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いかしあう関係性のデザイン

パーマネントライフを求めて次に僕らが向かったのが、アメリカ-シアトルにあるオーカス島のパーマカルチャーサイト「Bullocks Permaculture Homestead(略BPH)」でした。ここを運営するブロックス兄弟は、およそ40年前にこの広さ10エーカーの土地を取得。海に囲まれた地中海性気候、岩場の多い南向き斜面で、元々はワイルドベリーが鬱蒼とした放棄地でした。今では林檎、プラム、洋梨、葡萄といった多種多様な果樹が植わった立派な農園で、国際的なパーマカルチャーの実践者が集い、廃棄物の広範囲な利用から、食べ物への愛、様々なスキルを身につける研修場でもあります。

最近知ったのですが、パーマカルチャーは「いかしあう関係性のデザイン手法」と言われています。持続可能な農的暮らし云々より、だいぶ具体的ですが、これもまたいまいち直ぐに理解できずにいました。
今回の旅を通して僕が見たパーマカルチャーの側面を、この文脈から切り取ってみたいと思います。

BPHのフードフォレスト。たくさんの果実が道沿いに実っている。

消費者から生産者へ

彼らのとろこで一週間ほどお世話になった僕の体は、すっかり土地のものでした。
BPHでは殆どのシステムが閉鎖系を目指しています。食べたものは人間の消化器官を通って排泄された後も堆肥として循環されるように設計され、菜食を続けている限り殆ど外部から物を買ってくることを必要としません。幾千ものプロセスを経て、数年後には自分に戻ってくるものを生産している実感があります。
人間社会では僕らは「消費者」と呼ばれますが、周りを見渡すと林檎の木もその木の上に登ったリスも土の中のミミズも、すべでが消費者であり生産者ではないですか。消費者とは、人間が作り出した幻想なのかもしれない、そして僕が何を生産(いかされる)していくかは、僕が出したものにかかっている。そう感じ始めました。

テクノロジーの再定義

BPHを散歩していると、沢山の小さな小ネタに気がつきます。キッチンの排水口は5ルートのパイプとつながっていて、順番に果樹の水やりと養分の補給に使われていたり。緑色に塗られた小石が並んでいると思ったら、実はカメの産卵箇所だったり。池から水を汲み上げるポンプが、太陽光パネルで晴天時だけ機能するように設計されていたり。さらには、廃材の缶を加工して作った手作りのロケットストーブも、ロッジに張られているテントも、バケツのみのコンポストトイレも、かなりのローテクに見えます。
小ネタとローテク。最初の印象は原始的で、近代の生活にそぐわない様に思えました。
しかしよく見ると、それぞれの技術が単体ではなく、複雑に他のモノやヒト、技術に絡み合うように関係していることが見えてきました。例えば、人が集まるロッジの隣には大きなビニールハウスの温室があります。温室は苗を育てたり、ある程度の暖かさを必要とする植物のために作られます。しかし、ここではロッジで集めた果樹を保存のためにドライフルーツにする乾燥機として。その作業場として。冬場はミーティングの会場として。さらには奥には手作りのサウナ(BPHで最も僕らが愛用した!)があり、温室こそが最も多面的に使われる場所になっています。
今の技術製品は、省エネルギーといってアンペアとワットでしか物事を見ることができなかったり。断熱性能といって、単体の技術向上でしか見ることができず、多面性に欠けます。もしもエアコンから出る排熱が別の植物にとって好都合だったらとか、どれだけの人が考えるでしょうか。人間だけでなく他の動植物の労働とも関係させながら、全体性を持って機能させるには、どんな技術が必要でしょうか。

