「Tinder」について考える。
ついこないだ、夜な夜なYouTubeを観ていたんだけど、突然、エモ果汁100%の動画が流れ出して、何事かと思ったら、「Tinder」の動画広告だった。「一瞬で青春。」と銘打つその動画広告はとっくに致死量を超えるエモを含んでいた。
フジファブリックの「若者のすべて」のMVでもいいんじゃないかっていうくらいの、「若者のすべて」っぷりやで。
もうね、全部入ってる。ネオンカラー、手書きフォント、水中空間、ロン毛のサブカル男、1975みたいなアンニュイなサウンド、ワンナイトラブ、二人乗りのバイク、などなど、2分に混ぜ込んでいい量じゃない。「WAVES」の予告編かと思ったわ。
コピーも殺しにやって来る。
「今日出会った人とキスしないまま 大人になるなんてもったいない。」に関してはよくわからない。する方がおかしいと思うけど、これ、間違ってる?
まぁ、世界観に引き込まれてしまったんだよ、とにかくな。世界観で選ぶマッチングアプリグランプリがあれば堂々の1位だろうね。
下記のグラフフィックからも分かるように、真面目な付き合いを前提でこのアプリを押し出していない潔さが推せる。こんなブランディングしてるアプリ、他にないからさ。他のアプリは、基本「真面目な出会い」を前提として使ってもらうことを想定してる(はず)。
これが、海外発のマッチングアプリと日本発のマッチングアプリからわかる価値観の違いか、と思った。
こういう価値観が日本でどれだけ浸透するか、はたまた、アプリが使われるかどうかは置いておくとしても、この世界観の醸成っぷりにはかなり面食らった。
特に自分はマッチング反対派で運命信じる派なので、一瞬価値観が揺らぎそうになったけどそこはなんとか深呼吸することで耐えることができました。
去年の9月に渋谷で期間限定でオープンしていた、Tinderをコンセプトとした「SwipeMart」もこの広告と一緒にPRされていたと思うんだけど、かなり話題も獲得できていたみたいだし、さらに、ラッパーのElle Teresaさんのライブも開催されていて、Tinderの世界観にぴったりだな、と思いました。(ライブの演出等は、実際に行ってないからわからないけど)
企業がブランドを伝えるため、だったり商材のプロモーションを目的にアーティストやインフルエンサーを呼んでイベントを開催する場合のキャスティングと演出に関して、どれだけ企業側の世界観に合わせるか、どれだけアーティストの世界観を尊重するのか、そのバランスが割とポイントとなると考えている。
まぁこの話は置いておいて、Elle Teresaさんに関しては、Z世代を主なターゲットとしたTinderのユーザーやアンダーグラウンドな世界観にぴったりだと思うので、個人的にはこの企画にグッときた。
このコンビニと先に紹介したTinderの広告を合わせたプロジェクトを通して、「一瞬で青春。」が示す意味が十分伝わったのではないかな、と思いますが、ここまでは単純に良いコミュニケーションのプロジェクトだな、と思うだけですが、自分が取り上げたいのはここから先。
主に2つ。
一つ目の、「ジェンダー観に関する新たな視点」について。最初に紹介した、動画広告内にも、女性同士が手を繋いで水に飛び込むシーンがある。また、グラフィックの広告でも女性同士が寝ているシーンが切り取られているわけだけど、「男女の出会い」を助けるツールとしてではなく、性的マイノリティも含めた人類全ての出会いを助けるツールとしての「Tinder」という位置づけなのではないかとなって思います。
一応、日本語サイトでは、同性同士の出会いに関しては、友達文脈で発信されているけど、こうしたジェンダー観に関する新たな視点をマッチングアプリに持ち込んでいるのは確かだと思って、感心してしまった。おそらく他のマッチングアプリにはない視点なのではないかな。
気になったので、よくみるサービスの動画広告を調べてみた。
運命よりも確実で有名な「with」では、最近だと女性をターゲットにしているのか、女性同士の恋話のシーンや、いい恋してる女性は綺麗説みたいなあるあるをテーマに描く広告が多かった。
「タップル」は、YouTubeチャンネルで独自のメディアを立ち上げており、モテるテクニックや女性のホンネ、みたいなのをインタビューしてコンテンツに仕上げて動画にして発信してる。ジュキヤの、非過激版みたいな感じ。
「ペアーズ」の最近の動画広告は年末年始に合わせて発信された「『今年こそ』を今年こそ。」がコピーのやつ。これも演者は男女で、デートシーンがメインでした。まぁあとはインフルエンサーやユーチューバーを起用した1時間弱のガチ恋トーク動画もアップされていました。
いずれも、「同性の出会い」については示唆されておらず、Tinderが頭一つ抜けてるな、と思いました。(なんの争い???笑)でもマッチングアプリ側からこうした発信をするのって、ジェンダーに関するムーブメントを起こしていく上ではかなり重要で、なくてはならないことなのではないかと思いますね。この社会背景における明らかな当事者ですし。
これが、一つ目のポイントです。
2つ目は、「同意」に関する発信をしていること。どういうことか、以下のLPを見て欲しい。
NPO法人のmimosas監修の元で発信されたLPです。
「同意」に関して、こんなに深く踏み込めており、かつポップで若者に浸透しやすいデザインで発信できるのは、すごいと思いました。絶対に意識せずにマッチングしてる人もいるし、ユーザー以外でも知らずに間違いを犯している人も多くいると思うし。
もちろん、他のサービスに関してもガイドラインなどで注意喚起を行っているけどわざわざコンテンツLPを作成してまで発信していることはないはず。
落とし所として、性暴力の相談先を提示しているのもかなりの本気度が伝わる。こうした、目を背けたい(はずの)問題にしっかりと向き合っているからこそ、若者からの本質的な信頼や支持を集めることができるんだろうな、と思いました。
まだまだ、こうした問題や同意についての理解が浸透しているは思えないから難しいことなんだろうな、と思いつつもとても大切な取り組みだと思いました。
少なくとも、Tinderは陽キャたちのおもちゃだ、と決めつけていた偏見はとっぱられました。
というわけで、まとめると、こういう世界観の確立や発信に触れたおかげで、数ヶ月の間は、Tinderの動画広告なら許していけるようになった、ということを言いたかったということです。
最後に、僕自身の心に刺さり、心の集中治療室に送られたTinderの広告コピーを紹介して終わりたいと思います。😭
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