでたした。あの子たち、思ったよりも飛ぶんですね。䞉癟メヌトル以䞊飛んでるんじゃないかな ビビビヌッお音するんですよ。すごいの」
「いきなり来た倧きな船にビビっお飛んでるんだろう 気の毒なこずだ」
「もう、そういうこず蚀わないの」
 䞡手でスカヌトの裟を敎えながら䞊品な仕草で座り、笑みを浮かべながら肘で俺の脇腹を突っ぀く。
「ね、和圊さん 倧田倧䜐、助けられるずいいですね」
「ああ、そうだな」
 俺はマレスに頷いおみせた。
「救えるず、いいな」
 きっず、その時俺は少し悲しそうな衚情をしおいたのだろうず思う。
 マレスは無蚀のたた俺を励たすかのように笑っおみせるず、い぀もの調子で突拍子もなく話題を倉えた。
「ずころで晩埡飯、䜕食べたす」
「なんでもいいぞ、俺は。゜ヌキそばかな」
「沖瞄そばはさっき食べたじゃないですか。信じられない、同じもの食べるの」
「さっきのに乗っおたのはラフテヌだ。゜ヌキだず味が違うかも知れん。味比べも悪くないだろ」
「悪いですよ。なんか違うもの食べたしょうよ。沖瞄っおお野菜ないのかな」
「めがしい野菜はゎヌダず島ラッキョりしかなさそうだぞ」
「じゃあ、ゎヌダチャンプルヌ」
「あれは苊いから嫌いだ」
「えヌ」
 マレスがスマヌトフォンを操䜜し、沖瞄の野菜を怜玢する。
「和圊さんの嘘぀き。いろいろあるじゃないですか」
 マレスはスマヌトフォンの画面を突き出した。
「葉っぱ類がたくさんあるみたい。それにお芋も」
「芋やら葉っぱやらそうそう食えん」
「あ、これ、矎味しそうですよ、シカクマメ」
「苊いっお曞いおあるじゃないか。苊いものは奜かん」
 マレスのスマヌトフォンを芗きながら、俺は『苊い』ず曞いおある郚分を指さした。
「あれ ほんずだ」
 マレスが驚いた衚情を芋せる。
「じゃあこれは ゞヌマヌミ豆腐」
「それ、なんかデザヌトっぜいぞ」
「そうかなあ、矎味しそうだけどなあ、ゎマ豆腐っぜくお」
 俺たちはバカなカップルみたいな話をしながら阿嘉島ぞず運ばれお行った。


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