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経験をシェアする話

去年(2021年)くらいから奥田達郎建築舎/設計事務所に、インターンを希望してくれる学生さんが増えてきた.

その中で、特にフィーリングの合った一人に今年の春からスタッフとして働いてもらうことになり、今1ヶ月と少し経過した.
初めてのスタッフが新卒だったこと、僕自身の不安もあったけどその不安がポジティブな感情になってきた.
チームを育てること、一緒に何かをする仲間と経験をシェアしていくことの豊かさを綴ろうと思う.


インターン(オープンデスク)とは

1人で設計事務所をしているのに、インターン(職場体験)生を受け入れることは、普通に考えると手間がかかって仕方ない.

いわゆる設計事務所ではオープンデスクとして膨大な模型作りの作業を担うことはあるが、僕の事務所はガシガシ模型をつくってスタディ(造形の検討)をしたり、右も左もわからない学生さんに色々指導するスタッフがいないので、インターン生がきたら、できそうな仕事を用意したり、お施主さんの要望や敷地の条件を丁寧に説明して設計プランを検討してもらったりしている.

この作業は、事務所の仕事が軽減されるというより、むしろ仕事が増えている.笑

それでも積極的に受け入れたいと思う理由は、違う時代に学生という時間を過ごして、違う価値観を持つ年代の人と、2週間のあいだ濃密に時間を共有することで、僕自身も考え方や感じ方を身をもって知ることができるからだ.


 他世代の価値観を知る

その価値は、大学時代行っていた文化人類学の参与観察から、学んだことが大きい.
参与観察とは、自分とは違う価値観を持つ他者のグループに自分自身がその一員となって入り込み観察することをいう.

客観的にそのグループを観察することと、主体的に入り込んで観察することでは気づきが全く異なる.

例えば、一夫多妻制はインフラの整った日本社会に住んでいると節操がないハーレム生活みたいに思えるかもしれないが、毎日水を何時間もかけて汲みに行ったり、生活する上で様々な労働力が必要な環境では、家族を増やして子育てをする方が合理的だし、女性にとっても家事の担い手が多い方が楽になる。入り込むことで、そのことに気づくことができる.

また、昨今時代の流れが早いので、自分より年下の世代から学ぶことはとても多い。デジタルツールが増えたことで生まれた新しいコミュニケーションの取り方はむしろ若い世代の方がネイティブだし、将来についてどんなことを考えているか聞くと「なるほど〜」と思うことが多々ある.

そんな世代と交流するために、参与観察だ!と言って大学に入学するのは難しいので、インターンに来てもらって事務所の時間や食事、お施主さんとの打ち合わせを共することで、気づいたことを共有してもらうのはとても豊かな時間だと思う.


そういう想いを、ちゃんと学生さんに伝えた上で、僕にとっても学生さんにとってもwin-winになるように時間を共有することがとても大事だと思う.

僕からは、学生では経験できない、
・実際のお施主さんと話を聞く
・フィールドワークやヒアリングから組み立てていくプランニングの方法
・人を巻き込んで行う施工ワークショップ
・建築の実務のことや設計事務所のリアル
なんかをシェアしているし、自分が感動したこと、失敗談、成功体験、今の考えに至る経緯、必見の名建築なんかを惜しげもなくシェアしてる.

手間をかけて、シェアすることで、僕にとってのメリットがもう一つあると思っている.

僕は学生時代、物事を深く考えすぎて同世代の友達が少なかったし、あまり話が合わなかった。だけど、大学を休学して通った夜間の専門学校では、10歳くらい年上の友だちたちと、建築を学ぶ楽しさを共有し一緒に成長し議論しあえる関係になる事でとても幸せな気持ちを感じた事を今でも覚えている.
その経験が、今建築家として頑張るモチベーションなのだけど、こういう仲間は常につくり続けることが必要だと思っている.

