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恋愛相談

「恋愛の定義?」
「説明してもらえるかな?いや正しくは『好き』と『恋愛』の違いとでも言おうか?」
「なんだそりゃ?どうしたんだ?」
「実は会社の後輩で先月まで男性と付き合っていた子がいるんだ。あ、後輩は男だ。で、別れて三週間。今度は女性と付き合っている」
「うん」
「ほら、今は恋愛対象がどうだとかいろいろ話に上るじゃないか?」
「うん」
「デリケートな話とされているが、そういったものにどう向き合えばいいのかわからなくて」
「キミだって恋愛経験はあるだろう?付き合ったか否かは別として」
「うーん。それがよくわからないんだ」
「さっきも言ったけど、好きと思うことと恋愛はまた別だと思うんだ。そうだな。好きの一部が恋愛」
「恋愛は好きに含まれる」
「うん。そんな感じ…だけど、やっぱりよくわからない」
「例えば、好きな人、好きなものがたくさんある。その中で一番好きな人を思ってみて」
「うん」
「その人を自分のものにしたいと思う?」
「うーん。自分のものというのがよくわからない。だって、自分が自分であるように、彼は彼で誰かのために存在するものではないんだ」
「ふーん。彼、ね」
「あ、うん。まぁ、うん」
「その彼はキミのことを知っているの?」
「うん」
「今の関係は友人?」
「そうだね。僕はそう思っている。彼も僕のことを友人だと思ってくれてたらいいな」
「はい。そこ」
「え?」
「相手にも自分と同じ思いを求めている時点で、それは恋愛だよ」
「え?でも僕は彼とキスしたいとか触れたいとかそういうことはちっとも思ってないんだ」
「恋愛感情がなくてもセックスはできる」
「まぁ…そうだね」
「あ、そこは理解できるんだ」
「そこはね。わかるというか、周りを見ていると、そういう人もいるんだ…とね」
「自分が気持ちよくなりたくてするセックスは恋愛感情がなくてもできるけど、相手を気持ちよくしたい、相手と一緒に気持ちよくなりたいと思うセックスは恋愛感情必要だとボクは思っている」
「うん」
「肉体的な繋がりだけじゃなく、相手を思う気持ちもさ、こちらに向けてくれだけだったら恋愛じゃないよ。それは単なる独占欲だ」
「うん」
「思いだけじゃなく、自分が与えられるすべてを与えたいと思うのもまた恋愛だと思う」
「親は?」
「へ?」
「親も子どもに与えられる全てを与えたいと思っている」
「まぁ、個人差はあるけどね。でも、与えたいと思う理由があるじゃない。『自分はこの子の親だから』『この子は私の子どもだから』」
「つまりそういう理由のない相手に対しての自己犠牲もまた恋愛だということ?」
「ボクはそう思っている。相手に笑ってもらうため。そして自分も一緒に笑顔になるため」
「そういう思いを抱く相手、恋愛対象が限定されるというのは?」
「ん?」
「同性だとか異性だとか…」
「肉体的な繋がりだけでいうならば、単なる性癖だとボクは思っている。背の高い人が好き。ぽっちゃりしている人が好き。胸の大きい子が好き。ショートカットの子が好き。声が低い人が好き。それらとなんら変わらない」
「そう?」
「何度振られても、同じような子を好きになる人もいれば、前の相手とはタイプが正反対の人を好きになる人もいる。同性を好きになる人がずっと同性を求める時もあれば、キミの後輩のように異性を好きになるのもあっても当たり前だと思うよ」
「そう…かもね」
「精神的な繋がりを求める相手だって同じことだよ。相手に与えたいと思うものを相手が受け入れてくれるか?相手がこちらに向けたものを自分は受け取ることができるか?ただそれだけであって。相手に対してこうでなければならないと決めつけるのは、こちらのエゴであり、単に自分の好みを押し付けているだけ」
「そう?」
「もっとも恋愛対象に関しては遺伝子レベルで『好み』があるのだという話もあるんだ。自分の中に足りないものを補うために。それは子どもを残すために必要な野生の勘ともいえるんじゃないかな?」
「じゃあ、繁殖に繋がらない恋愛は無意味?間違い?」
「無意味でも間違いでもないさ。生殖活動と恋愛は絶対的なイコールじゃない。それらが同一線上にある人たちは非常にラッキーというだけだよ」
「彼は?後輩の彼は相手に求めるのが変わっただけ?」
「どうだろう?本当に今は女性と付き合っているのか?前だって、男の人と付き合っていたのか?」
「彼氏がいたのは事実」
「ひょっとして、その後輩のことが好き?」
「違う。ただ以前、彼氏がいることを隠さずに話してくれたのが嬉しいというか羨ましいというか…そんなふうに思っていただけ」
「ふうん」
「すごく嬉しそうに話していたんだ」
「今の彼女の話もしてくれた?」
「店で一緒になった時に、『付き合っている人だ』と紹介されて、紹介されたこっちがドギマギしてしまったんだ。僕と一緒の同僚が『アイツこの間まで彼氏がいたのにもう彼女に切り替えたのか?』って。恋愛って簡単にオンオフ切り替われる思いなのかな?と思ったんだ」
「うん」
「世の中には恋愛沙汰で悩んだり、死んだり、殺したりっていうのもあるだろう?」
「うん。でも、殺したり…は恋愛じゃないんだよね。恋愛だと勘違いしている。自分の思いを押し付けてばかりだから逃げられる。さっきも言ったけど、相手に笑ってもらわなければ、自分ばかりが笑っていたって、それは恋愛ではないと思うんだ」
「うん」
「後輩くんは笑っているかい?」
「あぁ…どうだったろう?覚えてないな」
「ところで、キミはキミの一番好きな相手には告白するつもりはないのかい?」
「告白?」
「キミがその人を好きだと、相手に伝えるつもりはないのかい?」
「…それはない」
「ふうん」
「言葉で伝えなくてはならないほど、重要なことではない」
「そうなんだ」
「うん」
「それにしちゃ、苦しそうな顔をしているよ」
「そう?」
「うん」
「そうか…」
「ボクでよければいつでもこんなふうに話してくれて構わないよ」
「…ありがとう」
「甘いココアでも飲もうか?淹れてくるよ」
「ありがとう。君の淹れてくれるココアが好きだ」
「嬉しいね。特別なんだ。誰にでも淹れるものじゃない。一緒に飲んで一緒に笑っていたいと思う相手にしか淹れないんだ」

「え?」
「そういうことさ」