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黒いターゲット

 また、敵が来た。
 俺は読んでいた小説にしおりを差すと、リビングのソファから静かに立ち上がった。
 連中は集団で活動する。見敵必殺、見かけたら必ず殺す。
 敵は今、何かを狙ってゆっくりと歩いている。距離、三メートルといったところか。でかい。これは大物だ。
 だが、まだ動くには時期尚早だ。
 敵が立ち止まった時、そこを一気に叩く。
 俺は得物を右手に、少し姿勢を低くした。
 今の得物は今までの経験から導き出された最適解だ。
 また敵が動いた。
 バカめ、うかうかとこちらに近づいてくる。あと二メートル。ここが我慢のしどころだ。
 こいつは絶対に逃してはならない。こいつはでかい。絶対に斃す。
 万が一逃したらあっという間に増殖、仲間を呼んで俺のファミリーの縄張りに侵食する。万難を排してそれだけは阻止しなければならない。
 一歩、またもう一歩。ジリジリと摺り足で間合いを詰める。
 得物を握り直し、攻撃態勢へ。
 勝負は一瞬だ。もししくじれば奴は高速モードに移行して事態は一気に悪化する。
 つと、敵の動きが止まった。
「死ねッ!」
 ガバッと腕を振り上げ、一気に得物を振り下ろす。
 敵が気絶する絶妙な力加減。
 スパンッ
 軽快な音がキッチンに響く。
「……殺ったか?」
 恐る恐る得物を持ち上げて床に目を凝らす。
 そこには俺が振り下ろしたスリッパに叩かれた大きなゴキブリが潰れていた。

ー了ー


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