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最大公約数と僕「二等辺三角形」

あらすじ⬇︎

インターン面接に向かうまでの電車で、高校時代ほとんど話したことがなかった高橋と偶然再会する。高橋が京都観光に僕を誘っていたものだとばかり考えていたものの、僕を誘ったのは白川であった。

⬇︎第1話

⬇︎前回

「遅れてごめん!」

高橋は三分遅れで、僕らの待ち合わせ場所へとやってきた。

「全然大丈夫やで」僕がそう声に出そうとする少し前に、「遅れたから、沙良ちゃん、俺とりんりんの二人分アイスおごりな!」と白川は言った。

「え、遅れたんちょっとだけやから許してや!」

「しゃーなしな笑次遅れたら、おごりやで」

白川優位のラリーを観客の僕は見守っていた。

「てか、沙良ちゃんでっかい傘持ってるやん。なんで今日雨降るってわかったん?」

この時には等速でお互いに打ち返しているからか、二人のラリーはノッてきたかのように見える。

「え、だって沙良、大阪の北の方に住んでるから、結構遅めに家出たんよ。家出るときには、いかにも雨降りそうな灰色の雲が見えたから、一応傘持ってきた!」高橋は話す対象によって、一人称を変えるタイプの女性らしい。

「おお、そういうことか!それじゃ俺傘忘れたから、沙良ちゃんのとこ入れさせてもらお」

「りんりんの傘に入れてもらいや!」

「だってりんりん折りたたみ傘で小さいやん。りんりんの傘に入れさせてもらうの申し訳ないわ」

「私には申し訳なくないんかい笑てか、りんりんうちらばっかり喋ってごめんなぁ。あ、そやインターンの面接合格おめでとう!」

彼女が気を利かせて、僕の方に会話を投げる。

「え、りんりんもう、インターン始めてるん!?早いな!」

「ありがとう。まぁ面接とはいえ、かなり簡素な感じのやつやったから、多分入る意思さえあれば、誰でも入れたと思う」

「そうなんや。俺も大学3年やし、そろそろ就活の準備始めなあかんな。てかもう三人揃ったし、そろそろ歩かへん?」

そう言うと、白川は高橋が差した傘に入り、さりげなく彼女が左手で掴んでいた手元を自身の右手に移し替える。

その行為に対して僕と女二人して何も言わず、しかし何らかの感情は持ったであろう。

僕にとってこの感情は心地の良いものではなかったが、彼女は僕と正反対の気持ちになったに違いない。

今だけは彼女の気持ちが手に取るようにわかる気がした。

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「え、清水の舞台全然見えへんやん笑」と僕は久しぶりに喉元から声を出した。

後でネットで調べてみると、清水の舞台がある本堂は五十年に一度の改修工事の真っ最中ということだった。

「そうやで。タイミングめっちゃ悪いよなぁ。でも改修工事は2017年から始まってて、2020年には終わるってことやから、私達が大学卒業するまではずっと工事中みたいやで」と高橋。

「工事終わったら、なんか見た目変わるんかなぁ。まぁこれはこれで滅多に見られるもんじゃないと思うと、逆に風情感じてきたわ」この後半の発言が耳に入った時、僕は白川に勝てないなと思った。

「めっちゃ綾くん発想ポジティブやん。その考え自然と出てくるの羨ましいなぁ」

「ほんまに」

僕はこの相槌を言い終えると、急に雨の総重量が変わったんじゃないかってくらいに、雨が傘を突き抜けたんじゃないかってくらいに、なぜだか心が濡れていることを知覚した。

僕たちはここから二等辺三角形状に配置されたまま、その陣形を崩すことはなかった。

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傾斜が激しい坂を下っていく。アスファルトと人混みが相乗して一帯を熱している。以前京都に来たのは小学生頃だったこともあり、目に入る人たちを構成する過半数は外国人だということに驚く。

欧米人、中国人、韓国人。他にもどこの国か全く検討のつかない人たちも多い。いかにも日本らしい場所が、脱日本化しているなと感じた。そしてそういう発想が頭を巡ったことに酔っている自分に気づき、嫌な気分になった。

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「お、八ツ橋めっちゃ美味そうやん。」

白川は遠慮せず店に置かれた、試食の八つ橋を口に入れる。それに続き、高橋、僕もそれぞれの好みの味の八つ橋を一つ手に取り、その味を堪能する。

この時、柄の悪そうな三人組がこの小さな八つ橋のお土産店に入ってくる。

恐らく大学生だろうか。僕たちが通っていた高校にはいなさそうなタイプの人間だった。夏祭り界における量産系男子とも言えるタイプの人間だった。

筋トレしかすることがないのであろう。一人はピチピチに「GUCCI」と中央配列より上でプリントされている白Tシャツを身に纏っている。

この三人組は白川とは比較できないほどに、それぞれ遠慮なしに五個、八個、十個と八ツ橋を口に入れる。よくもそんな八ツ橋ばかり何個も食べられるなと思う。

しかもそれぞれ缶ビールを流し込みながら、その後すぐに八ツ橋を口にしているのだ。いとをかしな(笑)組み合わせである。

若い女性店員も当初少し当惑した様子を見せたが、試食ぐらいそれほど何個食べられようが、注意するほどではないのであろう。彼らの行動を黙認していた。

ただ、そのうちの一人が店の外でタバコをふかし始めたのだ。

これにはさすがに彼女も注意せざるをえなかった。

恐る恐る(のように見えた)彼女は店を出て、「申し訳ございません。このあたりは路上禁煙と決められているので、ここでタバコを吸うのをやめていただけませんか?」と優しくGUCCIに言った。

ただこの男は物分りが悪いだけではなく、自分を邪魔しようとする獲物を狙っていたかのように、飛びかかるようなやつだった。

その後何かGUCCIが女性店員に言うと、彼女はそれに対して何も言わず、店の中からでも彼女の怯えてる様子が伝わってきた。

そこに店内からもう一人、GUCCIと女性店員の間に割り込んできた。

白川だった。

第六話⬇


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