時間が経ち成長するに従って、仲が良かった仲間も様々な考え方でいろんな道に進む、それは全く悪いことではなくていつかまた交われれば最高だ。
でも、今自分を高めてくれる仲間に出会う為に、自分の感動談や経験をシェアし続ける。僕にとってこれはライフワークみたいなもので、その結果新しいスタッフとも出会うことができた.


チームメイトとして

実は僕の妻も、建築は全く知らない人で付き合った当初は興味も全くないようだった.笑

初デートから、そんな人でも楽しめる名建築 藤森照信さんのラコリーナに行ったり、僕の誕生日の食事会には中村好文さんの設計したレストランに行ったり、地道に好きな建築をプレゼンし経験を共有することで、建築の楽しさを理解してくれ僕の仕事にもアドバイスをくれる存在になった.夫婦も家族もチームだと思う.

クラブハリエ ラコリーナ/もはや観光スポットの名建築
鹿の舟 囀(さえずり)/中村さん設計で気軽に行けるお店

一緒に施工してくれる、職人さんや工務店さんもそうだと思う.
同じような価値観を持った人とコラボレーションできることで、最高のパフォーマンスが生まれる。お施主さんもチームメイトなのでそう.
時には一緒に旅行したり、食事を共にして経験を共有することがとても大切.

建築やマチをつくる仲間と視察旅行

スタッフも、一緒に仕事を進める仲間として、入ってもらって1ヶ月は図面を描いたり作業を覚えることを優先するのではなく、事務所で大事に思っていること、現場の空気感を感じてもらうのが大切だと考えた.
そこで研修と称して、現場を飛び回る僕に付きっきりで体感してもらった.

たまたま時期がよく、1ヶ月の間に新規の方の打ち合わせから、リノベーションの実測、敷地調査、新築の図面UP &現地説明、様々な施工現場、竣工引き渡し、竣工パーティ、OBのお施主さんのパーティまで、一通り建築の流れを体感してもらったと思う.

左官ワークショップ/小さなお店だったので現地調査から竣工まで経験してもらえた

さらに、僕の大好きなお寺、京都の蓮華寺にも休みを使って早速行ってくれた.

京都 蓮華寺/ 真行草の精神性のある空間を体感できる美しい建築

今思えば、僕は事務所に入ってしばらくは全体の流れがよくわからず「これでどうやって建築が建つのかな?」って思っていたので、この経験をきっかけにできる事を少しづつ増やして、近い将来は僕の下で働くってだけではなく、共同設計として並列で設計をするって関係性になってくれれば嬉しい.

とても楽しみ.


最後に


最近、目上の方が「低コストだけど相談に乗って欲しい」みたいな感じでアドバイスを求められたり、仕事を依頼されたりすることがある。そして、真摯に対応しても求めてた答えと違ったらしく(僕の問題ではなく法律とか現実的な話)雑に扱われることもある.

目上の方は、自分が生活する環境を作ってくれた人として尊敬する存在だということはもちろん大前提ではあるけど、

人と人の関係は、ギフトの贈り合いである必要だと思う.

お金はないけど、お金以上の工夫のアイディアをもらうということは技術やスキル、経験をその相手から貰うということ.

何かをもらったら、別の何かで贈り返す気持ちが、原始の時代からの変わらない社会関係である.
目上の人に見返りなく育ててもらったから、次の世代を惜しげもなく育てる努力をすることも動物的な理だと思う.

僕は年下に頼むならむしろお金をちゃんと渡すか、格安でお願いするにしてもその人がチャレンジできる環境を用意して、メリットが生まれる状況にしたい.

なので、

▶︎下の世代の人には見返りを求めず、自分が持ってるものを全て共有する。チャレンジしてもらえる環境を作る.

▶︎同世代には、熱い想いを共感しあえたら、無理してでも最大限いい仕事をする.

▶︎目上の人からは、謙虚に学びを受けて、自分がチャレンジさせてもらえる環境を作ってもらえたら、能力以上の仕事でお返したい.

その事をいつも忘れずに年を重ねていきたい.


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