絶景のブリースシャワー。ホースが突き出しているだけの簡易的な作り。

土地を観察すること

BPHは冬に多くの雨が降り、夏に乾燥する地中海性気候の特徴を持っています。しかし、細かく土地を見ていくと全体の敷地の中でもさらに細分化された特徴が見えてきます。ブロックス兄弟がこの土地に来た時に最初にやったことは、低地にあった窪地を閉じることでした。するとよく年には大きな池が復活し、その周りには湿地帯が出現、たくさんの生命がここから生まれていきました。
また、南斜面にそそり立つ大きな岩場がある場所では、岩が熱を蓄熱するために別の植生が見られるようになります。研修生だった頃の海くんが植えた岩場のサボテンも、今も生き生きとその場で育っています。
土地を観察することで、この土地が何を求めているかがわかる。このことはあまりにも普遍的すぎて、退屈にも思えます。しかし、逆を返せばパーマカルチャーの原則は全て自然の観察から来ていて、観察を進める方法であったり、大きく失敗しないためのアイディアが補助的に付け加えられているにすぎないのかもしれません。
自然は何かを起こせば、何かを返します。この細かなフィードバックの読み込みを繰り返し、土地の能力を最大化させる関係性を作ってきたのが、BPHのデザインだったのです。

接木による繁殖

僕らが驚いたのは、植わっている果樹の実が本当に美味しいということ。これまで食べたことがないくらい甘く、安全で、いつでも手が届くという体験は衝撃でした。こうしたことが可能なのはいくつか理由があるかと思いますが、代表的な取り組みを紹介します。
一般的に、果樹を育てるには苗を買ってくるか、接木という手法をとります。接木はすでに育っている木(台木)の枝を切り、育てたい木の形成層の一部をくっつけて成長させる方法です。なんだか継ぎ接ぎのフランケンシュタインのようなイメージですが、これには良い点がたくさんあります。
BPHでは多くの果樹が接木によって増やされています。繁殖能力の高いcrabappleの木に、別の甘みのある林檎を接木。収穫が早くなり、毎年甘い林檎が得られるようになります。さらには台木がこの地域で繁栄し根茎を確立しているため、接木された甘い林檎の木は力強く生きていくことができます。
また、ある種の小枝を別の種の台木に移植する手法である種間移植の実験も行っています。 たとえば、おいしい西洋梨の品種を、一般的なサンザシの上部に接ぎ木します。こうすることで、シカに強く、 灌漑を必要としない西洋梨を作ることが可能になります。

接木された接合部分。一つの樹木に3種類の果実を実らすこともある。

お金のいらない生活

BPHに滞在した一週間。僕らは後になって全くお金を使っていないことに気がつきました。もちろん最初にある程度まとまった額のお金を払うことが決まっていたのですが、そういうことではなく、お金というものが意識の底から消えていたという事実に驚きました。
店頭に並ぶプラムが何ドルなのか、高級なのはどちらか、という比較の評価経済の中で生きていくことから離れられたのです。目の前にある熟れたプラムを見つけては、その場でもぎ取って食べ、タネを捨てる。もはや他の野生動物と同じように直感的に今を生きていたのです。
何人かの滞在者は、この違いに悩みました。普段自分がとっている行動の市場価値に敏感な人ほど、頭の片隅に違和感を抱えました。しかし、きっとこの違和感こそ大切な道筋です。
この滞在は多くの関係性によって成り立っていました。この場に連れてきてくれた人、その人の古くから積み重ねてきた信頼とつながり、研修生の手作りの食事、太陽からのエネルギーを受けて育った植物、羊、羊を育ててくれた人、etc…こうした人たちの多くの恩や愛情が価値をつけがたいものを作り上げてくれています。
美味しいプラムにお金を支払いたいなら、本当は太陽と土、微生物に払わなくてはなりませんが、こうした者たちには払うことすらできません。
こうした多くの価値をつけ難い価値が、目に見えていけばいくほど、お金は影響力を失っていくのを感じました。

いかしあう関係性のデザイン

「いかしあう」とは、人や動植物やモノ・技術はみな活かされうる多面的な能力を持っているという前提にたち、お互いに関係し合うことを意味しています。人間の排泄物は、別の植物の資源になる。果物を保存する技術は他のモノにも関係する。こうした絶えず変化し、絡み合うネットワークの手を結ぶことがパーマカルチャーの視座なのでしょう。
今回も旅を楽しんだ息子のタラ。8本目の歯も生え、林檎や洋梨を皮ごと食べれるようになりました。果物は熟れて地面に落ちたものが最高に糖度が高くて美味しいことを覚え、拾い食い。
やっぱりパーマカルチャーは美味しい!!


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